ミトコンドリア

ハエやラット、およびヒトの肝臓や繊維芽細胞において、加齢に伴うミトコンドリア数の減少と大きさの増加が報告されている。また、特に心筋や骨格筋、神経などの非分裂組織において、大きさが増してATP産生能が低下したミトコンドリアが蓄積していく事が知られている。このようなミトコンドリアではクリステ構造も損なわれている。mtDNAやタンパク質、脂質の酸化傷害も増加する(Lopez-Lluch et al., 2008 @ Passarino et al., 2010)。Polgの変異によりmtDNAの変異が促進されたマウスではROSや酸化傷害に変化は認められていない(Trifunovic et al., 2005)。これらのミトコンドリアの加齢変化には、ミトコンドリアの分裂が減少する事や、オートファジーによるミトコンドリア分解の減少が関与している可能性がある。哺乳類の培養細胞では、血清を取り除いた際に変異を持つmtDNAを含むミトコンドリアが優先的にオートファジーにより破壊される事が報告されている(Gu et al., 2004 @ Mammucari & Rizzuto, 2010)。

ミトコンドリア外膜のタンパクであるCISD2を強制発現させたマウスでは平均寿命と最大寿命が延長される(Wu et al., 2012 #340)。このマウスでは皮膚や筋肉、神経系の老化の抑制が認められ、ミトコンドリア機能の低下も抑制する。逆にCisd2を欠くマウスでは寿命が短縮しており、8週齢頃には早老が認められる(Chen et al., 2010 #502)。このマウスでは皮膚の早老や皮下脂肪の減少、神経や骨格筋の異常などが起こる。Cisd2の発現は正常な加齢に伴い低下する。

加齢に伴いミトコンドリアの融合や分裂も影響される。ミトコンドリアの融合を司る分子として良く知られているものには、GTPaseであり外膜の融合に重要なMfn1とMfn2、および同じくGTPaseで内膜の融合に重要なOpa1がある。ミトコンドリアの分裂を司る分子として良く知られているものには、ダイナミンファミリーのGTPaseであるDrp1と、主にDrp1のミトコンドリア外膜上へのリクルートに機能するFis1がある。他に、MTP18、Bif1、GDAP1、DAP3などがミトコンドリアの分裂に必要である事が報告されている。

高齢者の骨格筋ではMfn2とDrp1の発現が低下している。FoxO3により誘導される筋萎縮はドミナントネガティブなDrp1を発現させる事で抑制される。また、筋特異的にFis1を抑制したマウスではミトコンドリアの分裂が阻害され、飢餓による筋萎縮の誘導が抑制される(Romanello et al., 2010 @ Seo et al., 2010)。CRは、加齢に伴い発現が低下するPGC1αに加えて、Mfn1およびMfn2の発現もいくつかの組織で増加させる(Nisoli et al., 2005 @ Seo et al., 2010)。PGC1αは、そのターゲットであるERRαと共にMfn2の発現を促進させる。培養細胞においては、Fis1の強制発現による細胞老化の抑制や(Yoon et al., 2006 #313)、あるいは逆にFis1の抑制による細胞老化様の変化の誘導が報告されている(Lee et al., 2007 #311)。

パーキンソン病の原因遺伝子であるユビキチンリガーゼをコードするParkin、およびミトコンドリアに局在するキナーゼをコードするPINK1は、協調してオートファジーによるミトコンドリアの分解を促進する。ParkinはPINK1依存的に機能が阻害されたミトコンドリアに選択的にリクルートされる事が報告されている(Narenda et al., 2008 @ Mammucari & Rizzuto, 2010)。また、アルツハイマー病の発症に関わるAβの蓄積は、部分的にDrp1のニトロシル化を通じてミトコンドリアの分裂を起こさせる事で、神経細胞に傷害をもたらす。




その他の参考文献
Seo et al., 2010 #308
Mammucari & Rizzuto, 2010 #309
Passarino et al., 2010 #310
Tandler & Hoppel, 1986 #312


  • 最終更新:2013-02-13 15:08:01

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