肝臓

<肝臓>

肝臓のもつ代謝や解毒などの機能は肝細胞によって担われている(細胞数では肝臓の約60%、容量で約80%を占めている)。肝臓ではECMは3%を占めるに過ぎない。肝臓の内部には肝小葉と呼ばれるユニット構造があり、そこでは肝細胞が静脈(中心静脈)から周囲に放射状に配列し、その間を類洞と呼ばれる毛細血管が走っている。肝臓には更に門脈と呼ばれる血管が通じており、そこから消化管で吸収された栄養分が運ばれる。門脈血は動脈血と共に中心静脈に向かって類洞を流れて行く。類洞を構成する類洞内皮細胞は特殊な有窓構造を有しており、血液中の物質と肝細胞との相互作用は効率よく行われる。類洞内皮細胞と肝細胞との間隙には星細胞と呼ばれる間葉系の細胞が存在し、類洞圧の調節やビタミンAの貯蔵に関わっている。また、類洞内にはクッパー細胞と呼ばれる肝常在性のマクロファージが存在し、古くなった赤血球や各種有害物質の貪食、除去に関わっている。一方、肝細胞で生成された胆汁は肝細胞同士の間隙にある毛細胆管に排出され、これは門脈に並走する胆管へとつながり十二指腸へと分泌される。門脈周囲では、これと胆管及び肝動脈が揃った「三つ組」と呼ばれる構造が存在しであり、その周辺には繊維芽細胞が集積している。

ほ乳類の肝細胞には多核のものが多く存在する。ヒトの肝臓では、肝細胞核の多倍体化は成人後はほとんど起こらない。一方でマウスでは終生多倍体化が進む。ラットでは12-14ヶ月齢までは進むが、それ以降はほとんど起こらない。なおマウスの肝臓では細胞分裂の頻度はラットよりもずっと低い。肝細胞核の多倍体化は他多くの脊椎動物や鳥類、両生類、魚類などでは認められず、ほ乳類特異的である。肝臓では細胞分裂に伴う染色体異常の発生率が高い。

<肝臓の発生と再生>

肝臓は前腸から発生し、胎児期においては主要な造血組織として機能し、出生前頃から代謝器官として分化成熟する。肝臓原基の肝芽細胞は肝臓の上皮細胞である肝細胞と胆管上皮細胞へ分化し、胎児における肝幹細胞と考えられている。内胚葉性の前腸上皮細胞は、心臓中胚葉からのFGF及び横中隔からのBMPシグナルを受け、それにより肝臓への運命決定がなされる(マウスではE8.5日頃)。Dlk1やEpCAMなどが肝芽細胞のマーカーとして同定されている。一方、成体の肝臓にもそうした細胞の存在が示されており、ラットやマウスではオーバル細胞と呼ばれている。胆管の中に肝細胞の前駆細胞が存在する事が示されているが、これと一般にオーバル細胞と呼ばれている細胞との関係ははっきりしていない。胚葉を越えて多くの臓器形成時に細胞を未分化状態に保つSox9は、肝臓では胆管細胞に限局して発現しており、成体においてはこのSox9+細胞が肝細胞を供給している。部分肝切除(partial hepatectomy : PH)により誘導される肝再生ではこのSox9+細胞の再生への寄与は小さいが、メチオニン、コリン欠乏食などにより誘導される肝再生では大きな寄与を示す。なお肝臓の再生は全ての脊椎動物で認められ、再生に際して肝細胞の脱分化は起こらず本来の機能を維持する。肝芽細胞はSox9を発現しておらず、供給元が生後シフトするようである。オーバル細胞は胆管と肝実質細胞間隙を結ぶCanal of Heringから移動してきて増殖する事が示唆されている。オーバル細胞はそれぞれ肝実質細胞と胆管細胞のマーカーであるALBとcytokeratin 19を発現する。

AAF/PHはラットではオーバル細胞を増殖させるがマウスでは増殖させない。ラットAAF/PHモデルではEpCAMがオーバル細胞のマーカーになる。DDC食を与えたマウスではCD133+がマーカーになる。通常のマウスでも、CD13+、CD49f+、CD133+としてオーバル細胞をEnrichする事ができる。

