海馬

大脳辺縁系の一部である海馬体はアンモン角(狭義の海馬)、歯状回、海馬傍回よりなる構造であり、一般的にはこれらを併せて海馬と呼ぶ。海馬には、主には嗅内皮質から歯状回の顆粒細胞に入力があり、それら顆粒細胞から伸びる苔状繊維がアンモン角CA3部の錐体細胞に刺激を送る。CA3部から伸びるSchaffer側枝繊維はCA1部へ刺激を送り、さらにそこから海馬台を通って脳の各所に刺激が送られて行く。このCA1部の神経は海馬の中で特に興奮性神経毒に対する感受性が高い。他にも様々な入出力があるが、これが基本的なネットワーク構造であるとされている。海馬内での抑制性の連絡が加齢に伴い減弱し、それに伴い神経が興奮しやすくなる。アルツハイマー病では海馬に連絡を送るマイネルト核と内側中隔核のコリン作動性ニューロンが脱落している。これらの細胞は海馬内でのθ波と呼ばれる脳波の形成に関わっている。

海馬の最も良く知られた機能は陳述記憶の形成への関与である。記憶のメカニズムには長期増強(LTP)が関わっている。歯状回顆粒細胞とCA1錐体細胞のLTPはNMDA受容体依存的に起こるが、CA3錐体細胞のLTPはNMDA非依存性である。

海馬歯状回顆粒細胞下層(SVZ)では神経の新生が一生を通じて起こっており、記憶に関与するものと考えられているが、その新生は加齢に伴い減少する。海馬における神経前駆細胞の増殖を正に制御する因子にはWnt、Notch、EGF、FGF-2、IGF-1、性ホルモンがあり、負に制御する因子にはTGFβ-1、グルココルチコイド、鉱質コルチコイドがある。また神経前駆細胞の分化を正に制御する因子にはWnt、VEGF、GABA、IGF-1があり、負に制御する因子にはNotch、EGF、BMPがある。海馬のアストロサイトでは、他の多くの領域同様GFAPの発現量の増加や肥大化が認められるだけでなく、Wntの発現が低下する事が示されており、それが神経前駆細胞内でSurvivin(IAPファミリーに属する)の発現を低下させ結果的に増殖を抑制させている事が報告されている(Miranda et al., 2012 #349)。

老齢マウスの海馬では、恐怖条件付けに伴うH4K12アセチル化レベルの一過的な上昇が抑制されており、かつ恐怖条件付けに伴う遺伝子発現変化が損なわれる(Peleg et al., 2010 #77)。HDAC阻害剤を投与すると恐怖条件付けに伴うH4K12のアセチル化と遺伝子発現の応答が回復し、認知機能も改善する(Peleg et al., 2010)。

老齢マウスや、老齢マウスと循環系を共有させた若齢マウスで発現が増加するサイトカインとしてCCL2、CCL11、CCL12、CCL19、Haptoglobin、B2Mが同定されており、少なくともCCL11は神経の新生や恐怖条件付けの学習の低下などに寄与する事が示されている。CCL11の増加はヒトでも認められている(Villeda et al., 2011 #426)。




その他の参考文献
Miller & O' Callaghan, 2005 # 351
Varela-Nallar et al., 2010 # 352


  • 最終更新:2013-02-13 15:09:05

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