3.3 ATMとATRによるDNA損傷応答制御

<ATMとATR>

ATMとATRはそれぞれ主にDSBとSSBによって引き起こされる損傷応答の制御に関わるキナーゼである。これらによってリン酸化されるタンパク質の多くは共通している。p53もこれらのタンパク質によるリン酸化を受け活性化される。細胞周期のチェックポイント制御などに関わるキナーゼであるChk1とChk2はそれぞれATRとATMによってリン酸化される。ATMとATRはDNA修復部位にリクルートされ、DNA修復を促すだけでなく、場合によっては細胞老化やアポトーシスを引き起こす。ATMは酸化ストレス下において酸化され、ジスルフィド結合を介した二量体を形成する事も報告されており、この場合はストレス抵抗性の促進に寄与している事が示唆されている。DNA傷害時にROSの産生が増加するケースにおいては、ATMによるFoxOの機能の抑制、あるいはPARP1によるNAD+の枯渇がペントースリン酸回路を介したNADPHからのグルタチオンの産生を抑制する事がROSの増加の原因の一部となっている可能性が考えられる。

<MRN複合体によるDSBの認識、および引き続くタンパク質の集積カスケード>

DSBはMRE11-RAD50-NBS(頭文字をとってMRN)複合体によって認識され、次いでMRN複合体はATMをリクルートする。ATMは自己リン酸化を通じて活性化し、さらに他の様々なタンパク質のリン酸化する。H2AのマイナーなバリアントであるH2AXもそのターゲットの一つである。H2AXは全H2Aの約2〜25%を占めている(Rogakou et al., 1998)。リン酸化されたH2AX(γH2AX)はMDC1をリクルートし、MDC1はさらにMRN複合体をリクルートする。MDC1はRNF8/UBC13もリクルートし、さらにRNF8に依存してRNF168がリクルートされる。RNF168はH3K13、15をユビキチン化し、そこに引き続きポリユビキチン鎖が付加される(Mattiroli et al., 2012 #348)。これはH2A、H2AXのユビキチン修飾の保持に必要である。H2A、H2AXのポリユビキチン化はBRCA1や53BP1などをリクルートする。53BP1はγH2AXやメチル化修飾を受けたH4K20によってもリクルートされる。H4K20me2と結合し、53BP1のリクルートを阻害するJMJD2A/KDM4はRNF8およびRNF168にユビキチン化されて分解が誘導される(Mallette et al., 2012 #63)。ヒストンのユビキチン化は転写の抑制にも働き、その事は修復の促進にも寄与する。損傷部位から離れた領域へのRNF168の集積は、E3 ligaseであるTRIP12とUBR5により抑制されている(Gudjonsson et al., 2012 #346)。

<BRCA1と53BP1>

MDC1、53BP1、BRCAは同じファミリーに属するタンパク質で、機能的にも重複する部分があると考えられるが、いずれを欠損してもチェックポイントの異常が起こり得る。BRCA1はユビキチンリガーゼ活性を有するが、これはDNA修復には重要ではない可能性が示唆されている。BRCA1はS期からG2期にかけて発現しており、特にHRによるDNA修復に重要な働きをしているが、NHEJやNERにおいても機能している事が示唆されている。BRCA1はHRに関わるRad51と相互作用する事が報告されている。53BP1はIn vitroではNHEJに関わるXRCC4のリガーゼ活性を促進する事が報告されている。ドミナントネガティブな53BP1を強制発現させるとNHEJによる修復よりもHRによる修復が優性となる。Exon11を欠くBRCA1Δ11を発現するマウスは胎生致死であるが、さらに53BP1を失わせるとほぼ正常に生育するマウスになる。BRCA1Δ11を発現する細胞ではDSBに際してHRによる修復に必要なEnd resectionが損なわれ、NHEJによる修復が優性となる。同時に53BP1を欠くと、End resectionに必要なCtIP依存的にHRとNHEJのバランスが保たれるようになる(Aly & Ganesan, 2011 #62)。53BP1はRif1のリクルートメントを通じて、CtIP、BLM、Exo1などによる5’-end resectionを阻害し、それによりHRを抑制する(Zimmermann et al., 2013 #585)。

<SSBによるATRの活性化>

ssDNAにはRPAが結合し、これがATRIP-ATRへテロダイマーとRAD17-RFCをリクルートする。後者はPCNAに類似した構造をもつRAD90-RAD1-HUS1複合体(9-1-1複合体とも呼ばれる)をリクルートし、さらにこれがTOPBP1をリクルートする。TOPBP1はATRIPと協調してATRを活性化させる。ATRもATM同様損傷部位周辺のγH2AXをリン酸化し、MDC1を通じてMRN複合体などをリクルートする。

