アポトーシス

アポトーシスは、細胞内小器官の膨潤、細胞の縮小、DNAの断片化、そしてマクロファージや近隣細胞による貪食処理という過程を経る制御された細胞の死であり、周辺の組織に炎症を起こす事無く細胞の除去が行われる。哺乳類において、アポトーシスのシグナル経路には大別してデスレセプターを介するものとミトコンドリアを介するものがある。

アポトーシスの実行を開始させるものは、カスパーゼと呼ばれるプロテアーゼである。カスパーゼは不活性な状態で産生され、部分的な切断を受けると活性化される。哺乳類がもつ14種類のカスパーゼのうち、カスパーゼ2、8、9、10、及び専らこれらのカスパーゼによる切断を受けて活性化されるカスパーゼ3、6、7がアポトーシスに関わっており、他は主に炎症に関わっている。カスパーゼ3、6、7はカスパーゼ2、8、9、10よりも通常豊富で活性も強く、エフェクターカスパーゼとも呼ばれる。アポトーシスシグナルはApaf1やFADDのようなデスアダプタータンパクのオリゴマー形成を促す。このオリゴマー形成がさらにプロカスパーゼを集合させ、そこでカスパーゼ同士の切断が起こり活性化される。

カスパーゼの活性は主にカスパーゼ自身の切断によって調節されているが、タンパク量レベルでの制御によってもアポトーシスの感受性が調節されている。過剰なE2F1の存在やpRbの欠損はカスパーゼレベルの上昇を招く。p53はカスパーゼ6、10の転写を促進する。Aktによるカスパーゼ9のリン酸化はその活性を抑える。活性化カスパーゼに結合してその機能を抑制したり分解を誘導するタンパク質群IAP(Inhibitor of Apoptosis Protein)も存在する。IAPにはXIAP、c-IAP1、c-IAP2、Survivinが含まれる。IAPもまたカスパーゼによって切断されうる。アポトーシスシグナルに応じてミトコンドリアから放出されるDIABLOはIAPの機能を抑制する。

デスレセプターとして良く知られているものにはTNFR1、Fas、 TRAILレセプター(DR2、DR3)が、これらはそれぞれTNF、FasL、TRAILをリガンドとする。リガンドが結合するとこれらデスレセプターはアダプターなどを引き寄せDISC(Death inducing signaling complex)を形成しアポトーシスを誘導する。またデスリガンドに結合してその機能を抑制するデコイレセプターとして、FasLと結合する可溶型のDcR3、及びTRAILと結合するDcR1、DcR2、OPGが存在する。

TNFはFasLやTRAILよりも多様な制御に関わっており、必ずしもアポトーシスを誘導しない。TNFRにはTNFR1と2があり、前者はユビキタスに発現しているが、後者の発現は免疫細胞に限られ、膜に結合したTNFのみを認識する。TNFR1にTNFが結合すると、TNFR1に結合していたSODD(Silencer of death domain)が解離し、代わってTRADDがリクルートされる。TRADDはさらにTRAF2やRIPKをリクルートする。TRADDとRIPKは共に膜から離れてアダプター分子であるFADDを介してカスパーゼ8を引き寄せ、アポトーシスを誘導する。一方でTRAF2はIKKをTNFR1複合体にリクルートし活性化させる。IKKは次いでIkBをリン酸化し分解に導き、NF-kBが活性化される。JNK経路もTRAF2を通じて活性化される。NF-kBはカスパーゼ8を抑制するFLIP-LやIAPの転写を活性化するなど、アポトーシスを抑える方向に働く。従ってTNF1によるアポトーシスの誘導は他の様々なシグナル経路と連絡を取っているNF-kBシグナルの応答性によって調節されている。ここまで述べた機構以外にも、TNFR1はRIPKと結合するRAIDD(CRADD)を通じてカスパーゼ2をリクルートする事でもアポトーシスを誘導できる。

