2.6 骨格筋

<骨格筋の加齢変化>

加齢に伴い、速筋(Type IIa、b、x)、遅筋(TypeI)共に数が減る。萎縮も起こるが、遅筋では比較的軽度である。速筋ではミトコンドリア機能の低下がより顕著であるが、萎縮の程度とミトコンドリア機能の低下の間には相関は認められていない(Picard et al., 2011 #446)。また、速筋特異的にMnSODの発現を損なわせたマウスでは、ミトコンドリア機能は低下するが筋の萎縮は誘導されず、加齢に伴う萎縮にも変化は認められない(Lustgarten et al., 2011)。速筋の萎縮はそれを支配する運動神経の脱落が主要な原因と考えられている。一部の運動神経の脱落に際しては残存する運動神経から側枝が生じて再度神経支配が形成される。萎縮を免れた速筋でも(おそらく神経支配の問題とは独立に)その表現系が遅筋に近づく。

老化に伴う筋繊維タイプの群化も報告されており、これは神経支配を代償する事を通じて起こっていると考えられる。

単一の筋繊維のレベルで見ても、その収縮速度は加齢に伴い低下している。身体活動量は加齢に伴い低下し、disuseは筋量とその機能の低下につながる。ただしdisuseは加齢と異なり遅筋から速筋へと組成がシフトする方向に作用する。また老齢ラットの骨格筋(特に速筋)で、静止状態での細胞内Ca2+濃度の増加が報告されている(Fraysse et al., 2006 #23)。この細胞内Ca2+濃度の増加は成長ホルモンの投与により抑制される。

筋繊維が傷害されると、壊死した筋繊維の筋内膜を足場に筋衛生細胞が筋繊維を再構築していく。活性化された繊維芽細胞や免疫細胞も再生に寄与する。傷害により形成された血腫にマクロファージなどの細胞が侵入し、細胞の残骸や血腫を取り除いて行き、フィブリンとフィブロネクチンがクロスリンクしてprimary matrixをまず形成し、次いで繊維芽細胞が成長因子やECMを産生していき、筋衛生細胞による筋繊維の再構築が促される。傷害を受けた筋肉ではTGFβが強く発現しており、これは筋衛生細胞をmyofibroblastic cellに分化させる作用を有している。その作用機序にはSmad依存的なSK1(sphingosine kinase-1)の発現増加と、その下流のRhoキナーゼシグナリングの活性化が関わっていると考えられる。TGFβはαSMAとコラーゲンIの発現を誘導し、一方でNotch2の発現を抑制する。逆にNotch2の強制発現はTGFβによるαSMAやコラーゲンIの発現誘導を抑制する。加齢に伴っても筋の繊維化が進み、さらに脂肪も蓄積していく(Serrano & Munoz-Canoves, 2010 #572)。

筋衛星細胞の増殖、分化に関係する転写因子であるMRF(Myogenic Regulatory Factors)であるMyoDやMyogeninの(タンパク)発現レベルも加齢に伴い減少する。Idタンパク(Inhibitor of differentiation)の発現は上昇する(Alway et al., 2002 #24)。Idは筋衛星細胞の増殖を促進するが、分化を抑制する可能性が考えられる。Idを過剰に発現したマウスでは筋肉が萎縮する。

老化した筋衛生細胞ではNotch ligand(Delta)の発現が低下しており、これは筋衛生細胞の増殖能の低下に寄与している(Conboy et al., 2005 #20)。NotchシグナリングはSmad3の活性化も抑制しており、TGFβによるINK4A、B、p21の発現増加やMyoDの発現抑制を阻害する(Carlson et al., 2008 #573)。骨格筋におけるERK活性の低下もNotchシグナリングの抑制に関わっている。また、筋衛生細胞が局在する筋内膜におけるTGFβの量も加齢に伴い増加する(Carlson et al., 2009 #575)。血清中のTGFβも加齢に伴い増加する(Carlson et al., 2009 #574)。カノニカルWntシグナリングの亢進も起こっており、それは筋衛生細胞をfibrogenicな細胞への分化を促進させている(Brack et al., 2007 #21)。Wntシグナリングの活性化は加齢に伴う補体であるC1qの血中濃度の増加によっている。C1qはFrizzledレセプターに結合しWntシグナリングを活性化させる(Naito et al., 2012 #350)。老齢マウスの筋衛生細胞におけるNotchシグナリングの抑制やWntシグナリングの亢進は若齢マウスとのパラビオーシスによりある程度抑制される(Conboy et al., 2005 #20; Brack et al., 2007 #21)。老齢マウスの骨格筋では筋衛生細胞の数も減少するが、これには老齢マウスの筋繊維から発現されるFGF2の増加が筋衛生細胞のG0期の維持を損なう事が関係している。p27の発現は老化した筋衛生細胞で低下している(Chakkalakal et al., 2012 #380)。なお、若齢者と高齢者に由来する初代培養筋前駆細胞ストックについて、増殖能や分可能などに差異は認められない事が報告されている(Alsharidah et al., 2013 #577)。他に高齢者の筋衛星細胞では、抗酸化能の低下や静止状態の細胞内Ca2+濃度の増加、及び膜流動性の変化も報告されている(Fulle et al., 2005 #22)。




その他の参考文献
Degens, 2007 # 19


  • 最終更新:2013-02-13 10:21:22

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード