5.1 テロメア

<テロメアDNA>

哺乳類のテロメアはTTAGGGの繰り返し配列で、3'末端側がssDNAとして突出している。テロメアのDNAは酸化されやすいグアニンに富み、UV照射による二量体も生じやすい。ヒトではテロメアの長さは10〜15 kb、マウスでは20〜60 kbとなっている。テロメアの末端部分はT-ループと呼ばれる大きな環構造を形成しており、末端の突出部分はそれより手前の二本鎖部分に入り込み、D-ループと呼ばれる三重鎖構造を形成している。テロメアはテロメラーゼによる伸長を受けない限りはDNAの複製に伴い短縮していく。マウスでは2歳以降テロメアの短縮ペースが速くなり、複製当たりの短縮のペースは一定では無いものと考えられる。

テロメア構造の維持には、一定のレベルの5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が必要である。これは少なくとも、DNAの複製に際して平滑末端になってしまう一方の染色体において3'突出末端を生成する為に必要である。何らかの方法で、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を有するMRN複合体がこれに関わっている事が示唆されている。末端のssDNAの長さは調節されており、出芽酵母においてはG1期で12〜14塩基、S期でおよそ65塩基、間期のヒト細胞でおおよそ50〜150塩基となっている。POT1のようなssDNA結合タンパク質の量が突出末端の長さの調節に関わっていると考えられている。POT1を欠く細胞では本来必ず...ATC-5'で終わる5'末端が、AATCCC-5'の中でランダムに終わるようになる。

<テロメアを構成するタンパク質とその役割>

テロメアの二本鎖部分にはTRF1/2が結合している。TRF1/2はRap1やTIN2をリクルートする。テロメアのssDNA部分にはPOT1とTPP1が結合している。TPP1とTIN2は相互作用するので、これらがssDNA部分とdsDNA部分をブリッジしている可能性が考えられる。これら六種のタンパク質、すなわちTRF1/2、Rap1、TIN2、POT1、TPP1はシェルタリンと総称される。TPP1中のOB-foldドメインはテロメラーゼのリクルートに機能する(Zhong et al., 2012 #358)。テロメアにおける機能の他、TRF2はRESTと共にPMLボディ上に局在し、RESTによる神経分化に関わる遺伝子群の発現抑制に必要である事がヒト未分化NTera2細胞において示されている(Zhang et al., 2008 #385)。神経分化に際して、細胞はTRF2のshort isoformを発現するようになり、これは細胞質に局在し、RESTと結合して細胞質内に隔離させる事でRESTの機能を抑制する(Zhang et al., 2011 #468)。TIN2はミトコンドリアにも局在が可能で、TPP1との相互作用が阻害されるとミトコンドリアへの局在が増す。TIN2はミトコンドリアにおいてはATPの産生を負に制御しているものと考えられる(Chen et al., 2012 #354)。Rap1はテロメア以外の配列にも結合でき、サブテロメア領域における転写抑制や、IKKとの結合を通じてNF-kBを活性化させる機能も有している。他にテロメアと相互作用するタンパク質として、CTC1、STN1、TEN1(CST複合体)が知られており、これは配列非特異的に一本鎖DNAに結合し、保護する役割を有している。non-coding RNAもテロメアの構成因子に含まれている。100 b〜9 kbに及ぶ長さのnon-coding RNAであるTERRAはUUAGGGの反復配列から成り、テロメアDNAとG-quadruplex構造を形成できる。TERRAはテロメラーゼの機能を負に調節している。

Apolloはリーディング鎖特異的に5'鎖を切除し3'オーバーハングの形成に関わる。TRF2はこのApolloの作用を促進し、POT1bは抑制する。S/G2期ではExo1がさらに5'鎖を切除し、引き続きPOT1bによりリクルートされるCST複合体がDNA polymeraseαによる適度な長さまでのDNA合成を促す。テロメアの3'オーバーハングの長さはこれらのメカニズムにより調節されている(Wu et al., 2012 #359)。Apolloのエクソヌクレアーゼ活性の抑制はテロメアの正常な複製を阻害する。ApolloはTRF2やTOP2と協調し、複製フォークの進行に伴い形成されるスーパーコイルを解消させる事が示唆されている(Ye et al., 2010 #469)。

