4.3 老化とプロテオーム

<加齢に伴うタンパク質のターンオーバーの減少>

多くの組織で、加齢に伴いタンパク質の合成は減少する。リボソームや翻訳因子の活性低下、mRNA量の減少などが原因として考えられている。タンパク質の分解も加齢に伴い減少するため、基本的にはタンパク質の量ではなくターンオーバーが低下する。哺乳類では加齢に伴いプロテアソームの量は変化しないが活性が低下する。食餌制限はプロテアソームの活性を回復させる。飢餓ではミトコンドリアにおけるROSの産生が増加し、それが部分的にはPI3Kを介してオートファジーを促進させる。ROSはAtg4を酸化し抑制する事でオートファジーを促進させている事も報告されている。変異型のSOD1を骨格筋で発現するマウスでもオートファジーと筋萎縮が促進される事が報告されているが、この場合はFoxO3の発現増加を伴っている。

線虫やハエで、タンパク質合成を低下させる遺伝子操作の多くが寿命の延長につながる事が報告されている。タンパク質合成活性を低下させる事は、エネルギーの消費を修復や維持に傾ける事につながり、それによって寿命の延長が起こっているという可能性が考えられている。寿命に影響する事が知られているシグナル経路やストレス応答に関わるシグナル経路とタンパク質合成活性の制御は密接に結びついている。例えば、IIS(Insulin/IGF-1 signaling)において活性化されるERK、PDK、Akt/PKB、TORはそれぞれS6Kを通じてリボソームタンパク質のS6をリン酸化し活性化させる。Erkの他のターゲットにはMNK1があり、これは翻訳開始因子であるeIF4EとeIF4Gをリン酸化する。MNK1は種々のストレスによって活性化されるp38によっても活性化される。一方で小胞体ストレス下で活性化されるPERKはeIF2の活性を抑制する。またIISが活性化されるとTORがAkt/PKBにより活性化され、活性化されたTORは4E-BPの機能を抑制する事でeIF4Eを活性化させる。Akt/PKBの活性化は更にGSK3の活性を抑制し、それによりeIF2Bの機能が活性化される。アミノ酸はTORを活性化させタンパク質の合成を促進させるが、濃度が低いと逆にGCN2を活性化させる事でeIF2の機能を抑制し、タンパク質の合成を抑制させる(Tavernarakis, 2008 #76)。

<HSP(Heat Shock Protein)活性の低下>

シャペロンの活性や応答については、加齢に伴い低下するという報告が多い。一部のシャペロンはタンパク質をプロテアソームやリソソームに引き渡す機能を有しており、その事が加齢に伴うタンパク質の分解系の機能の低下と関係している可能性も考えられる。筋や肝臓ではHSPの応答が加齢に伴い減弱する。神経系では始めからHSPの発現が弱い。運動神経でHSPの転写を促進する転写因子HSF1を強制発現させても効果が無く、何らかの抑制がかかっている。ハエの運動神経にHSP22を強制発現させると寿命が延長する事が報告されている。HSF1を活性化させる因子にはSIRT1が含まれている(Linder & Demarez, 2009 #75)。

HSPを介した折り畳みや分解が飽和した場合、微小な凝集体が形成され、微小管を通じてセントロソームに運ばれ、アグレソームと呼ばれる構造を作る事がある。アグレソームはオートファジーによって分解され得る。また、アグレソームは分裂に際して一方の細胞にのみ引き継がれる。これらの制御にはHDAC6が関わっている。HDAC6はポリユビキチン化されたタンパク質や微小管に結合できる。HDAC6はHSF1の機能の抑制にも関わっている(Linder & Demarez, 2009 #75)。



  • 最終更新:2013-02-13 11:40:21

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