ATRを活性化させるssDNAは、停止した複製フォークやテロメア、またはNERやS/G2期におけるエキソヌクレアーゼのDSBへの作用に伴って生じる。一方で停止した複製フォークからはDSBも生じる。これは相同組換えを通じて複製を続行するための反応である事が考えられる。ATRやChk1の変異はこのようなDSBを増加させる。ATRの活性化は新たな複製基点からの複製と複製フォークの進行を抑制するが、一方で停止した複製フォークの近傍に限っては新たな複製基点の構築を促す。複製フォークの制御に関与するヘリカーゼであるWRNやBLMもATRのターゲットである。ATRによるG2/M期のチェックポイント制御はChk1に大きく依存している。Chk1のターゲットにはWee1とCdc25が含まれ、リン酸化により前者は活性化され、後者は分解に導かれる。Wee1はCDK1をリン酸化する事でその機能を抑制し、Cdc25はCDK1を脱リン酸化する事でその機能を活性化させる。従ってChk1の活性化はCDK1の機能を抑制する。

<DDR foci>

ATMやATRによってリン酸化されるγH2AXの分布は損傷部位周辺数百kbまで及ぶ事もあり、DDR(DNA damage response)関連因子を集積させて大きなDDR fociが形成される。DDRに際しては損傷部位周辺のエピジェネティック状態に様々な変化が起こる。Gcn5によりアセチル化されたH3を含むヌクレオソーム中のγH2AXはBRG1を介してSWI/SNFクロマチンリモデリングファミリーのPBAF複合体をリクルートする。この複合体はH2AXのリン酸化を更に促進すると共に、修復に際して下記のクロマチンリモデリング因子と協調してDSB周辺のクロマチンを緩める。

<DSB修復に伴うクロマチンリモデリング>

DSBが起こると損傷部位から100 bp程度までの領域からヒストンが除かれる。これにはMRN複合体とクロマンリモデリング複合体INO80が必要である。INO80複合体にはγH2AXを認識するBAF53aが含まれ、ヒストンのアセチル化によってもリクルートされる。

クロマチンリモデリング複合体NuA4(Tip60)もDSBの修復に重要な役割を果たしている。この複合体はH4をアセチル化するTip60、motor ATPaseであるp400、そしてヘリカーゼ様のRuvbl1/2を含む。NuA4はINO80同様その構成因子であるBAF53aを介してγH2AXと結合できる。Tip60やNuA4複合体形成の足場を形成するTrrapを欠く細胞ではDSBに伴うヒストンのアセチル化が抑制され、53BP1やBRCA1のリクルートが阻害される。DSB損傷部位周辺において、ヌクレオソームは不安定になるが、これもTip60、p400、Trrapに依存している。損傷部位周辺のH4K16のアセチル化は、H2Aとの結合を弱める事が報告されており、その事がヌクレオソームが不安定化に寄与している事が考えられる。NuA4複合体はATM、MRN複合体、RNF8のリクルートメントやH2AXのリン酸化には必要ではないが、H2A、H2AXのユビキチン化には必要である。Tip60によるH2AXのアセチル化がUBC13によるユビキチン化を促進し、それを通じてヒストンのクロマチンからの放出を促している事が報告されている。

NuRD複合体もDDRに関与している。DDRに伴い、PARPによるH1、H2Bを含むタンパク質のポリADPリボシル化が速やかに起こるが、NuRD複合体中のCHD4はin vitroでポリADPリボースと結合できる。CHD4を欠く細胞ではH2AXのリン酸化、及びMDC1、RNF8のリクルートメントは起こるが、引き続くはずのRNF168やBRCA1のリクルートメントが起こらなくなる。また、本来DDRが起こると周辺領域からの転写が速やかに抑制されるが、CHD4あるいはMTA1を欠く細胞ではその応答が損なわれている。CHD4はATMと相互作用し、そのターゲットでもあるが、リン酸化を受けずとも損傷部位にリクルートはされる(Li & Kumar, 2010 #65)。

