3.2 ゲノムDNAの損傷と修復

<DNA傷害の種類と要因>

DNAの傷害を引き起こす要因としては、ROS、UV、化学物質、ウィルスなどが挙げられる。DNAの傷害はいくつかの種類に分けられる。DNAのN-グリコシド結合が切断されて塩基が外れ、糖-リン酸の結合はそのまま残って生じるAbasic site(apurinic or apyrimidinic sites(AP))は哺乳類の一つの細胞の中で一日当たり5〜20万カ所生じている。プリン塩基(アデニン、グアニン)の方がN-グリコシド結合が弱く、APが生じやすい。APは主に加水分解により生じるが、ROSによっても、あるいはBERの中間産物としても生じる。チミン以外の塩基からアミノ基が外れる脱アミノ化反応もDNAの傷害の一種である。メチルシトシンに脱アミノ化が起こると、正常な塩基であるチミンを生じ、このチミンが異常なのか、それともそれと噛み合ない相補鎖の塩基が異常なのか細胞には区別できず、変異の元になりやすい。メチル化されていないシトシンの場合は、脱アミノ化によりウラシルが生じ、これはDNAには含まれない塩基なので細胞はこれを認識し修復する事ができる。最もよく見られる脱アミノ化反応はメチル化シトシンからチミンへの変換で、哺乳類では細胞当たり一日100〜500カ所で起こっている。ヒトの遺伝病で見られる点変異の1/3はG-C対からA-T対への変化である。DNA鎖の切断による傷害には、二本鎖共に切断されるDouble strand break(DSB)とSingle strand break(SSB)がある。Cyclobutane pyrimidine dimers(CPDs)はUVにより生じる主なDNA傷害である。これは同一の鎖内で隣接したピリミジン同士の共有結合で、チミン同士の結合が最も良く見られる。CPDは比較的修復を免れて蓄積しやすい。他にも多様な塩基へのダメージがあるが、その中で最も多いものが8-oxo-dGである。8-oxo-dGはアデニンとも塩基対を形成できるため、修復されないとG-C対からT-A対への変化を起こす。修復がなされやすくても結果として変異が蓄積しやすい傷害は癌を促進する。一方で、比較的強いストレス応答を惹起するDSBは細胞死や細胞老化につながりやすい。

加齢に伴いDNA傷害の発生頻度を増加させる可能性のある要因の一つとしては、加齢に伴う葉酸(ビタミンB9)の減少(Herrmann et al., 1999 #285; Choi et al., 2003 #284)が挙げられる。大腸における葉酸レベルの減少は、チミジンの合成を抑制し、結果的にウラシルの合成促進につながる。これによりウラシルのゲノムDNA中への誤った取り込みが増加し、速やかに正しく修復されなかった場合には変異の元となる。葉酸レベルの減少には加齢に伴う腸内細菌叢の変化が関連している可能性がある。共生細菌の投与により葉酸レベルを回復させた報告もある(Strozzi & Mogna, 2008 #286)。加齢に伴う腸内細菌叢の変化については人種や地域により異なると考えられ、多様性が増すという点を除いて、一般化できる特徴は見いだされていない(Tiihonen et al., 2010 #283)。