FasLがFasに結合するとFADDを介してカスパーゼ8がリクルートされ、アポトーシスが開始される。このときカスパーゼ8によるBidの切断を介してミトコンドリアからDIABLOが放出される事がアポトーシスに必要な場合がある。Fasを通じたアポトーシスはT細胞による細胞死の誘導や、自己抗体産生細胞の除去にも関与している。

TRAILレセプターが活性化された場合には、FADDを介してカスパーゼ8、10、及びFLIPがリクルートされる。FLIPはカスパーゼ8インヒビターで、TRAILを通じたアポトーシスをネガティブに調節している。TRAILはTRAF2とRIPKを通じて弱くではあるがNFkBを活性化できる事も示されている。

デスリガンドによるアポトーシスの誘導以外にも、細胞は自発的に自身のミトコンドリアの膜透過性の制御を介してアポトーシスを誘導できる。ミトコンドリアの膜透過性を制御するBcl2ファミリーは以下の三つの種類に分けられる。一つはBcl-2、Bcl-XL、Bcl-wなどを含み、これらは膜透過性の上昇を抑え、アポトーシスを抑制する。Bak、Bax、BokよりなるBH123タンパク群と、Bid、Bad、Bim、Puma、Noxaを含むBH3-onlyタンパク群は共に膜透過性を上昇させる働きがある。ただし、BH3-onlyタンパク群によるアポトーシス誘導はBH123タンパク群に依存して機能する。Bakはミトコンドリア外膜に存在し、Baxはアポトーシスに際してミトコンドリア外膜に移行する。Bakの一部はVDAC2に結合しその機能が抑制されている。BH123タンパク群は外膜にVDAC、内膜にANTをもつ孔の形成を促すか、他のVDAC様のタンパクを介して外膜に孔を形成させて膜透過性を高める。膜透過性が向上したミトコンドリアから放出され、アポトーシスを誘導する分子群にはシトクロムc、DIABLO、AIF、endoGなどがある。シトクロムcはApaf1との結合を通じてApoptosomeと呼ばれる複合体を形成し、カスパーゼ9を活性化させる。DIABLOはIAPの機能を抑制する。AIFはカスパーゼとは独立にアポトーシスを誘導する事が示唆されているが、詳細なメカニズムは明らかにされていない。endoGはアポトーシスにおけるゲノムDNAの断片化を行う酵素である。

アポトーシスの実行には、ERからのCa2+の放出が必要である場合がしばしばある。この時ERから放出されるCa2+はミトコンドリアに取り込まれる。シトクロムcはER上のInsP3レセプターに結合しCa2+の放出を促し、放出されたCa2+はミトコンドリアからの更なるシトクロムcの放出を促す。BaxやBakはER上にも存在する事が報告されており、Ca2+の放出の制御にも関わっている可能性が考えられている。

p53はBax、Puma、Noxa、Apaf1、Fasなどの転写を促進する。またp53は直接的な結合を通じてBcl-2とBcl-XLを抑制し、逆にBaxは活性化させる。AktはBadをリン酸化して機能を抑制する。Badはまた14-3-3との結合によっても機能を阻害される。

カスパーゼ3やカスパーゼ9の欠損、あるいはBak/Baxの二重欠損マウスにおいては重篤な表現形は認められないが、一方でFADDを欠損させた場合には、胎生致死となる。FADDの欠損はRIPKの作用を通じミトコンドリアにおけるROSの産生が増加させるなどしてネクローシスを誘導する。

プログラムされたネクローシスをネクロプトーシスと呼ぶ事がある。ネクローシスを起こした細胞はHMGB1やHSP、ヒストンなどの、DAMPs(damage-associated molecular patterns)と呼ばれる物質を放出し、それにより他の細胞の増殖を促し組織中の細胞の補充を制御する事がある。



他の参考文献
Jin & El-Deiry, 2005 #277

  • 最終更新:2013-02-13 14:11:16

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