ゲノムワイドなレベルでもDDRに伴い一過的にクロマチン構造が緩む。この変化はATP依存的である。この変化には、HDACやHP1とも結合するヘテロクロマチン結合タンパクであるKap1(TRIM28)のATMによるリン酸化が必要で、このリン酸化はCHD3をKap1から解離させる。ATMの活性が抑制されると、DNA修復は遅延し、傷害の一部は存続するようになる。Kap1を抑制しておいた場合には、このATMの抑制効果は現れない。Kap1はリン酸化された後一時的に核全体に分布した後、γH2AXと共にヘテロクロマチンに局在するようになる(Noon et al., 2010 #518)。Kap1はHDACやHP1と結合し転写には抑制的に働く事が知られている。Kap1のリン酸化が阻害されると、ヘテロクロマチンの境界におけるDSBの修復が抑制される事が報告されている(Goodarzi et al., 2011 #64)。なおヘテロクロマチンは、おそらく露出の程度がより低いために、比較的損傷を受けにくく、一方で損傷の修復の効率も低い。

<DSBおよびSSBに際して起こるヒストン修飾変化>

DSB損傷部位周辺では、H2AXのリン酸化とユビキチン化、H4K16のアセチル化に加え、H3K56及びH3K9の脱アセチル化、H3K79のメチル化、H1、H4S1のリン酸化などのヒストン修飾も認められる。

一方、SSB損傷部位周辺では、γH2AXに加え、H3K9、H3K14のアセチル化、H3K79、H4K20のメチル化、H2A、H2B、H3、H4のユビキチン化、H2AS2、H2AS18、H2AS122、のリン酸化、H3S10、H3T11の脱リン酸化などが認められる。H3とH4のユビキチン化はH2Aよりも早い段階で起こり、ヌクレオソームの構造を不安定化させる。これらの多くの修飾が一過的になされる事が重要であるが、同じくそれらを除く事も修復を進めて行く事で重要な場合がある。また実際には領域特異的あるいはゲノムワイドな修飾の増減を区別して考える必要もある。主にCPDを生じるUVの照射によって、一過的にゲノムワイドなアセチル化レベルが上昇する事が報告されている。H2AXのリン酸化はクロマチンの構造には影響を与えるのではなく、修復に関わるタンパク質をリクルートする事で機能しているようである。

<H2AX非依存的なDSB修復経路>

DSBに際して、H2AXとは独立なエピジェネティック制御がその周辺領域に起こっている事も示されている。活性化されたATMはRNF20をリン酸化し、これによりH2Bのモノユビキチン化、引き続いてH3K4のメチル化が起こる。H3K4のメチル化はSNF2hをリクルートする事が報告されている。ここでRNF20は、CtIPに依存的なDNAの3'側突出末端の形成を通じてHRを促進している事が示唆されている。H2AXのノックダウンはこの経路に影響を与えず、逆にRNF20のノックダウンはH2AXのリン酸化やユビキチン化に影響を与えない。また、RNF20とH2AXをノックダウンすると、どちらか一方のみをノックダウンした場合よりもHRRの頻度が減少する。

<DDR fociの解消>

DNAが修復されるとγH2AXは脱リン酸化され、DDR fociは維持されなくなる事が示されている。H2AXの脱リン酸化にはPP2AとPP4Cが関わっており、またHDAC3もクロマチンを元の状態に戻す事に関与している。酵母ではDDR fociの解消に際して、Hat1やCBP/p300によりアセチル化されたヌクレオソームの新規の取り込み、及びSin3/Rpd3などにより引き続き起こされる脱アセチル化が関与している。他に酵母で、Sir2、Hst1、Gcn5の関与も報告されている。Gcn5やCBP/p300によるH3K56のアセチル化の重要性も示唆されている。DDR fociの解消に関わる脱ユビキチン化酵素としてはBRCC6、USP3、OTUB1が知られている。

<DNA-SCARS>

通常DDR fociは形成後24時間以内に消失するが、細胞老化を起こした細胞では一部のDDR fociは解消されずに維持される。高齢者の皮膚を見ると、DDR fociはあっても通常細胞一つにつきテロメアに一個であるが、培養下で細胞老化した細胞では複数個、テロメアに多いが、テロメア以外の領域にも存在する。このような持続するDDR fociはDNA segments with chromatin alterations reinforcing senescence(DNA-SCARS)と命名されている。DNA-SCARSは、培養条件下で少なくとも数ヶ月間は維持される事が示されている。DNA-SCARSは重度で修復困難なDNA傷害により形成され、細胞老化に先んじて形成されうる。DNA-SCARSに結合する53BP1は通常のDDR fociに結合する53BP1に比べクロマチンからの可溶性が乏しく、その結合を取り巻く環境が異なっている事が示唆されている。DNA-SCARSにおいては、その形成に際して一度p53の集積が起こり、その後やや減少するものの集積が維持される。活性化されたCHK2は傷害が起こった直後には核全体にわたって発現レベルの上昇を示すが、およそ24時間以降減少していき、DNA-SCARSにおいて局在を示すようになる。またDNA-SCARSはその形成後約48時間をかけてPML bodyと共局在を示すようになっていく。DNA-SCARSの形成はp53、pRb、PML、ATM、ATRには依存しないが、DNA修復に関わるNBS1、BLM、Artemisが抑制された場合にはPMLとの共局在に要する時間が短縮される。H2AXが抑制された場合には53BP1の集積は起こるが、活性化されたCHK2やMDC1の集積、およびIL-6の発現誘導は損なわれた。DNA-SCARSのこうした特徴はヒトの細胞について調べられたものであるが、MEFやマウスの肺胞や細気管支においてもDNA傷害に際しての53BP1とPMLの共局在が認められている。マウスのin vivoにおけるこの共局在はin vitroにおける場合に比べ速やかに消失していくが、それが老化細胞の除去に依っているか否かは不明である(Rodier et al., 2011 #66)。