上記のような多様なDNAの傷害に対応する為に、細胞には複数のDNA修復機構が備わっている。

<ミスマッチ修復>

変異やDNA複製に際しての誤った塩基の取り込みにより生じるミスマッチはミスマッチ修復機構(MMR)により修復される。MMRは相同組換えに際して生じるミスマッチや、DNA複製の際の塩基の取り込みの過剰や不足により生じるループ部分(Insertion/Deletions Loops : IDLs)の修復にも関わっている。MLH1-PMS2よりなるMutLと、MSH2-MSH6よりなるMutSαあるいはMSH2-MSH3よりなるMutSβが協調してMMRが行われる。MutSαは単塩基のミスマッチの認識に優れ、MutSβはIDLsの認識に優れる。修復に際しては新生鎖が認識され、そこに含まれる塩基が誤ったものとして取り除かれる。MMRに関わる因子の発現や活性がどのように制御されているのかは良く調べられていないが、DNA複製と協調して機能するメカニズムは明らかにされている。ミスマッチに結合したMutSはMutLをリクルートし、ATP依存的にミスマッチ部位からずれてゆき、その後PMS2のエンドヌクレアーゼ活性がMutSα、PCNA、RFC、ATP依存的に活性化され、ミスマッチの両側に切れ込みが入る。その後MutSにより活性化されたEXO1によって切れ込みに挟まれた新生DNA鎖が分解される。除かれたDNA部分はPOLDとLIG1により修復される。一部のミスマッチは塩基除去修復によっても認識・修復され得る(Kunz et al., 2009 #45)。

<塩基除去修復>

塩基除去修復(BER)はDNAの酸化傷害の修復に対する主要な修復機構である。BERは二つの機構に分類できる。一つはshort-patch BERで、一つの塩基のみが置き換わる。long-patch BERでは2〜13塩基が置き換わる。BERに際しては、まず異常な塩基がグリコシラーゼによって取り除かれ、次いでAPエンドヌクレアーゼによって5'側のリン酸結合が切断される。ヒトではグリコシラーゼは11種類知られており、APリアーゼ活性を有するグリコシラーゼの場合には塩基の除去と同時に3'側のリン酸結合が切断される。Short-patch BERの場合は一塩基の伸長の後、LIG3による連結が起こりBERが終結する。POLB及びLIG3と相互作用するXRCC1はshort-patch BERにおいてニックの形成の後速やかにリクルートされ、BERを進めるための足場としての役割を果たす。XRCC1と結合するPARP1も損傷部位にリクルートされる。PARP1はH1やH2BのPAR化を通じてヌクレオソーム構造を不安定化させる事が報告されており、修復に関わるタンパク質のアクセスを容易にしている可能性が考えられる。Long-patch BERではPCNA依存的にPOLBもしくはPOLDによる2〜13塩基の伸長が起こる。伸長に伴い鋳型DNAからほどける一本鎖DNA部分はFEN1により切断される。その後のDNAの連結はLIG1によってなされる。多くの場合単一のグリコシラーゼを欠損させたマウスは重篤な表現形を示さない。例外は胎生致死となるTDGで、SMUG1とNEIL2については報告が無い。二つのグリコシラーゼOGG1とMUTYHを同時に欠損させた場合には癌の発生率が大きく上昇する事が報告されている。BERに関わるグリコシラーゼ以外の酵素を欠損させた場合は胎生致死となる(Robertson et al., 2009 #46)。

