2.2 内分泌系

<ホルモン分泌の加齢変化>

ヒトで加齢に伴い減少するホルモンはGH(成長ホルモン)、IGF-1(インスリン様成長因子1)、T3(トリヨードチロニン)、レニン、アルドステロン(軽度)、DHEA、DHEA-S、テストステロン、エストラジオール、(女性)、インヒビン、レプチン、カルシトニン、メラトニン、増加するホルモンはプロラクチン(軽度)、黄体刺激ホルモン、FSH(卵胞刺激ホルモン)、PTH(副甲状腺ホルモン)、ノルエピネフリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、変化しないものはT4(チロキシン)、ACTH(副腎皮質ホルモン)、コルチゾール、抗利尿ホルモン、グルカゴンである。GHRHに対するGHの反応も低下するが、GHRHの投与によってGHのレベルを元のレベルに戻す事はできる。GHレベルの加齢に伴う低下には活動量の低下や体脂肪率の増加が関与している。IGF-1レベルの低下はGHレベルの低下によるもので、肝のGHに対する応答の変化によるものではないと考えられる。T3、T4はクリアランス、分泌とも減少している。肝臓や腎臓におけるT4からT3への転換も減少している。トータルでT4レベルに変化は無いが、T3レベルは低下する。

<メラトニン分泌の低下>

松果体から分泌されるメラトニンは抗酸化作用をもち、ヒトでは夜間に多く分泌されるが、高齢者ではそれが低下している。マウスにメラトニンを投与すると健康が促進され寿命も約20%延びる事が報告されている。

<PTHおよびエストロゲン分泌の変化とカルシウム代謝>

血中Ca2+濃度は高齢者でも変化が無いが、それを上昇させる働きを持つPTHは60歳代以降増加する。一方低下させる働きを持つカルシトニンは減少する。特にカルシウム負荷後のカルシトニンレベルの上昇が減少する。これらの変化はCa2+摂取の効率を低下させ、骨から血中へのCa2+の移動を促進させている可能性が考えられる。エストロゲンはPTHの作用を抑制し、骨から血液へのCa2+の移動を抑制する。閉経後の女性ではエストロゲンレベルが低下するので、PTHの抑制が解除され、Ca2+の血中への移動が促進されて骨量が減少する。

<レニンおよびアルドステロン分泌の変化と体液量の調節>

ヒトでもラットでも、ACTHやグルココルチコイドの血中値は加齢によって変化しない。一方鉱質コルチコイドであるアルドステロンの血中値は低下する。これにより腎臓でのナトリウム及び水の再吸収が減少し、尿量が増える。アルドステロンレベルの低下にはレニンの血中値の低下が関わっている。腎臓の傍糸球体細胞から分泌されるレニンは、肝臓から産生されるアンギオテンシノーゲンのアンギオテンシンIへの変換を促す。アンギオテンシンIは肺毛細血管によりアンギオテンシンIIに変換される。アンギオテンシンIIは副腎皮質からアルドステロン、脳下垂体からはバソプレシンの産生を促す他、血管平滑筋細胞に作用して収縮を促す。

ただし、アンギオテンシンIIは局所にはむしろ加齢に伴い増加する事もある。アンギオテンシンIIはNADPHオキシダーゼを活性化させROSレベルを上昇させる作用も持つ。アンギオテンシンIIの抑制は心臓や腎臓、脳の加齢に伴う傷害の蓄積を低減させる。アンギオテンシンIIのレセプターAT1RをKOしたマウスでは寿命の延長が認められる。

<DHEAおよびDHEA-S分泌の低下>

DHEA、DHEA-Sは副腎や性腺で合成され、それ自身での作用も持つが、性ホルモンや様々なステロイドホルモンの前駆体でもある。これらは20歳代をピークに直線的に減少し、男性では70歳代で20歳代の30%程度となる。

<サーカディアンリズムの加齢変化>

サーカディアンリズムも加齢に影響される。サーカディアンリズムは視交叉上核(SCN)を通じて制御されており、ホルモンに関してはGHやコルチゾールレベルの日内変動を制御している。サーカディアンリズムの加齢変化は主にSCN自身の変化によっていると考えられる。SCNの萎縮や細胞死は認められないが、血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal polypeptide : VIP)やアルギニンバソプレシン(arginine vasopressin : AVP)の発現の低下が認められる(Kawakami et al., 1997 #7; Roozendaal et al., 1987 #8)。SCN機能の変化には、モノアミン系の神経伝達物質の減少が関与している可能性が示唆されている。加齢によっても減少する5-HT、ノルエピネフリン、ドーパミンのレベルを若いハムスターで低下させると、リズムのパターンが老齢化する。またハムスターにおいて胎児のSCNを老化個体に移植するとリズムが若返る。老齢ラットにおいてコルチコステロンの分泌パターンを若齢化させるとインスリン抵抗性が改善する事が報告されている。

皮膚の繊維芽細胞を培養する場合、それが若齢者から採取したものであっても高齢者から採取したものであってもサーカディアンリズムの長さに違いは認められないが、若齢者と高齢者から得た血清は、それを添加した時にサーカディアンリズムの長さに異なる影響を与える事が報告されている(Pagani et al., 2011 #465)。