IL-6を欠く細胞ではオーバル細胞の反応性が減弱する。アルコールによる肝硬変に際してのオーバル細胞の活性化にはヘッジホッグシグナルが関与しているようである。活性化されたオーバル細胞ではIFNγシグナルに関連する遺伝子の発現が上昇しており、INFγを欠く細胞ではオーバル細胞の反応性が減弱する。TGFβは肝細胞ではアポトーシスを引き起こすがオーバル細胞ではそのような作用は認められない。TGFαの欠失もオーバル細胞の反応を弱める。繊維化のプロセスに関わるCTGFはTGFβにより発現が促され、それもオーバル細胞の増殖・分化に重要である。TNFファミリーのリガンドであるTweakを強制発現させたマウスではオーバル細胞の増殖が過剰になる。またTweakと協調して働くFn14を欠損させたマウスではオーバル細胞の増殖は抑制される。間葉系細胞によるFGFシグナルの刺激も増殖の促進に重要である事が示唆されている。

肝芽細胞については、E13 ラットのRT1A-、OX18 low、ICAM1+画分に含まれる事、E13.5のマウスのCD45-、TER119-、cKit-、CD29+、CD49f+/low、またはCD45-、TER119-、c-Kit-、CD29+、CD49f+画分に含まれる事、E11のマウスのCD45-、TER119-、c-Kit low画分に含まれる事、およびE11.5のマウスのEpCAM+、Dlk+画分に含まれる事が示されている。EpCAMの発現はマウスでE13.5で消え、Dlk1はE16.5で消える。CD13はDlk1+画分にEnrichしており、マーカーとなり得るようである。マウスのオーバル細胞特異的に発現する遺伝子としては他にA6がある。また、活性化されたマウスオーバル細胞はSca1を発現するようになる。なお肝実質細胞はEpCAM-、Dlk-で、胆管細胞はEpCAM+、Dlk-である。起源は明らかではないが胎児肝の長期培養から得られたBMEL(bipotential mouse embryonic cell)が確立されている。

肝芽細胞の胆管細胞への分化は門脈周辺で起こり、この領域に見られるシグナル伝達系が関与しているものと考えられる。そのようなものにTGFβやNotchがある。IL-6のレセプターのサブユニットであるgp130を欠損するマウスは肝臓機能の成熟が不十分であり、このシグナル経路が肝臓の成熟に関わっているようである。

部分肝臓切除(partial hepatectomy : PH)を行うと、残存した細胞が分裂増殖して、肝臓は元の大きさに戻る。この場合は肝臓の幹細胞は再生にあまり寄与しないようである。一方、慢性的な肝障害時における再生には幹細胞の関与も示唆されている。PHにより誘導される肝再生に関わる遺伝子には、主にサイトカイン、成長因子、そして代謝に関わるものがある。再生の進行はPriming phase、Proliferative phase、Termination phaseの三段階に分けられる。損傷後、DNA複製のピークはマウスでは36時間後に訪れるが(ラットではもう12~16時間早い)、その後のM期への進行は一日の決まった時間にしか起こらず、概日周期の制御を受けている。肝実質細胞の中でもzoneによって増殖の速さは異なる。NPCの増殖はやや遅れる。静止期にある細胞のPriming phaseへの進行には主にサイトカインが関わっていると考えられている。LPSはクッパー細胞や肝星細胞を刺激し、TNFαやIL-6を分泌させる。これらはNFkB、STAT3、AP1、CEBPβを活性化させ、それらがfos、myc、jun、metの発現を促進させる。TNFαやC3a/C5aは主にNPCに作用しNFkBを活性化させると考えられ、IL-6は肝実質細胞に作用してSTAT3を活性化させると考えられる。SCFや(Stem cell factor)やOSM(oncostatin M)もIL-6のように再生に際して肝実質細胞でSTAT3を活性化させているようである。LPSはTLR4-MyC88を通じてNPCを刺激すると考えられるが、TLR4KOマウスでも再生は損なわれていない。肝実質細胞の増殖にはEGF、HGFが関わるが、TGFαはEGFRの基質でもある。TGFαは肝実質細胞自身によっても産生される。TGFαを強制発現させたマウスでは肝細胞が過剰に増殖し癌を発症する。30% PHではサイトカインなどの発現変化は起こるが再生が起こらず、HGFやTNFαに先立って発現するEGFRの基質の一つであるHB-EGFを導入してやると再生が促進される。HGFやTGFαではこのような効果が見られない。HB-EGF KOマウスでは70% PH後には再生が起こるが、その進行は遅れる。Ras-Raf-MEK-ERK1/2経路はHGF、TGFα、TNF、IL-6などによっても制御され、これらの異なるシグナル間のクロストークの場になっている事が考えられる。なお、再生に際してS期に入った細胞の全てがM期に進行する訳ではなく、再生後では多倍体の細胞の割合が増える。