<ヌクレオチド除去修復>

ヌクレオチド除去修復(NER)はDNA二本鎖を歪め転写や複製を阻害するような多様な障害を修復する。NERには転写と共役するTC-NERとゲノムワイドに起こるglobal-genome(GG)NERがある。GG-NERにおいては、まずDNA二本鎖の歪みがXPC複合体によって認識される。XPC複合体はXPC、HR23B、Centrin2からなる。XPCは傷害を受けたDNA部分の、傷害を受けていない鎖に結合する。XPC複合体が直接認識できない程度の歪みを生じる傷害に際しては、DDB複合体の協調によってNERが行われる場合がある。DDB複合体はDDB1とXPE(DDB2)よりなり、これも傷害を受けたDNAに結合する。DDB1-XPEはXPCとXPEをユビキチン化し、前者のDNAへの結合を促進する一方で自身の分解を誘導する。DDB1はまたCSAと結合してCSBをユビキチン化し分解に導く事もできる。XPCの結合に続いて、TFIIH複合体の関与のもと二本鎖がより開かれていき、傷害を受けた鎖の切断が行われる。TFIIH複合体は10個以上のサブユニットを含み、PolIIによる転写開始の制御にも関わっている。転写開始の制御に際してはXPB(ERCC3)のヘリカーゼ活性が機能するが、NERに際しては別のサブユニットであるXPD(ERCC2)のヘリカーゼ活性が機能する。ただしこの時XPBのATPase活性がNERには必要である事が示されている。TFIIHに引き続きXPA複合体の結合が起こり、これはNERに必要であるがその役割は明らかにされていない。DNAの切断は、3'側はXPG、5'側はXPF-ERCC1へテロダイマーによってなされるが、この時どちらの鎖が傷害を受けているものとして認識されているのかは不明である。なおXPF-ERCC1は組換えやテロメアの保持にも関与している事が示唆されている。切断は25〜30塩基程度に渡り、その後POLDもしくはPOLEによる伸長が起こり、LIG3によって連結される。分裂細胞ではこの連結にLIG1もわずかに寄与する。TC-NERでは停止したRNAポリメラーゼが開始シグナルとなると考えられており、CSBやCSAの関与の元で修復が開始される。その後の修復機構は大部分GG-NERと共通していると考えられている。ヒトのマクロファージ、ケラチノサイト、初代培養神経細胞、ラットの筋芽細胞など、一部の細胞ではNERの活性が非常に低い。そのような中でも、一部の細胞ではTC-NERに加え、CSBではなくXPCに依存する修復が起こっている。TC-NERが転写される側の鎖の傷害しか認識しないのに対し、この修復は両方の鎖の傷害を認識する。NER系の異常は後述するTTD、CS、XPなどの早老症につながる。NERはHSCsの維持にも重要である。癌の多発を伴うXPはGG-NERの異常によって起こり、癌の多発を伴わないCSやTTDはTC-NERの異常によって起こる(Nouspikel, 2009 #47)。

<相同組換え修復 : HR>

DSBの修復には相同組換え(HR)と非相同末端連結(NHEJ)が関与する。HRはS期やG2期に起こり、姉妹染色分体を鋳型とする修復である。HRによる修復(HRR)はDSB以外にも、DNAの傷害により停止した複製フォークを進行させるためにも機能する。このとき、リーディング鎖の場合は傷害が修復される場合があるが、それ以外では傷害自体は残存する。HRRに際してはまず一方のdsDNAから部分的に解離し3'端が遊離したssDNAをもう一方のdsDNAの相同な領域に進入させる事が必要で、これはRad51の触媒作用によってなされる。ヒトでは5種類のRad51パラログがあり、それらとRad52、BRCA2が協調して触媒作用が果たされる。Rad52はRPAと結合したssDNAをアニーリングさせる事ができる。3'端が遊離したssDNAを生成する必要がある場合は、MRN複合体やExo1、CtIP、Dna2などがそのプロセスに関与すると考えられている(Li & Heyer, 2008 #48)。

<相同組換え修復 : NHEJ>

NHEJにおいては切断を受けたDNA末端が、場合によっては末端が更に削られた上で連結される。従ってHRRと異なり基本的に配列が保たれない。高等真核生物ではHRRよりもNHEJの方がDSBの修復に対する寄与が大きい。DNA-PKに依存するD-NHEJと、依存しないB-NHEJが存在する。NHEJは通常前者のメカニズムによってなされるが、それが損なわれた場合には後者による修復がなされ得る。B-NHEJはD-NHEJよりも修復速度が遅く、また修復に際して二つの末端の間で短い相補的な配列のアニーリングが起こる事が多いという特徴がある。D-NHEJにおいては、まずKu70とKu80からなるヘテロダイマーが損傷部位に結合し、DNA-PKをリクルートする。Artemis、PNK、TDTによる末端のプロセシングが行われた後、XRCC4、XLFと協調してLigIVによる連結が起こる。Artemis、XRCC4、XLF、LigIVなどはDNA-PKによるリン酸化を受ける。一方B-NHEJにおいてはKu複合体ではなくXRCC1-PARP1が損傷部位に結合し、連結はLigIVではなくLigIIIによってなされる。B-NHEJにはMRN複合体も関与しており、損傷末端のプロセシングを行っているものと考えられる。D-NHEJにおいてKu複合体はライゲーションを促進する役割も持つが、B-NHEJではそれはH1によってなされているようである。マウスにおいてKu80の欠失は早老症を引き起こすが、癌の発症率には大きな変化を起こさない(Mladenov & Iliakis, 2011 #49; Lieber, 2010 #50)。

