ホルモン機能覚え書き

プロオピオメラノコルチン(POMC)はいくつかの切断部位を持ち、切断部位に応じてACTHやLPH、β-エンドルフィン、メラニン細胞刺激ホルモンなどが生成される。下垂体前葉ではACTHとβ-LPH、下垂体中葉ではα-MSH、CLIP、γ-LPH、β-エンドルフィンが合成される。

視床下部の下垂体前葉に対するホルモン分泌は、視床下部の底部にある正中隆起の血管網から下垂体門脈を通じてなされる。一方下垂体後葉からは視床下部に細胞体を持つ神経において合成されたバソプレシン(抗利尿ホルモン)や射乳作用を持つオキシトシンが合成される。バソプレシンは腎臓での水分の再吸収を促す他、下垂体でACTH分泌を促す役割も持つ。循環血液量が増加すると心肺部圧受容器がこれを検出してバソプレシンの分泌を抑制する。循環血液量が少ない時はその逆が起こる。

視床下部から下垂体前葉に働きかけるホルモンにはCRH、GnRH、TRH、GHRH、ソマトスタチン、ドーパミンなどがある。CRH(corticotropin releasing hormone : ACTH放出ホルモン)は、AVPを共に分泌するCRHニューロンで合成される。AVPはCRHのACTH分泌作用を増強する。GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン、LHRH、黄体形成ホルモン放出ホルモンとしても知られる)はLHとFSHの分泌を促す。プロGnRHからはGnRHだけでなく同時に、プロラクチンの分泌を抑制するGAPも産生される。TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)はTSH(甲状腺刺激ホルモン)とプロラクチンの分泌を促進する。視床下部から下垂体に分泌されたドーパミンはプロラクチンの分泌を抑制する。

下垂体前葉には少なくともGH、PRL、ACTH、TSH、およびFSH/LHを分泌する五種類の細胞が存在している。GHは成長を促し、除脂肪体重を増加させる他、軟骨細胞の増殖を促進させたり、心筋細胞のアポトーシスを抑制したりする。GHはまた急性的にはインスリン様の作用を発揮するが、慢性的にはインスリン作用に拮抗する。逆にインスリンは急性的にはGHに対する細胞の反応性を増加させるが、慢性的なインスリン刺激はGHに対する反応性を減少させる。GH受容体(GHR)を介した作用は、JAK/STAT、MEK/ERK、PI3K/Aktなどにより伝達される。STATファミリーのうちGHにより活性化されるものはSTAT1、3、5で、特にSTAT5が主要な作用の担っている。性依存的なGHの分泌パターンによる肝臓の性差の制御にはSTAT5が重要な役割を担っている。GH依存的な体の成長や脂肪の分解の促進にもSTAT5が重要である。GHR/JAKはIRSを介してPI3K/Aktを活性化させる他、Shcを介してERKの活性化も誘導できる。さらにGHはEGFRやErbB2(EGFR2)との相互作用を通じてもERKの活性化を誘導できる。PRLは催乳作用の他、性腺におけるステロイドの産生や卵胞の成長の促進、および黄体維持作用を示す。ACTHは副腎皮質の糖質コルチコイドと副腎アンドロジェンの合成を促す。糖質コルチコイドはヒトやイヌ、ハムスター、トリではコルチゾールが主なもので、ラット、マウス、ウサギではコルチコステロンが主なものである。糖質コルチコイドは糖新生を促進し、肝臓以外の細胞ではアミノ酸やグルコースの取り込みを抑制し、血糖値を上昇させる。腎尿細管への作用を通じてはNa+の貯蔵とK+の排出を促進し、ビタミンDと拮抗してCa2+の吸収を阻害する。カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)やアンジオテンシンIIの血管収縮作用に対する許容作用も示す。甲状腺ホルモンは脳やリンパ節などを除く多くの組織で酸素消費量を増加させる。心臓からは心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌を促進させる。甲状腺にはカルシトニンを分泌するC細胞も存在する。カルシトニンは破骨細胞の機能を抑制して血中Ca2+濃度を低下させる。甲状腺の後面に存在する上皮小体からはPTH(parathyroid hormone、副甲状腺ホルモンまたは上皮小体ホルモンと呼ばれる)が分泌され、これは骨、腸、腎に作用して血中Ca2+濃度を増加させる。

副腎髄質からはカテコールアミン(アドレナリンとノルアドレナリン)やエンケファリンも分泌される。カテコールアミンは副腎髄質に特徴的なクロム親和性細胞において合成され、肝臓に対しては糖新生を促進させる他、β細胞に対してはインスリンの分泌を抑制させる副腎髄質から分泌されるアドレナリンは収縮期圧の上昇と拡張期圧の低下を引き起こし、結果として平均血圧はほとんど変化させないが、同じく副腎皮質から分泌されるノルアドレナリン(ヒトではほとんどアドレナリン)は収縮期圧と拡張期圧のどちらも増加させる。副腎髄質から分泌されるこれらの物質は神経終末から分泌されるそれに対して作用時間が長い。なお副腎を摘出しても循環系には大きな変化は認められない。

アドレナリン受容体β2の持続的な刺激は、Gs-PKA依存的にDNA傷害を引き起こさせ、さらにβ-arrestin-1依存的にp53の分解を誘導しDNA傷害を増悪させる事が報告されている(Hara et al., 2011 #420)。

心房と一部の心室筋細胞から分泌される心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide : ANP)は、血液量の増加による心房壁の伸展によりその分泌が促進され、血管平滑筋に直接作用してこれを弛緩させる他、腎に作用してNa+の排泄を増加させる。

腎臓の傍糸球体細胞から血中に分泌されるレニンは肝臓で産生された血中のアンギオテンシノーゲンからアンギオテンシンIを産生させる。これはさらに肺などの血管内皮細胞に分布するアンギオテンシン変換酵素によってアンギオテンシンIIに変換される。アンギオテンシンIIは血管を収縮させ、副腎皮質からアルドステロンを分泌させる。アルドステロンは腎臓でのNa+の再吸収を増加させる。レニンの分泌は、腎血量や遠位尿細管の尿中のCl-(またはNa+)濃度、および腎臓を支配する交感神経の興奮により調節される。

  • 最終更新:2013-02-13 15:07:00

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