シェルタリンタンパクのうちRap1以外のノックアウトマウスは胎生致死となる事が報告されている。他に、テロメアに一過的に結合するタンパク質として、ERCC1/XPF、MRN複合体、WRN、BLM、DNA-PK、PARP2、Tankyrase、Rad51d、Apolloなどが知られている。TankyraseはPARPファミリーの一員で、TRF1の分解を誘導してテロメアをオープンな構造に変化させる役割を有する事が報告されている。

テロメアはその構造上ATM及びATRを活性化させ得る。テロメア結合タンパク質を通じて過剰な活性化は抑制されているが、ある程度の活性はテロメアの維持に必要でもある。ATMはMRN複合体依存的に、テロメアでTRF1をリン酸化する事でTRF1をテロメアから外し、テロメラーゼによるテロメアの伸長を促進している事が示唆されている。一方過剰にストレス感知機構が働かないよう、ATMの活性は主にTRF2によって、またATRの活性はPOT1によって抑制されている。TRF2はATMと結合し、その活性を抑制できる事が報告されている。一方でp53はSiah1の転写を通じてTRF2の分解を誘導する(Fujita et al., 2010)。TRF2はまたATMの抑制とは別に、テロメア領域へのRNF168のリクルートを阻害する事でテロメアのend to end fusionを抑制している。これは脱ユビキチン化酵素BRCC3やユビキチン化酵素UBR5のリクルートメントに依存しており、後者は直接、前者はMRE複合体を介してリクルートされるものと考えられる(Okamoto et al., 2013 #578)。TRF2のタンパク量制御にはp300も関わっており、p300によるTRF2のアセチル化修飾はTRF2のユビキチン化修飾による分解誘導を抑制する(Her & Chung, 2013 #554)。POT1はRPAと拮抗してssDNAと結合する事でATRの活性化を抑制しているものと考えられる。テロメアにおいてATMやATRが過剰に活性化されると、テロメアにγH2AXや53BP1の存在を特徴とするTelomere dysfunction Induced Foci(TIF)が形成される。

テロメア領域に結合するタンパク質は異常なHRの抑制にも重要である。N末端を欠くTRF2を発現する細胞ではHRに関わるXRCC3依存的にテロメアの短縮が促進され、同時にT-loop程度の大きさの環状DNAが形成される。NHEJに関わるKu70/80の機能が損なわれ、さらにTRF2かPOT1のいずれかの機能が損なわれるとHRが顕著に促進される。通常はこのようにテロメアではHRが抑制されているが、一方で出芽酵母において異常に伸長したテロメアがHRによって正常な長さに迄短縮されるという現象も見つかっており、テロメアにおいてHRが積極的に利用される場面もあるのかもしれない。マウスにおいて、テロメア配列とテロメア以外の領域の配列との間の異所性のHRの抑制には、NERに関わるERCC1/XPFが関与している事が報告されている。

G1期にある哺乳類の細胞ではTRF2はD-NHEJの抑制に重要である。TPP1及びPOT1のB-NHEJの抑制機能も報告されている。TRF2の欠損は、MRN複合体依存的にATMを活性化させる。MRN複合体中のMRE11のヌクレアーゼ活性を失わせてもATM(およびATR)の活性化に影響は無いが、TRF2欠損下で通常起こるテロメア同士のNHEJは損なわれる。これは本来TRF2不在下でMRE11がテロメアの3’オーバーハングを切除してNHEJを促している事による(Deng et al., 2009 #412)。