ショウジョウバエの生殖細胞においては、DSB修復におけるHRの寄与が加齢に伴い大きくなる事が報告されている。この変化が、DNA傷害の起こり方に違いが生じた為に起こるのか、あるいは修復制御に違いが生じている為に起こるのかは不明である(Preston et al., 2006 #282)。

<Faconi貧血>

Fanconi貧血は稀な遺伝疾患で、造血不全の他、低身長や癌化リスクの増大などの症状を呈する。この疾患には13個の原因遺伝子が知られており、それらはまだ十分に明らかにされていないDNA鎖間架橋(ICL)の修復メカニズムに関わっている事が考えられている。Fanconi貧血患者の細胞はDNAクロスリンク剤に対する感受性が高く、ゲノムが不安定化している。

13個の原因遺伝子は三つのグループに分けられる。FA core複合体を形成するFANCA、B、C、E、F、G、L、M(グループ1)はID complexを形成するFANCD2、FANCIのモノユビキチン化に必要であり、これらの下流でFANCD1(BRCA2)、FANCN(PALB2 : partner and localizer of BRCA2)、FANCJ(BRIP1、あるいはBACH1 : BRCA1-associated C-terminal helicase 1)が機能しているものと考えられる。モノユビキチン化はID complexのクロマチンへの結合を促進させる。DNA傷害はFANCD2のモノユビキチン化を増加させる。FA coreのFANCMと、FA coreに含まれるFAAP24は停止した複製フォークに結合する。停止した複製フォークへのID complexの局在にはFA coreの他ATR、BRCA1、γH2AXが必要である。ATRはFA coreとID complexをリン酸化する。

FANCD1(BRCA2)とFANCNはBRCA1、BARD1、RAD51を含む複合体を形成し、FANCJはそれとは別にBRCA1、BARD1、TOPBP1、MLH1、PMS2を含む複合体を形成する。FANCJの役割にはBRCA1との相互作用は不要であるが、MLH1、PMS2との相互作用は必要である(Wang, 2007 #532)。

<ウェルナー症候群>

人の早老症(Progeroid syndrome)にはいくつかの種類があり、その多くはDNAの修復に関わる遺伝子の変異が原因で起こる。

Werner syndrome(WS : ウェルナー症候群)はヒトで5種類存在するRECQヘリカーゼファミリーの一つであるWRNの変異が原因であり、40代頃に心筋梗塞や癌を発症する。RECQへリカーゼファミリーのうち、WRNはエキソヌクレアーゼ活性も有している。平均寿命はおよそ47年であり、年齢依存的に癌を多発するようになる。WS患者は幼少期は正常で、その後正常において見られるような加齢変化の多くが促進されて起こる。成長は10代で止まり、白髪化、脱毛、皮膚の老化、筋萎縮、性腺機能の低下、傷の治りの悪さ、動脈硬化、骨粗鬆症、白内障、糖尿病、癌などが促進されるが、神経系や免疫系では特に異常が起こらない。また、DNAにDouble strand break(DSB)や変異の蓄積などが多く認められるようになる。

同じRECQへリカーゼファミリーに属するBLMとRECQLの変異はそれぞれブルーム症候群とロスモンド•トムソン症候群を引き起こす。RECQLはWRNと相互作用し協調的に作用しており、WRN欠損細胞ではDDR fociへのRECQL局在が促進される(Popuri et al., 2012 #519)。

ブルーム症候群患者では低身長、免疫不全、皮膚の紫外線に対する感受性の上昇が見られ、またWSで見られるよりも様々な種類の癌が発生しやすくなっており、平均寿命は27歳程である。ロスモンド・トムソン症候群患者では多形皮膚萎縮症、骨形成異常、白内障、脱毛、骨肉腫の多発が認められ、癌による死亡を除けば寿命は正常である。

