2.8 脂肪

<脂肪組織の加齢変化と炎症>

脂肪細胞は栄養状態に応じてその数や大きさが調節される。大きさに関しては内臓脂肪よりも皮下脂肪の方が変化しやすい。脂肪細胞は脂肪を貯蔵するだけでなくアンジオテンシンII、レプチン、アディポネクチン、(GHに応答して)IGF-1などのホルモンも産生する。脂肪組織には炎症性の因子を放出する能力を持つ多量の脂肪前駆細胞が存在する。脂肪前駆細胞は脂肪組織中の細胞の15-20%を占めている。脂質やIGF-1などは脂肪前駆細胞の増殖を促進する。脂肪前駆細胞はToll-likeレセプターを発現しており、自然免疫応答を示す。遺伝子発現パターンに関して言えば、脂肪前駆細胞は脂肪細胞よりもむしろマクロファージに近い。老齢個体の脂肪前駆細胞は増殖能と脂肪細胞への分化能が低下しており、TNFαやIL-6などの炎症性サイトカインやECM分解酵素の発現が上昇している。脂質毒性に対する感受性も高くなる。脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化にはPPARγとC/EBPαの協調した作用が重要であるが、それらの発現は老化した脂肪組織では減少している。TNFαはCUGBPの活性やCHOPの発現を促進し、これらはPPARγやC/EBPαの発現を抑制する。脂肪前駆細胞の加齢変化は皮下脂肪でより顕著である。

<脂肪組織の老化と肥満>

肥満と老化は、慢性の軽度の炎症や、インスリン抵抗性、細胞老化様の表現系、異所性の脂肪の蓄積といった共通性をもつ。肥満マウスにおいては、脂肪組織で顕著にROSの産生レベルが増加しており、これはNADPHオキシダーゼの発現の増加を伴っている(Furukawa et al., 2004 #27)。加齢に伴って認められるのと同様に、肥満個体の脂肪組織ではadipogenicな転写因子の発現が低下し、炎症性の因子の発現が増加している。一方で、肥満個体においては脂肪細胞の大きさが増大しているのに対して(重度の肥満では脂肪細胞の数も増加する)、中齢期から高齢期にかけては脂肪細胞は小さくなっている。また、肥満個体では脂肪細胞のターンオーバーが促進されており、組織中にはマクロファージが移行してきているが、加齢に際してはむしろ脂肪前駆細胞が炎症に強く関与している。肥満による脂肪細胞の遺伝子発現変化も、若齢-中齢間の遺伝子発現変化とあまり相関しない。

<脂肪細胞の細胞老化>

Agoutiの過剰発現により肥満を誘発させたマウスの脂肪組織ではp53や炎症性サイトカインの発現増加、およびSA-β-Galの発現増加などが認められる。高脂肪・高ショ糖食により肥満を誘導したマウスの脂肪組織でもp53やp21の発現増加が認められるが、これは脂肪組織(およびHSC)特異的なp53の欠損により抑制される。p53の活性化を抑制させた場合、サイトカインやSA-β-Galの発現も抑制される他、インスリン抵抗性も改善される。p53を発現させた場合にはこれらの逆が起こる。テロメラーゼを欠損させたマウスでも高脂肪・高ショ糖食の負荷によるインスリン抵抗性の誘導が促進されており、SA-β-galやp53、p21、および炎症性サイトカインの発現増加も認められる。糖尿病に罹患したヒトの内臓脂肪でも、糖尿病でないヒトの内臓脂肪に比べて高いレベルのSA-β-gal、p53、p21、および炎症性サイトカインの発現を示した(Minamino et al., 2009 #31)。

マウスの脂肪/脂肪前駆細胞、および脂肪前駆細胞では加齢に伴いDicerの発現が低下する(Mori et al., 2012 #360)。これに伴い多くのmiRNAの発現が低下している事がマウスの脂肪組織で確認されている。マウスでは1ヶ月齢から6ヶ月齢の間に顕著な変化が認められる。CRはこれらの変化を抑制する。Dicerを欠く脂肪前駆細胞はアポトーシスや細胞老化を起こしやすくなっている。

スピンドルチェックポイント制御に関わるBubR1の発現レベルが低下した変異マウスでは骨格筋や脂肪組織の老化が促進され、両組織でINK4AやARFの発現が増加している。これらの表現形はINK4Aの欠損によっては抑制されるが、ARFの欠損によっては逆に悪化する(Baker et al., 2008 #28)。

<脂肪の分布変化>

ヒトでは脂肪の量は中齢期には増え、その後老齢期においては減少する。また脂肪の蓄積場所も、皮下から腹腔内(intra-abdominal)にシフトする。骨髄、筋肉、肝臓などにも脂肪の蓄積が認められるようになる。筋衛星細胞や骨芽細胞、軟骨芽細胞、マクロファージなどは老齢個体では不完全ながら一部が脂肪細胞様の細胞に分化する(Mesenchymal Adipocyte-like Default : MAD)。マウスやラットでも同様のシフトが認められる。この変化はGH/IGF-1シグナル抑制に伴う長寿命マウスでは遅れて起こる。褐色脂肪細胞の数はマウスやヒトで加齢に伴い減少し、機能面に関してもインスリンや脂質に対する反応性の低下が認められる。



その他の参考文献
Tchkonia et al., 2010 #29
Kirkland et al., 2002 #30


  • 最終更新:2013-02-13 10:23:40

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