<テロメラーゼ>

テロメアの伸長はテロメラーゼによってなされる。ヒトにおいては生殖細胞や幹細胞ではテロメラーゼ活性が認められるが、体細胞ではほとんど認められない。一方でマウスやチンパンジーの体細胞ではテロメラーゼ活性は比較的高い。ヒトのテロメラーゼの活性は主にタンパク質サブユニットであるhTERTのRNAレベルの制御を通じて調節されている。TERTの発現にはSp1、USF、c-Myc、Ets、ER、Klf4、抑制にはp53、p21、pRb、Mad1などが関わっている事が報告されている。Klf4によるhTERTの発現の活性化はβカテニンに依存しており、ES細胞や腸幹細胞、癌細胞などでこのメカニズムがテロメア長の制御に寄与している事が示されている(Hoffmeyer et al., 2012 #355)。この時βカテニンはH3K4のメチル化修飾に関与するAsh2lやSetd1aとも結合する。p53はSp1によるTERTの発現を抑制している事が提唱されており、一方p53のターゲットであるp21についてはpRbやE2Fと共に抑制性の複合体を形成してTERTの発現を抑制している事が提唱されている。

AUF1はTERTのプロモーターに結合しその転写を活性化させる事が報告されている(Pont et al., 2012 #356)。AUF1はRNAに結合し、その分解を促す事で炎症の沈静化や細胞老化の抑制にも関わっているが、どのようにして転写の活性化に働くかは不明である。AUF1はプロモーター領域には比較的多く見られるG-quadruplex構造と相互作用する可能性が示唆されており、この構造はTERTプロモーターにも認められている。

テロメラーゼが発現すると、全てのテロメアが同等に伸長されるのではなく、短い一部のテロメアでのみ伸長が起こる。これはテロメラーゼの活性が、各テロメアに局在しているPOT1などのタンパク質によって局所で調節されているためである。テロメアの長さは染色体毎、アレル毎によって異なるが、これはテロメラーゼの活性含め遺伝的に定まる部分が大きいようである。ヒトでは17番染色体のテロメアが短い事が多い。全血を用いた解析から、一卵性双生児は二卵性双生児に比べテロメアの長さが類似する事が示されている。父と子の間でのテロメア長の相関も報告されている(Aubert & Lansdorp, 2008 #137)。

TERTはテロメアの伸長以外の機能も有している。Wntレセプターが活性化されるとTERTはBRG1及びβ-cateninと結合し遺伝子の転写を制御する。また酸化ストレス下ではTERTが核内からミトコンドリアに移行する事が報告されている。TERTはミトコンドリア内でRMRPと相互作用し、複合体としてRNA依存性RNAポリメラーゼ活性を発揮し、siRNAの制御に関わっている(Mortinez & Biasco, 2011 #136)。

通常のDNA複製機構によるテロメア領域の複製にも特別な補助が必要とされる。これは、その領域で形成される二次構造や、配列がグアニンに富む事などに起因していると考えられる。WRNヘリカーゼを欠く細胞では、ラギング鎖特異的にテロメアの短縮が起こって行く。同じくヘリカーゼであるBLMやRTEL1もテロメア領域の複製に関わっている。RTEL1は複製に際してテロメアのT-ループを解きほぐす為に必要で、これを欠く場合にはSLX4複合体によりT-ループ部分が切断される(Vannler et al., 2012 #357)。SLX4複合体はTRF2に変異を有する細胞やALTを起こしている細胞でもテロメアのT-ループを切断させている。

出芽酵母においては、分裂に際して通常のDNA複製複合体からその構成因子をテロメラーゼに引き渡す為にCdc13(哺乳類ではCTC1)、Est1、Est3、Kuなどが機能している事が知られている。KuはTerc(テロメラーゼのRNAサブユニット)のヘアピン構造と相互作用しテロメラーゼをリクルートする。Cdc13はCDK1により細胞周期依存的にリン酸化されるとテロメラーゼのリクルートを促進する。出芽酵母において、KuはTerc(TLC1)の核内の局在のために必要である事が示されている。KuはTercあるいはDNAと結合するが、DNAとの結合能もTercの核内局在の為に必要である。KuのNHEJへの寄与とTercの核内移行への寄与は分離する事ができ、NHEJにおける場合とは異なる様式でテロメアを調節しているものと考えられる(Pfingsten et al., 2012 #128)。

