セントロメアとサテライトDNA

<サテライトDNA>

多くの真核生物のセントロメアは反復配列に富むが、出芽酵母ではわずか125 bpの非反復型のDNAからなり、線虫では染色体全域が動原体として機能する(これをホロセントリックという)。ヒトのセントロメアは主に171 bpのアルフォイドDNA(α-サテライト)の繰り返しからなる。ヒトではα-サテライトは各染色体の3-5%を占めている。霊長類のセントロメアにはα-サテライトが認められるが、種間、あるいは染色体間で配列は異なっている。マウスのセントロメアは主に120 bpのマイナーサテライトの繰り返しからなり、これはゲノムの約1%を占めている。

哺乳類や酵母、ハエではセントロメアはヘテロクロマチンと隣接している。セントロメアと隣接するDNA領域であるペリセントロメアは、ヒトではα-サテライトが主要なリピート要素となっており、他にサテライト I、II、III、β-サテライト、γ-サテライトやSINE、LINEなどが含まれている。マウスでは234 bpのメジャーサテライトがペリセントロメアの主要な反復配列で、これはゲノムの5~10%を占める。さらにマウスセントロメアにはMS3、ペリセントロメアにはMS4が散在しており、α-サテライトやマイナー/メジャーサテライトがATリッチであるのに対しこれらはCGリッチであり、高度にメチル化されている。MS3、4はそれぞれゲノムの約2%を占める。セントロメア/ペリセントロメアのメチル化は異常な組み替えの抑制に重要である。DNMT3BはCENP-Cと結合でき、これらが失われるとセントロメア/ペリセントロメアのメチル化に異常が生じる。肝癌ではDNMT3Bの変異を一つの原因とするICF症候群と類似したペリセントロメアの低メチル化および染色体異常が認められる。

ヒトX染色体のセントロメアには、中心部に3 Mbほどの、高度に配列が保存されたα-サテライトの同方向のリピートが存在し、その両端には450 kbほどの、配列の保存性が比較的低いα-サテライトのリピートがあり、その中にLINEやSINEが散在している。他の染色体でも同様な傾向が認められる。

組み替えなどにより通常のセントロメアDNAが欠失した場合は、別の場所に動原体が形成され、これをネオセントロメアと呼ぶ。ネオセントロメアの形成に必要な配列上の要件は知られていないが、α-サテライトの存在する場所には生じやすく、これにはα-サテライトのCENP-B boxが関わっている。なおCENP-B欠損マウスでは大きな異常は無く生育可能である。

分裂酵母では、セントロメアから20~25 ntのRNAが双方向に転写され、RITSを形成し、RDRCと共にセントロメアから転写されつつあるRNAと結合し、セントロメアのヘテロクロマチン化を誘導する。分裂酵母ではRNAiパスウェイの阻害はペリセントロメア領域の脱ヘテロクロマチン化を誘導し、セントロメア同士の接着を損なう。哺乳類では、siRNAでは無い他の何らかの型のRNAがペリセントロメアのヘテロクロマチン化に関わっている。

ヒトのα-サテライト数個をまたぐ転写産物は動原体(キネトコア)の構成要素となっており、それは間期におけるCENP-C、INCENP、Survivinのセントロメアへの集積、及びセントロメア特異的なnucleoproteinの核小体への集積に必要である。核小体はα-サテライトRNAやセントロメアタンパクなどをM期まで保持する役割も持っている。ストレス下において、HSF1はnuclear stress granuleでサテライトIIIのPol IIによる転写を促し、その際生じたRNAはM期においてもそこに局在し続ける。サテライトIII RNAはスプライシング因子SF2/ASFやSRp30cをリクルートする役割を有している事が報告されている。一部のサテライトIIもHSF1により転写が促進される。ヒトの様々な癌でα-サテライトやサテライトIIの発現増加が認められており、それらの発現増加はLINE1の発現増加とも相関する。α-サテライトDNAとペリセントロメア(CCAT)N配列は細胞膜下のcytoplasmic membrane associated DNA(cmDNA)中にEnrichしており、さらに前者がそこで転写されている事も示唆されている。

マウスのセントロメアからはマイナーサテライトが120 ntほどのRNAが両方向に転写され、転写産物はセントロメアに局在する。この転写産物を強制発現させると染色体分配に異常が生じ、異数体となる。この時siRNAの存在は認められていない。ペリセントロメアのメジャーサテライトからはembryonic tissueでは5 kb程度の転写産物が生じるが、pancreatic ductal adenocarcinoma(PDAC)では発現レベルが増加しており、さらに転写産物長が100 b ~ 5 kbとなっている。M期のマウスペリセントロメアでは、γ-サテライトから200 ntのRNAが発現する事が報告されている。メジャーサテライトに結合する転写因子として、Pax3/9、YY1が報告されており、Pax3/9はリプレッサーとして作用しペリセントロメアのヘテロクロマチン化に必要である。セントロメア/ペリセントロメア領域のH3K9me2、3修飾にはSuv39h1、2、H3K9me1修飾にはPrdm3、Prdm16が関わっている。

BRCA1の欠損はサテライトDNAの発現増加を通じて中心体の増加や染色体異常を引き起こす事が報告されている。BRCA1の欠損はヘテロクロマチンの脱凝縮を起こさせ、マウスではマイナーおよびメジャーサテライト、ヒトではα-サテライト、サテライトIIIの発現を増加させる。これにはBRCA1によるH2Aのモノユビキチン化が関わっており、モノユビキチン化H2Aの強制発現はBRCA1の欠損により現れる表現型をレスキューする。モノユビキチン化H2Aはヒトでもマウスでもセントロメア/ペリセントロメアにEnrichするが、BRCA1の欠損はこれを損なう。

<動原体>

動原体はinner centromere、inner kinetochore、outer kinetochoreの三層構造を有し、inner kinetochoreとouter kinetochoreの実体はそれぞれCCAN(constitutive centromere-associated network)とKMN network(KNL、Mis12複合体、Ndc80複合体を含む事からこの名がある)である。セントロメア特異的なH3バリアントであるCENP-Aは動原体の形成に関わる他の様々なタンパク質のリクルートに重要である。CENP-Aを含むヌクレオソームは正のsupercoilingを示す。CENP-AはG2期に合成され、DNA複製非依存的に取り込まれ、その効率的な取り込みにはCCANの機能とヒストンシャペロンHJURPが関わっている。CENP-Aのセントロメア選択的な局在にはCENP-Aの分解制御も重要である。CENP-Aはその重要な役割にも関わらず種間の保存性は低い。CENP-AでないH3を含むヌクレオソームもセントロメアに散在しており、H3K4me2修飾を特徴的に有している。このH3K4me2修飾はHJURPのセントロメアへの局在とCENP-Aの取り込みに重要である事が示唆されている。

CCANにはCENP-C、CENP-H/I/K、CENP-L/M/N、CENP-O/P/Q/R/U、CENP-T/W、CENP-S/Xが含まれる。CENP-A、B同様、CENP-C、T、WはDNA結合能を有する。CENP-T/WはH3含有ヌクレオソームに結合する。CENP-NはCENP-A含有ヌクレオソームに結合する。CENP-TはNdc80複合体と、CENP-CはMis12複合体と結合できる。CENP-Hを欠くと、CENP-C/T/W以外のCCAN因子の局在が損なわれ、微小管の+端のターンオーバーが促進されるが、動原体の機能は保たれる。


  • 最終更新:2013-02-13 15:03:26

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