RECQへリカーゼはDNAの複製や相同組換えに関わっており、また相同組換え以外のDNA修復系への関与も示唆されている。WRNやBLMはMRN複合体と結合する事ができ、ATMによるリン酸化修飾のターゲットでもある。また、WRNとBLMは非B型DNA構造を解く事ができる。WRNとBLMはテロメアのT-loopのような構造をほどき、その複製や伸長を助ける役割を有しているものと考えられる。BLMは相同組換えにおいて他には無い役割を持ち、BLMの変異は姉妹染色体交換の異常を生じる。

WRNはstalled replication forkの解消に重要な役割を果たし、WRNを欠損するとDSBが蓄積し、HRが促進される。WRNはstalled replication fociでATRによるリン酸化を受ける。WRNとRPAとの相互作用も報告されている。WRNはATMにより別部位のリン酸化修飾も受けるが、それはWRNのstalled replication fociへの局在に寄与しない(Pichierri et al., 2011 #489)。

WS患者と正常な高齢者から得られる繊維芽細胞は、正常な若齢者から得られるそれに対し、遺伝子発現パターンの変異が非常に類似している。いずれかの比較で変化の認められる遺伝子のうち91%は両者で共通しており、その内の7割については遺伝子発現レベルは正常者に対してWS患者や高齢者で低下している(Kyng et al., 2003 #544)。

<ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群 : HGPS>

Hutchinson-Gilford progeroid syndrome(HGPS : ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)は核膜を裏打ちするラミンAの変異が原因で、平均寿命はおよそ13年で癌の発症は伴わない。HGPS患者では、その発症がWSよりも早く子供の頃から始まり、脱毛、皮下脂肪の減少、骨溶解、関節の可動の問題、ひ薄化(皮膚が薄くなる事)、性成熟や血管系の発達の阻害が起こる。知能は通常正常に発達するが、9歳前後で脳卒中を起こす。ラミンAはラミンCと共にLMNA遺伝子座からコードされており、HGPS患者においてはドミナントネガティブなラミンAの変異により、マイナーなスプライシングバリアントの産生が増す。スプライシング関連因子の中で、SRSF1はこのマイナーなスプライシングを促進し、SRSF6は抑制する事が報告されている(Lopez-Mejia et al., 2011 #457)。この変異型のラミンAはプロジェリンと呼ばれ、核内移行のために必要な一過的なファルネシル化修飾が、取り除かれずに残存するようになっている。プレラミンAからファルネシル化を除き、ラミンAを生成させるZMPSTE24の変異によっても、類似した表現型が現れる。

ヒトでは加齢に伴い、皮膚中の繊維芽細胞やケラチノサイトでプロジェリンの発現がタンパクレベルで増加する事が報告されている(McClintock et al., 2007 #459)。また、ヒト血管平滑筋細胞では加齢に伴うZMPSTE24の発現低下とプレラミンAの発現増加が報告されている。ヒト血管平滑筋細胞では過酸化水素処理によっても、細胞老化と共にZMPSTE24の発現低下およびプレラミンAの発現増加が誘導される(Ragnauth et al., 2010 #460)。複製老化に際してもプロジェリンの発現は増加する。一方H-RASにより早期老化を促した場合にはプロジェリンの産生は増加しない。複製老化を起こしたヒト繊維芽細胞では、ラミンA以外にも多くの細胞骨格関連遺伝子および細胞周期関連遺伝子においてスプライシングパターンの変化が認められている(Cao et al., 2011 #51)。

HGPS患者の繊維芽細胞では、遺伝子発現パターンやエピジェネティック修飾の異常、DNA修復の遅延、次いで核の膨化、核ラミナの厚化、核膜周辺領域のヘテロクロマチンの消失、および細胞老化を起こす。Zmpste24を欠くMEFでもDNA修復の遅延は認められ、これにはラミンAとMofの結合が損なわれる事が寄与している事が示唆されている。Mofはほ乳類における主要なH4K16アセチラーゼで、その欠損はDNA修復を遅延させる事が知られている。Zmpste24-/-MEFにMofを強制発現させるとDNA修復の遅延が抑制される。なおZmpste24-/-MEFではH4AcおよびH4K16Acの低下が認められている。Zmpste24欠損マウスにHDACインヒビターを経口投与すると、寿命の短縮が少し抑制される(Krishnan et al., 2011 #458)。