<テロメアの短縮化>

高齢者におけるテロメアの短縮化は少なくとも真皮由来の繊維芽細胞やケラチノサイト、脾臓、B細胞、T細胞、腎臓、肝臓などにおいて認められている(Kaszubowska, 2008 #129; Aikata et al., 2000 #130; Takubo et al., 2000 #131)。テロメア長の短さは高いレベルのストレス、喫煙、肥満、低い社会的地位などとも相関する。これらは酸化ストレスとも相関するものと考えられる。テロメアに蓄積した傷害は、テロメアの複製を阻害して短縮を促す可能性がある(Shawi & Autexier, 2008 #132)。エストロゲンはERの活性化以外にもテロメアの酸化ストレスからの保護、Aktを通じたテロメラーゼの活性化によってもテロメア長を制御している。新生児においてはテロメア長に性差は認められないが、成人後には認められ、さらに閉経後長期間エストロゲン補充療法を受けた女性ではそうでない女性よりもテロメアが長い(Horikawa et al., 2004 #135)。

<テロメラーゼの異常がもたらす影響>

hTERTや hTERC、あるいはテロメラーゼのフォールディングに必要なDKC1のハプロ不全は異常角化症、肺繊維症、無形成性貧血、癌などの症状を呈する。テロメラーゼを欠損させたマウスは生存可能であるが一代目から最大寿命平均寿命共に短くなっており、代を重ねる毎に更に寿命が短くなっていく。テロメラーゼを欠損させ、その上で代を重ねてテロメアが短くなったマウスには早老症が認められる。通常のマウスは長いテロメアを持つためかWRNやATMが欠損してもヒトにおいて見られるような早老症を起こさないが、テロメアを短縮させたマウスでこれらの欠損があるとヒトに類似した早老症が起こる(Aubert & Lansdorp, 2008 #137)。

テロメラーゼを欠損したマウスでは、DNA傷害によるHSCの分化の促進と、それによるHSCの枯渇が起こる。このDNA傷害に対するHSCの応答にはBATFが関わっている。BATFの発現はテロメラーゼ欠損マウスやIRを照射したマウスのHSCで増加する。BATFの発現増加はp53非依存的であり、G-CSFとそれにより活性化されるSTAT3に依存している。テロメラーゼ欠損マウスのHSCにおけるp53の活性化やINK4A、およびp21の発現増加もBATFに依存している。ヒトのHSCにおいても、BATFの発現とINK4A、p21の発現、テロメア長、およびp53の活性との相関関係が認められている(Wang et al., 2012 #138)。

<シェルタリンの欠損がもたらす影響>

TRF1を上皮でのみ欠損させたマウスから得たMEFでは、テロメアの長さは正常であるがp53依存的な細胞老化が促進されている。マウスは生後間もなく死亡し、皮膚は薄くなっており、層化が損なわれ、高色素沈着が認められる。TPP1を上皮で欠損させた場合も類似した表現形が認められるが、この時テロメラーゼのテロメアへのリクルートメントが損なわれるためテロメアの短縮化も起こっていた。Rap1を上皮で欠損させたマウスは生存可能であるがテロメアは短く、テロメアにおける相同組換えの頻度も増加していた。このマウスでも高色素沈着は認められる(Martinez & Blasco, 2010 #139)。

<テロメラーゼの強制発現がもたらす影響>

人為的な誘導によってのみテロメラーゼを発現するマウスにおいて、テロメラーゼ欠損後4代目の35週齢時から4週間テロメラーゼの発現を誘導すると、誘導しなかった場合に見られる精巣、脾臓、腸、肝臓、神経系などにおける加齢変化が緩和される事が報告されている。肝臓ではp21の発現上昇が抑制される(Jaskelioff et al., 2011 #126)。なおマウスの繊維芽細胞では、テロメアの傷害はp21の発現を上昇させて細胞老化を引き起こす事が知られている。テロメ アが短縮したマウスで、さらにp21を欠損させると、癌化のリスクを高める事無く早老が緩和される。これに対して、INK4A/ARFの欠損はテロメアの短縮による早老を緩和しない。テロメアが短縮したマウスでp53を欠損させた場合は、欠損させなかった場合に起こる幹細胞の枯渇は抑制されるが、癌の発生率が増加し、寿命の延長は認められない。このマウスでは上皮性組織由来の癌の発生率が特に増加しており、しかも癌細胞には染色体異常が伴うなど、発症する癌の特徴がヒトに類似するようになる。テロメラーゼを強制発現させたマウスでは癌が増加し寿命が短縮するが、p53、あるいはそれに加えてINK4/ARF領域を余分に一コピーずつ持たせ、更に上皮系の組織に限ってテロメラーゼを強制発現させたマウスでは平均寿命が延長する(Tomas-Loba et al., 2008 #127)。なおこれらのテロメラーゼを強制発現させたマウスでは、若い時から血中IGF-1濃度が増加している。ここではTERTを強制発現させているが、この時TERCを欠損させておくと寿命延長効果は認められない。最大寿命の延長は認められていない。