サーカディアンリズムを司る重要な分子には、明期に活性の高いCLOCK、BMAL1と暗期に活性の高いPER、CRYがある。PERとCRYはCLOCK-BMAL1へテロダイマーにより転写が促され日中発現レベルが増加していき、その発現が一定レベルを超えるとPER-CRYへテロダイマーを形成し、CLOCKとBMAL1の発現を抑制する。CLOCKとBMAL1の発現が低下し、暗記にPERとCRYの発現が低下していくとネガティブフィードバックが解除され、再びCLOCKとBMAL1の発現が高まる。この分子時計は基本的にどの細胞にも存在しているが、SCNは光刺激を受ける網膜からの直接の入力を受け、それに合わせて全身の細胞の分子時計を同期させている。老齢動物では、光刺激を受けた網膜からの連絡に応じたPER1の発現の誘導が顕著に減少している(Davidson et al., 2008 #9)。若い動物でPERの発現を損なわせると、老齢動物において見られるようなサーカディアンリズム制御の光刺激に対する応答の鈍化が認められる(Asai et el., 2001 #10; Weinert et al., 2001 #11)。日中のCLOCKやBMAL1の発現レベルも老齢動物では低下している(Kolker et al., 2003)。BMAL1を欠くマウスでは寿命が短縮しており、サルコペニアや白内障、組織の萎縮などが認められる(Kondratov et al., 2006 #12)。BMAL1を膵島特異的に欠くマウスでは、全身性にこれを欠くマウスよりも耐糖能やインスリン分泌の低下が顕著で、糖尿病を発症する(Marcheva et al., 2010 #301)。

CLOCK-BMAL1はNAMPTの発現を促進させ、またそれにより活性が促進されるSirt1はCLOCKを脱アセチル化しその分解を促進させる。ただし脳ではSCNを含めてNAMPTの発現が報告されていない。Sirt1 KOマウスではサーカディアンリズムに異常が生じている。

<HPA axisの加齢変化>

Hypothalamic-pituitary-adrenal axis(HPA axis;視床下部-下垂体-副腎皮質系)はストレスに応答する主要な内分泌系である。この系では、ストレス情報が統合されている視床下部から、ストレス依存的にCRH(コルチコトロピン放出ホルモン。副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンとも言う)とAVP(アルギニンバソプレシン)が放出され、これらが下垂体前葉からのACTH分泌を刺激し、ACTHは副腎皮質から、主要なグルココルチコイドであるコルチゾールの分泌を促進する。AVPのACTH分泌促進効果はCRHに比べると弱いが、CRHの作用を2~3倍に増強させる。ストレス負荷時にはCRHに加えAVPも同時に産生される。慢性拘束ストレス負荷により下垂体のAVP陽性細胞の数は増える。コルチゾールは視床下部におけるCRH、AVPの分泌を抑え、また下垂体でのPOMCのACTHへの変換を抑制しネガティブフィードバックを形成する。コルチゾールのレセプターにはグルココルチコイド受容体GRとそれより10倍親和性の強い鉱質コルチコイド受容体MRがあり、海馬ではMRが強く発現している。海馬はコルチゾールを敏感に感じ取って視床下部のAVP分泌を抑える。ストレス下でのフィードバックにはGRの関与が強まる。脳内におけるGRの発現レベルは加齢によって減少する。細胞内でコルチゾールを活性化させる11β-HSD1は、GHにより活性が抑制される。このメカニズムを通じ、加齢に伴うGHレベルの低下は海馬へのコルチゾールの作用を促進する。この事は、海馬のニューロンの加齢変化に関係していると考えられる。老齢動物ではHPA axisのネガティブフィードバックの効きにくくなっている。ただし、通常時のグルココルチコイド、ACTHの血中値は加齢で変化しておらず、CRHによるACTHの反応、ACTHによるグルココルチコイドの反応もほとんど変化しない。ある程度のレベルのグルココルチコイドは保護的な作用を示すが、慢性的に高いレベルで存在すると様々な悪影響をもたらす。

過剰なグルココルチコイドは筋の萎縮を招くが、このとき筋ではmTORC1活性の抑制と、FoxOの発現増加が起こっている。腓腹筋で、GRを通じてグルココルチコイドにより制御される遺伝子には、TSCを活性化させmTORC1を抑えるREDD1や、FoxOと協調して働くKLF15が含まれる。ラット骨格筋においてグルココルチコイドによる筋萎縮がより起きやすい速筋繊維優位な腓腹筋や前脛骨筋では、GRの発現レベルが比較的高い(Shimizu et al., 2011 #5)。

その他の参考文献
Smith et al., 2005 # 2
Chahal & Drake, 2007 # 3
Veldhuis, 2008 # 4
Diz, 2008 # 6
新老年学 第三版、大内尉義、秋山弘子、折茂肇/編集、2010、東京大学出版会


  • 最終更新:2013-02-13 10:15:15

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