HDAC活性は核マトリクスにEnrichしている事が知られており、SIRT1もLMNAと相互作用するが、Zmpste24を欠損するとSIRT1の核マトリクスとの結合が弱まる(Liu et al., 2012 #526)。レスベラトロールはSIRT1の核マトリクスとの相互作用を促進させ、Zmpste24-/-マウスの骨髄由来間葉系幹細胞の機能を改善させた。

Zmpste24-/-MEFではATM-Kap1シグナリングが損なわれており、Kap1をKDしておくとDNA修復の遅延と細胞老化が抑制される。正常な細胞ではIR照射後、Kap1のリン酸化が一過的に高まるが、Zmpste24-/-細胞ではその応答が損なわれている。この時、ATMの活性化もZmpste24-/-細胞では損なわれていた(Liu et al., 2012 #517)。

HGPSにおけるものと同様なLMNA変異を有するマウスでは、ATMおよびNEMOによる制御の下NFkBが活性化されており、NFkBの抑制は寿命の短縮をある程度抑制する(Osorio et al., 2012 #413)。

HGPSモデルマウスでは、それから採取したMEFは正常に増殖するが、MAF(mouse adult fibroblast)の増殖は損なわれている。これはLMNAの変異がMAFで、Wntシグナリングの抑制(核内のLef1レベルの減少)を通じてECMの分泌を抑制させている為である事が示唆されている。類似したECMの発現低下がこのマウスの骨でも認められている(Hernandez et al., 2010 #433)。

<その他のヒトの早老症>

Trichothiodystrophy(TTD : 硫黄欠乏性毛髪発育異常症)はDNA修復に関わるTFIIHのサブユニットの一つXPDの変異が原因で、平均寿命はおよそ10年で癌の発症は伴わない。TTD患者では神経障害、筋変性、性成熟の阻害、骨粗鬆症、白内障、皮膚角化、髪や爪の脆化などが認められる。

Cockayne syndrome(CS : コケイン症候群)はDNA修復に関わるCSAやCSB、XPDの変異が原因で、平均寿命はおよそ12-20年で癌の発症は伴わない。CS患者では神経障害、成長阻害、網膜変性、難聴、白内障などが起こり、多くの場合知的障害を伴う。

Ataxia telangiectasia(AT : 毛細血管拡張性運動失調症)はストレスセンサーであるATMの変異が原因で起こり、平均寿命はおよそ20年で、癌を多発する。AT患者では、神経障害、毛細血管拡張症、免疫欠損、癌、放射線への高い感受性、テロメアの短縮化が起こる。しばしば成長阻害も認められる。

Xeroderma pigmentosum(XP : 色素性乾皮症)はDNAの修復に関わるXPA、XPB、...、XPGのいずれかの変異が原因で、皮膚の光老化(紫外線のダメージによる変化)が異常に促進される。皮膚の紫外線に対する感受性が異常に高くなっており、皮膚がんの発症率が極めて高くなる。しばしば神経障害を伴う。症状の重さや寿命の変化は変異の種類に依存する。

<ヒトの早老症の動物モデル>

マウスでもLmna、Xpa、Xpdの変異によって早老症が引き起こされる。Wrnの変異は予め人為的にテロメアを短くしたマウスにおいては早老症を引き起こす。Atmを欠くマウスは様々な疾患を発症するが、テロメア短縮を短縮させた上でAtmに変異を持たせた場合は早老症が引き起こされる。

その他の参考文献
Garinis et al., 2008 #52
Freitas & de Magalhaes, 2011 #53


  • 最終更新:2013-02-13 10:39:47

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