K5-TERTマウスや、AAV9(肝臓や心臓、骨格筋、膵臓への遺伝子導入が可能なウイルスベクター)によりTERTを強制発現させたマウスでは、血清中の代謝物のプロファイルが若齢化する事が示されている。Sp53/Sp16/SARFマウスでも同様であるが、同時にTERTを強制発現させても相乗効果は無いようである。逆にTercを欠損するマウスでは、その血清中代謝物プロファイルは老化の促進を示している(Tomas-Loba et al., 2012 #488)。

テロメアと老化の関係については、こうした遺伝子改変動物を用いた証拠以外にも、高齢者の白血球のテロメア長がその後の感染による死亡のリスクと相関する事が報告されている。

<テロメア異常がミトコンドリア機能に与える影響>

テロメアの異常はp53を介して、アポトーシス以外のミトコンドリア機能にも影響を与える。これは主に、p53のターゲットでミトコンドリアの生合成に関わる転写因子であるPGC1α及びPGC1βを通じたものである。TERTやTERCを欠くマウスでは、PGC1α、βの発現とそのターゲット遺伝子の発現が低下する。この影響は、TERTやTERCを欠くマウスが世代を経てテロメアが短縮する毎に強く現れる。テロメアが短縮した後でPGC1αを強制発現させるとミトコンドリア機能や心臓機能、糖新生の低下が回復する事が報告されている(Sahin et al., 2011 #134)。

<テロメア異常が細胞に及ぼす影響のMMR関連因子に対する依存性>

ヒトにおいて、MMRに関わるMSH2、MSH3、MSH6、MLH1、PMS2の変異は遺伝性非腺腫性大腸癌を発生させる。DNA傷害によるp53を介するシグナリングにMMR関連タンパクが関与している事も報告されている(Duckett et al., 1999; Peters et al., 2003)。MMR関連因子はS期チェックポイントにおけるDNA傷害に際してのATMの活性化にも関わっている(Brown et al., 2003)。テロメアを短縮させたマウスでPMS2を欠損させると、p21依存的な細胞老化の抑制を通じて病変が緩和され、寿命が延びる。PMS2の欠損は癌を促進するが、これはテロメラーゼの欠損により抑制される。ヒトではPMS2のSNPと超長寿との相関が報告されている(Han et al., 2013 #586)。テロメアの短縮化に加えEXO1を欠損させた場合にも病変と癌が抑制され寿命が延びる。テロメアの短縮化に加えMSH2を欠損させた場合には病変は抑制されるが癌が多発し寿命はかえって短くなる(Martinez et al., 2009 #133)。このようにテロメアの短縮がかえって癌の発生を促進するケースとしては、他にp53の欠損とTRF2の過剰発現が知られている。仮説として、テロメアがある程度短くなったとき、T-ループの形成がサブテロメア領域にまで及び、その時形成されるミスマッチがMMR関連因子を通じてp21へシグナルを送るのかもしれない。MMR関連因子のテロメアへの結合は報告されていないが、TRF2と相互作用するWRNはMMRに際してもリクルートされる事が知られている。