一度始まった再生がどのように停止していくのかは明らかになっていない。IL-6により発現が促されるPAI(plasminogen activator inhibitor)がpro-HGFの切断を抑制したり、同じくIL-6により発現が上昇するSOCS3がSTAT3を抑制するなどのネガティブフィードバックが関与している可能性がある。

増殖を始める細胞は若いラットでは95%以上であるが老齢では70%程度に留まる。ラットにアミノ酸のmixtureを投与すると肝細胞の増殖が促される。S6 KOマウスでは肝臓の再生は損なわれる。ラパマイシンによってもPH後のDNAの複製が損なわれる。

<肝癌(HCC)>

HCCは男性で女性の2~4倍生じやすい。アルコールは中程度であればHCCのリスクには寄与しないようである。ほぼ全てのHCCは肝硬変や肝繊維化の見られる肝臓で発生する。肝硬変において見られるDysplastic nodules(DN)は前癌状態と見なされている。HCCが成熟した肝細胞から由来するのか、幹細胞あるいは前駆細胞から由来しているのかははっきりしていない。

肝細胞が肝炎やアルコールにより繰り返し傷害されると門脈域の限界板を越えて繊維化が小葉の中まで進展する。繊維化が増悪すると通常の小葉構造が破壊され、肝細胞は再生結節と呼ばれる異常構造を作り、肝硬変と呼ばれる病変が生じる。肝硬変では門脈血流が停滞して、門脈圧の上昇を引き起こす。この繊維化過程では肝星細胞(伊藤細胞)が重要な役割を果たす(ECMの産生など)。繊維化が進行すると、内皮細胞の下に基底膜構造が形成され、シヌソイド(有窓の類洞)が毛細血管化し、肝細胞の機能障害を起こしてさらに繊維化を増悪する。

正常な肝臓ではゆっくりとテロメアが短縮していくが、chronic liver diseaseを持つヒトでは速く進む。ヒトではテロメアの長さは一年に50-120bp短縮する(ただし中年以降はあまり変化しなくなる)。肝臓、特に肝硬変を起こした肝臓の肝細胞でもSA-β galにより染色されるものがあるが、これはテロメアの短縮化と相関する変化である。肝硬変を起こした肝臓ではINK4Aやp21の発現も増加している。肝細胞においてTRF2を欠失させるとテロメアにγH2AXが蓄積し、テロメア同士の融合が増加するが、p53の増加は起こらず、肝細胞の機能も保持される。

p53はHCCの約30%で変異が認められる(ウイルスや化学物質などの影響により地域によって異なる)。INK4Aの変異は珍しいが、メチル化による抑制は5割程度について認められる。INK4A、INK4B、RB1のいずれかが影響されているHCCは全体の83%にも及ぶ。HCCの8~9割でテロメラーゼ活性が上昇しているが、そのメカニズムは不明である。しかしながらHCCのテロメアは通常よりも短い。ただし3'オーバーハングは長くなっている事が多い(全体の40%)。p16のメチル化は正常部分よりもDNで、DNよりもHCCを伴うDNで高い。多くのHCCではEGFの発現が亢進している。EGFR阻害剤のGefitinibはHCCを抑制できる。IGF-2Rの発現亢進も多く認められ、プロモーターの低メチル化をしばしば伴う。HCCの~7割程度でIGF-2RのLOHが認められる。HGF受容体であるMETの発現亢進もよく認められ、これは特に細胞の浸潤能の獲得に重要なようである。増殖関連の遺伝子がHCCで発現が亢進している一方で、肝臓特異的な遺伝子の発現は低下する傾向にある。HCCのゲノム不安定性は初期の段階で獲得される形質のようであるが、LOHは肝臓ではあまり見られないようである。Wnt経路の活性化もよく見られるが、APCの変異は多くなく、ただしβ-cateninの変異は多い。

  • 最終更新:2013-02-13 15:12:34

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