3.5 タンパク質の損傷

<タンパク質の酸化傷害>

タンパク質の酸化傷害は、アミノ酸配列の切断、側鎖の切断、あるいは側鎖の修飾を引き起こす。メチオニン、ヒスチジン、システイン、チロシン、トリプトファン残基は比較的酸化障害を受けやすい。システインとメチオニンのチオール基の酸化に対しては生体に修復機構が備わっている。金属を活性中心に持つ酵素は、金属の持つ触媒作用のために酸化傷害を受けやすい。酸化によるリジン、アルギニン、プロリン、スレオニンのカルボニル化はタンパク質に蓄積する主要な酸化傷害で、タンパク質の酸化ストレスマーカーとして利用される事も多い。カルボニル化は酸化傷害の直接の産物として以外にも、後述する4-HNEやMDAとの反応や、非酵素的糖化反応によっても生じ得る。

タンパク質のカルボニル化と老化との関係は良くわかっていない。ヒト繊維芽細胞では70〜80歳で若齢時の2倍程度になる。一方でヒト外側広筋では変化が無いという報告がある(Hutter et al., 2007 #307)。ヒト外側広筋ではむしろ若齢時の方がROSの産生レベルが高い。

プロテアソームは疎水性や芳香環をもつアミノ酸を優先的に認識する。酸化傷害を受けたタンパクは正しい折り畳みが阻害され、それにより疎水基がむき出しになると優先的に分解される。

皮膚や骨格筋、心臓、肝臓、腎臓、肺などで加齢に伴うプロテアソーム活性の低下が報告されている。複製老化に際しては、プロテアソームの生合成が損なわれ、その活性が低下する事が報告されている(Löw, 2011 #490)。酵母では酸化タンパク質の蓄積は起こるが、プロテアソームやリソソームの活性自体は逆に上昇する事が報告されている。

傷害を受けたタンパク質の割合は加齢に伴い増加する。加齢に伴い傷害自体が生じやすくなる事、タンパク質のターンオーバーが低下する事、及び損傷を受けたタンパク質を優先的に分解する機能の低下などがその理由として考えられる。核膜孔を構成するNup107/160は非分裂細胞ではほとんどターンオーバーが起こらず、加齢に伴い酸化ストレスが蓄積していく。この変化は加齢に伴う核膜透過性の増加と関係している事が示唆されている。

<リポフスチン>

傷害を受けたタンパク質やミトコンドリアがリソソームに取り込まれ、分解しきれずに蓄積するとリポフスチンと呼ばれる不溶性の顆粒が細胞内に形成される。リポフスチンの表面には反応性を有する物質が含まれており、リソソームの中にあっても膜を破って放出され得る。リポフスチンは30〜58%のタンパク質と19〜51%の脂質からなる高度に酸化的に架橋された凝集体で、その架橋は主に非タンパク質性の物質、例えば4-HNEなどによってなされる。核内にはリポフスチンの蓄積は認められない。リポフスチンには金属イオンも含まれている。一部の細胞においては、鉄を含むATPシンターゼサブユニットCがリポフスチンのタンパク質成分の多くを占めている。リポフスチンは細胞の容積を占める事で(老化したヒトの運動神経では75%にもなる)リソソームや細胞内のトラフィッキングを阻害したり、またプロテアソームの機能を阻害したりする。加齢に伴うリソソーム活性の低下やミトコンドリアの傷害の蓄積などのために、ミトコンドリアの分解や分裂機能が低下し、ミトコンドリアは大きくなる。なお、加齢に伴いリポフスチンは蓄積するが、中齢期以降変化が無いという報告もある。ラットの脳、腎臓、肺では11ヶ月齢と29ヶ月例の間で有意な差が認められない事が報告されている。

<アミロイド>

加齢に伴い血漿中のタンパク質やホルモンなどが重合し形成される微細繊維の蓄積も起こる。これらは主に細胞間に沈着してゆき、アミロイド繊維と呼ばれ、Aβよりなる老人斑はその代表的なものである。大動脈アミロイドは50歳以上のほとんど全てのヒトで観察される最も頻度の高い限局性アミロイドで、中膜、内膜、外膜でそれぞれ異なるタンパク質の沈着が起こっている。膵島でもホルモン由来のアミロイド沈着が見られ、60歳以上では半数以上のヒトに見られる。80歳以上の約25%のヒトに見られる老人性全身性アミロイドーシスにおいてはトランスサイレチン(プレアルブミン)の沈着が主に血管壁に見られる。トランスサイレチンは肝臓で合成され、甲状腺ホルモンやレチノール結合タンパク質の血中運搬に関わっている。老人性全身性アミロイドーシスによる傷害は軽度であるとされている。



その他の参考文献
Chakravarti B & Chakravarti DN, 2007 #54
Stadtman, 2006 #55
Jung et al., 2007 #58
Sulzer et al., 2008 #59



  • 最終更新:2013-02-13 10:47:23

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