細胞外マトリックス

細胞外マトリックスの大部分はコラーゲンによって占められる。大動脈のように、エラスチンが60%を占めるような例外的な組織もある。繊維性コラーゲンは67 nmの周期性横紋をもつ細繊維を形成する。繊維性コラーゲン分子は幅1.5 nm、長さ約300 nmのヒモ状の形態を示す。少なくとも22種類のコラーゲンタンパク質がこれまでに見つかっており、それぞれ同種あるいは異種の分子と会合して細胞外マトリックスを構築している。その中でI、II、III、V、XI型の5種がコラーゲン細繊維を形成している。I、III、V型は骨と軟骨以外の一般結合組織に分布する。II、XI型は主に軟骨に分布する。コラーゲン分子のα鎖は粗面小胞体で合成され、これが三本集まってプロコラーゲンとなる。α鎖には糖が付加されるが、一旦ヘリックスを形成された後は糖が付加されない。プロコラーゲンの形成にはHSP47と呼ばれる特異的なシャペロンが関与している。分泌されたプロコラーゲンはCプロテアーゼとNプロテアーゼによる修飾を受けトロポコラーゲンになり、これが多数会合してコラーゲン細繊維を形成する。コラーゲンの会合においては、両端ともN末端側を外に向けている。すなわちどこかでは分子の配向が逆転しているはずである。コラーゲン繊維の直径は構成するコラーゲン分子種とその構成比率によって決定される。一般的に幼弱組織ほど細いコラーゲン細繊維が多い。III型コラーゲンの前駆体であるpNIII型コラーゲンとV型コラーゲンはN末端に大きな非コラーゲン性ドメインをもち、その立体的な障害により側方の会合を抑制する。pNIII型コラーゲンのN末端部位は細繊維に取り込まれた後Nプロテアーゼにより切断されていく。V型コラーゲンを多く含む細繊維には分岐と吻合が多く見られる。コラーゲン細繊維の末端の少なくとも一部は、基底板に終止しているものと考えられる。組織内のコラーゲン細繊維には微量なコラーゲン分子種も含まれている。会合体を形成しないIX、XII、XIV型などがあり、FACIT(Fibril Associated Collagens with Interrupted Triple helices)コラーゲンと呼ばれている。これらはコラーゲン細繊維に接着する部分とN末端側に細繊維から突き出た部分からなる。FACITコラーゲンは塩基性を帯びた非コラーゲン性ドメインを有しており、グリコサミノグリカン鎖を持つものもある。

弾性繊維は中心部分のアモルファスなエラスチン部分とその周囲を取り巻く微細繊維から構成されている。成熟した弾性繊維ではエラスチンが9割を占めている。微細繊維の主成分はフィブリリンで、他にMAGP、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、アミロイドP、VIII型コラーゲンなどが含まれている。弾性繊維の生成においてはまず微細繊維が平行に配列した束が形成され、その中心部にエラスチンが沈着していく。このエラスチンの沈着は細胞の表面で起こって行く。エラスチンはトロポエラスチンと呼ばれる72kDの分子として合成され、分泌された後リジルオキシダーゼにより開始される一連の反応を通じて架橋されていく。微細繊維とエラスチンの間にはEmilin(GP-115)と呼ばれるタンパク質が介在している。弾性板は基本的に基底板には存在しない。成熟した細胞外エラスチンは高度に不溶性で極めて安定であり、代謝回転は極めて低い。加齢に伴い皮膚ではエラスチンの断裂や減少が起こる。

フィブロネクチンは細胞外マトリックス中の主要な糖タンパクで、血漿中にも見いだされる。フィブロネクチンはそのRGD配列を介してインテグリンと結合できる。

ラミニン三つの長く延びたポリペプチド鎖が互いに結合し、縦長の十字架を形成する。基底膜の主成分であり、IV型コラーゲン、ヘパリン、インテグリンと結合できる。

プロテオグリカンは共有結合でグリコサミノグリカン(GAG)と結合しているタンパク質を指す。少なくとも7種のGAG、すなわちヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸I、II、ヘパリン、ヘパラン硫酸、およびデルマタン硫酸が存在する。GAGは二糖で組み上げられた枝分かれのない多糖で、二糖のうちの一つは常にアミノ糖のグルコサミンかガラクトサミンのどちらかである。もう一方はケラタン硫酸を例外としてウロン酸で、グルクロン酸か、そのエピマーであるイズロン酸である。ヒアルロン酸を例外として、O-エステルあるいはN-硫酸の形で硫酸基を含んでいる。それぞれを構成する二糖は、ヒアルロン酸:GlcUA-GlcNAc、コンドロイチン硫酸:GlcUA-GalNAc、ケラタン硫酸:Gal-GlcNAc、ヘパリン:GlcN-IdUA、ヘパラン硫酸:GlcN-GlcUA、デルマタン硫酸:GalNAc-IdUAとなっている。成人の組織では、GAGは一般にゆっくりした代謝回転を示し、その半減期は数日から数週間というオーダーである。GAGとコアタンパク質との結合は通常、キシロースとセリンの間のO-グリコシド結合、あるいはGalNAcとセリン/スレオニンの間のO-グリコシド結合、あるいはGlcNAcとアスパラギンのアミド窒素と間のN-グリコシルアミン結合のいずれかである。

糖鎖伸長過程では、適合した糖ヌクレオチドとゴルジ体に局在する特異的なグリコシルトランスフェラーゼが用いられる。糖鎖伸長の停止は、合成の場所からの移行の他にも、糖の特定の部位に硫酸基を付加する事によっても起こる。GAG合成後にもGalNAc部分への硫酸基の付加やGlcUAのエピマー化が起こる。ヒアルロン酸は胎児組織中の濃度が特に高く、形態形成や創傷治癒において細胞遊走を促進していると考えられる。軟骨中の高濃度のヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸の存在は軟骨の耐圧性に寄与している。コンドロイチン硫酸は軟骨以外にもある種の神経細胞の中にも局在して細胞骨格となっている事が示唆されている。ケラタン硫酸およびデルマタン硫酸は角膜中に存在し、角膜の透光性に重要な役割を果たしている。ヘパリンは重要な抗凝固剤である。プロテオグリカンのあるものは、そのコアタンパク質が細胞膜を貫通している。プロテオグリカンは細胞や核の中にも存在する事が報告されているが、その役割は不明である。

細胞外マトリックス分解酵素は大きくアスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシンD)、システインプロテアーゼ(カテプシンB、H、L、N)、セリンプロテアーゼ(プラスミン、トリプターゼ、好中球エスターゼ、カテプシンG、キマーゼ)、メタロプロテアーゼ(MMP)に分けられる。前二者は酸性側に至適pHをもち、後二者は中性領域に至適pHをもつ。これらは細胞内でも分解を行い得る。一般に組織の細胞外のpHは炎症時でもほぼ中性にあるので、セリンプロテアーゼとメタロプロテアーゼが分解に中心的な役割を果たしていると考えられる。エスタラーゼはプロテオグリカンコアタンパクやフィブロネクチン、I、II型コラーゲン末端非へリックス部、III型コラーゲンへリックス部を切断する。この酵素は重合したコラーゲン細繊維の分解に重要な役割を果たす。炎症組織にはしばしば肥満細胞の浸潤が見られ、トリプターゼとキマーゼが分泌される。これらはコラーゲンは分解しないが、プロテオグリカンは分解する。血漿に由来するセリンプロテアーゼとしてはプラスミンとカリクレインが存在する。これらはα1プロテアーゼインヒビター(α1-PI)とα2マクログロブリン(α2-M)によって阻害される。これらはMMPによって分解され得る。MMPの機能はCa2+依存的である。MMPは潜在型酵素として分泌され細胞外で活性化される。MMPはそのインヒビターであるTIMPによって活性が阻害される。MMPの一部は細胞膜貫通ドメインを持ちMT-MMPと呼ばれる。多くの細胞がMMP産生能を持つが、通常何らかの刺激に応じてのみ産生が行われる。MMP1、3の産生はIL-1、TNFα、EGF、PDGF、bFGF、Ras、AP-1、c-Ets等によって促進される。TGF-βは抑制的に働く。MMP-9の誘導には、NF-kBかSp1も必要である事が報告されている。MMPの活性化にはいくつかのパターンがあるが、MT(Membrane Type)-MMPによるMMP2の活性化など、MMP相互のカスケード機構も存在する。

MMP1、8、13、18、コラーゲンI、II、IIIなどを切断し、生じた断片はgelatinase(MMP2、9)によりさらに分解される。Stromelysin(MMP3、10)はフィブロネクチン、ラミニン、gelatin-I、III、IV、V、コラーゲン繊維、プロテオグリカンを分解する。Matrilysin(MMP7、26)はフィブロネクチンやgelatinを分解する(プラスミノーゲンも基質に含まれる事が示唆されている)。TIMP1はMMP1、3、7、9を抑制する事が知られており、TIMP2は特にMMP2、、TIMP3はMMP2、9、TIMP4はMT-1 MMPやMMP2を抑制できる事が報告されている。

皮膚や骨では加齢に伴ってコラーゲン量の減少が見られる。それが皮膚では弾力性の低下を招き、深いしわやたるみの原因の一つとなる。皮膚の繊維芽細胞を調べるとコラーゲンやプロテオグリカンの産生能力が低くなっている。コラゲナーゼの産生が過剰になり、コラゲナーゼインヒビターの産生は低下する。コラーゲンは小胞体内で合成され分泌されるが、分泌されずに小胞体内で分解されてしまうものの割合が加齢に伴い高まる事が報告されている。肝臓、心臓、腎臓などでは加齢と共に実質細胞が減少し、それを埋めるようにコラーゲン等の細胞外マトリックスが増加していく。量的な変化に加え、質的な変化も起こる。エラスチンのスプライシングの起こり方が加齢に伴い変化する事が示唆されている。フィブロネクチンについても同様である。分子間の正常な架橋が減少し、AGEsなどによる異常な架橋は増加する。

表皮の創傷に死しては繊維芽細胞の活性化が起こり、TGFβによる制御を受けてECMの合成が促進される。また、αSMA(α-smooth muscle actin)を発現するようになり、これは傷口を閉じさせる事に寄与すると考えられる。

がん組織ではコラーゲンの増加、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、MMPs、ヘパラナーゼ、6-O-sulfatase、システインカテプシン、urokinase、lysyl oxidase(LOX)の発現増加などが認められる事が多い。がん組織のコラーゲン繊維は直線状に配列されている。また、がん組織は硬い場合が多く、それにはLOXによるコラーゲン繊維の架橋が関与していると考えられる。低酸素条件はLOX-like protein2の発現を上昇させて組織の硬化を促進させる事ができる。これらのようながん組織のECMの変化は細胞の生存や成長を促し、血管新生も促進させる事ができる(Lu et al., 2012 #435)。

MMP2、3、9、TIMP1は肥満や糖尿病で発現が増加する事が報告されており、このうちMMP2、9、TIMP1の発現増加は高血圧とも相関が認められている(Hopps & Caimi, 2012 #436)。

  • 最終更新:2013-02-13 15:14:35

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