2.1 神経系

<脳における細胞レベルの加齢変化>

認知能の加齢変化については、エピソード記憶が影響を受けるが、意味記憶、短期記憶はそれほど低下しない。個々の神経レベルでは、その種類毎に多様な変化が認められる。ニューロンは原則として生後分裂増殖せず、ヒトの場合生後約3年経った後では死ぬまで存在し続ける。構造レベルでは、加齢に伴い灰白質が若干萎縮するが、各領域でのニューロンの数は変化がないようである。ある研究では、30〜50歳の間は容積で年毎に0.1〜0.3%/の減少が認められ、70歳を越えるとペースが早くなっており年毎に0.3〜0.5%の減少を示す事が報告されている。チンパンジーではこのような減少は起こらない(Sherwood et al., 2011 #425)。脳の重さの加齢変化を調べた別の研究でもほぼ合致する結果が得られている。ただし上記のニューロンの数は合計数についてであって、細胞体の比較的大きな錐体細胞などは全体的に減少するが、小型の顆粒細胞や介在ニューロンは逆に増加している事が報告されている。一方、アルツハイマー病では前脳基底部のマイネルト核のアセチルコリン含有ニューロンが著しく減少する。

形態の加齢変化については、一部のニューロンで樹上突起の退縮、軸索の変性、細胞体の膨潤化などが認められる。ニューロンに比べ、グリア細胞はより大きな加齢変化を示す。数については、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトとも増加する。ミクログリアの反応性も高まる。オリゴデンドロサイトによる神経突起のミエリン化は減少する。ヒトにおけるニューロンの神経伝達速度は加齢に伴い低下する。ラットで有随繊維と無随繊維を分けて調べると、前者でのみ神経伝達速度が低下しており、神経の脱随化が神経伝達速度の低下の原因の一つと考えられる。神経伝達物質に関しては、アセチルコリン、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンやその受容体、合成酵素などが減少していくものが多いようである。ニューロンにおけるCa2+の放出/取り込み制御にも変化が認められる。遅い軸索輸送の機能も低下する。

脳では加齢に伴い異数性の細胞が増加する。4ヶ月齢と28ヶ月齢のマウスの大脳で1, 7 14, 15, 16, 18, 19, Y染色体の本数を調べた解析では、特に7, 18, Y染色体について、主にニューロン以外の細胞で異常が存在している事が報告されている(Faggioli et al., 2012 #361)。小脳ではこれらの変化は認められない。

<アルツハイマー病>

老年期(65歳以上)における、ニューロンの変性を伴う痴呆の進んだ状態は老年痴呆と呼ばれる。痴呆症は主に動脈硬化による脳血管性痴呆とアルツハイマー病に大別される。アルツハイマー病患者では、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれる不溶性のタンパク質がニューロンの間隙に蓄積して老人斑が、加えてニューロン内に神経原繊維変化が認められる。これらの変化は特に大脳皮質連合野、海馬、扁桃体などに良く見られる。並行してこれらの領域でニューロンが減少するが、その細胞死の原因は良くわかっていない。

APPを神経細胞に強制発現させた場合には、Drp1のニトロシル化を通じてミトコンドリアの断片化を引き起こしシナプス傷害を生じさせる(Seo et al., 2010)。

膜タンパクであるAmyloid precursor protein(APP)がα切断パスウェイを経て切断されるとp3と呼ばれる小さな断片が生じ、β切断パスウェイを経て切断されるとAβが生じる。後者のパスウェイにおいて、APPはまずBACEによる切断を受け、細胞外に遊離するsAPPと膜中の残存部分を生じ、さらにその残存部分が膜中のγ-secretaseによって切断されAβが膜外に遊離する。Aβには長さの異なる種類のものがあって、Aβ42は特に疎水性が高く蓄積しやすい。神経原繊維変化とはpaired helical filaments(PHF)と呼ばれる異常な繊維の束の蓄積で、主に異常にリン酸化された微小管結合タンパク質tauから形成されている。アルツハイマー病の原因遺伝子としては、PS1、PS2、APOE4、APPが知られている。このAPPの変異はトータルのAβ産生を増加させたり、Aβ42の産生比率を上昇させるものが含まれる。PS1は膜タンパクで、γセクレターゼ複合体の一部で、Aβ42の産生比率を増加させる変異がアルツハイマー病と関連している。

なおAPOE遺伝子はヒトではAPOE2、3、4の多型が存在し、それらを有するヒトはLDL濃度が低い/中程度/高いという特徴がある。超長寿者にはAPOE4を持つヒトは少なく、APOE2を持つヒトが多い。



その他の参考文献
新老年学 第三版、大内尉義、秋山弘子、折茂肇/編集、2010、東京大学出版会

  • 最終更新:2013-02-13 10:12:04

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