テロメアに好発する持続性のDDR fociはテロメアの長さとは相関しない。TRF2を非テロメア領域に結合させるとその領域のDNA修復が抑制される事から、テロメアでは修復が起こりにくい為に持続性のDDR fociが形成されやすくなっている可能性が提唱されている(Fumagalli et al., 2012)。

<加齢に伴うDDR fociの蓄積>

ヒトの繊維芽細胞の細胞老化に際しては、SA-β-galとγH2AXの染色パターンは良く一致する。マウスの心筋、骨格筋、腎臓、水晶体、精巣、肝臓、上皮、真皮、肺、脾臓、腸陰窩、腸絨毛についての解析では、肝臓、真皮、肺、脾臓、腸陰窩でγH2AX抗体により染色される細胞の割合が加齢に伴い有意に増加する事が示されている。真皮と腸陰窩について調べた結果、γH2AXにより染色される領域はテロメア領域とあまり一致しない事が分かっている(Wang et al., 2009 #67)。

<加齢に伴う、DNA傷害に対するp53の反応性の低下>

一方で、マウスの多くの組織で加齢に伴いp53のDNA傷害に対する応答性が低下している事も報告されている。老齢マウスの腎臓、胸腺、心臓、肺、脳、小腸、骨格筋、および皮膚では、全身性のIR照射によるp53ターゲット遺伝子p21、Puma、Bax、Fas、Mdm2、CyclinD1の発現誘導が減弱している(p21は比較的顕著)(Feng et al., 2007 #279)。IR照射後の脾臓でのアポトーシスの誘導も老齢マウスではやや抑制されている。IR照射後の脾臓ではp53やATMのタンパク量が減少しているが、p53の分解を誘導するMdm2やCop1、Pirh2には発現変化は認められていない。老齢マウスの脾細胞を培養条件下においてエトポキシドやアクチノマイシンDなどにより処理した場合にも、p53発現誘導の減弱が認められている。高齢者から得た繊維芽細胞においてUV照射後のp53の発現誘導が減弱している事も報告されている(Goukassian et al., 2000 #281)。老齢マウスの大腸ではp53の局在が細胞質にシフトしており、併せてp21などのp53ターゲットの発現が低下している事が報告されている(Simon et al., 2012 #284)。老齢マウス肝ではp53の核内局在が促進されており、DNAの傷害を誘導する2-Nitropropaneの投与により核内のp53の量に変化は認められない。一方で、若齢時においてはp53の大部分は核外に存在しており、2-Nitropropane処理はp53の核内移行を増加させる(Simon et al., 2009 # 280)。肝臓におけるこれらの変化と併せて、2-Nitropropane処理により誘導される遺伝子発現パターン変化にも大きな差が生じている事も報告されている(Simon et al., 2009 #280)。相対的に、老齢時には若齢時に対して、細胞周期の進行を抑制する遺伝子の発現はより抑制的な応答を示すのに対し、細胞周期の進行を促すような遺伝子の発現はより促進的な応答を示す。H3K79のメチル化修飾を担うDotl1の発現は老齢時にのみ抑制される。また相対的に老齢時には若齢時に対して、アポトーシスを促進する遺伝子の発現はより抑制的な応答を示すのに対し、アポトーシスを抑制する遺伝子の発現はより促進的な応答を示す。DNA修復に関わる遺伝子の発現変化も大きく変化している。

その他の参考文献
Mendez-Acuna et al., 2010 #68
Xu & Price, 2011 #69
Rossetto et al., 2010 #70



  • 最終更新:2013-02-13 10:45:00

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