<ALT>

ヒトの腫瘍の85-95%程度ではテロメラーゼが活性化している。ただし、テロメアの長さ自体は周辺組織よりもむしろ短い場合が多い。テロメラーゼが活性化されていない癌細胞では、ALT(Alternative Lengthening of Telomere)によりテロメアが維持されている。その分子メカニズムは明らかにされておらず、また一様であるとも限らないが、相同組換え機構を介している事が考えられている。ただしALTを起こしている細胞でゲノム全体の相同組換えの頻度が上昇している訳ではないようである。ALTを起こしている細胞には高レベルのECTRs(Extrachromosomal telomeric repeats)が存在している。ALTを起こしている細胞のおよそ5%でAPB(ALT associated PML bodies)が認められる。より多くの割合の細胞が一過的にAPBを必要としている可能性は考えられるが、APBを伴わずにALTを起こす細胞もある事が示されている。ALTは上皮系の腫瘍では比較的少ないが、星状細胞腫や骨肉腫、脂肪肉腫では比較的良く見られる。酵母でテロメラーゼを欠失させて得られる生存株はTypeIとTypeIIに分けられ、TypeIはALTを起こした哺乳動物細胞と類似点が多い。どちらもRAD52に依存しているが、TypeIは加えてRAD51、TypeIIは加えてSGS1とMRN複合体とRAD59にも依存している(Nittis et al., 2008 #125)。

<Dyskeratosis congenita : 先天性角化不全症>

先天性角化不全症(Dyskeratosis congenita : DC)は、爪の萎縮、口腔内白斑、皮膚色素沈着を特徴とする先天性造血不全症候群で、ほとんどの場合テロメアの短縮化を伴っている。扁平上皮がんや造血器腫瘍のリスクが増加しており、肺や肝の障害、脱毛、精神性発達遅滞が認められる場合がある。突発性再生不良性貧血や突発性肺繊維症の一部にはDCの不全型が含まれており、それらにおいてはテロメアの長さ自体は比較的保たれているものと考えられる。DCの重症度はテロメアの短縮度と相関が認められる。原因遺伝子についての動物実験から、骨髄、皮膚、腸、肝臓、肺などにおいて幹細胞の増殖能が損なわれる事がDCの症状に重要である事が示唆されている。

DCの原因遺伝子として知られている8つの遺伝子のうち、7つはテロメア制御に関わるDKC1(Dyskerin)、NOP10、NHP2、TINF2(TIN2)、TCAB1、TERC、TERTである。X染色体上にあるDKC1の変異が最も良く認められる。Dyskerin、NOP10、NHP2はGAR1と共に、TERCを含むH/ACA class RNAsと結合し、 rRNAやspliceosomal RNAのウリジンの修飾などに関わっている。Dyskerin、NOP10、NHP2は脊椎動物ではテロメラーゼのアセンブリや安定性に関わっていると考えられ、これらの変異はテロメラーゼを減少させる。

TIN2はTRF1とTPP1レベルを正に制御し、それらはそれぞれテロメア長を負および正に制御している。DC患者に見られるTIN2変異はそれらのレベルには大きな影響を与えずにTIN2とテロメラーゼとの相互作用を減少させている。またDC患者に見られるTIN2変異はTIN2とHP1γとの相互作用を損なっており、結果としてのS期のテロメア領域のコヒージョンが損なわれる事が、初期発生時の組み替えによるテロメア長の維持を損なっている可能性も考えられている。

TCAB1をRNAのCAB boxに結合し、TERCを含む特定のH/ACA class RNAsのCajalボディへの局在を制御する。TCAB1の変異はTERCレベルは変化させないが、テロメラーゼのCajalボディへの局在を損なわせる。Cajalボディは、増殖している細胞や代謝が活発な細胞の核内に存在する直径0.3-1.0μmの細胞小器官で、snRNPの生合成やヒストンmRNAのプロセシング、テロメアの維持などの制御に関わっている。CajalボディはColinを介して核小体に結合しており、G1期からG2期にかけて数は減り、大きさは大きくなっていき、M期には分解される。なお、TCAB1はWRAP53とも呼ばれ、p53のアンチセンスRNAとしてp53発現レベルの制御にも関わっている。

C16orf57もDCの原因遺伝子の一つであるが、この場合にはテロメア長の短縮化は起こらない。C16orf57はスプライシングに関わるU6 snRNAの3’ end modificationに必要なphosphodiesteraseをコードしている(Mroczek et al., 2012)。C16orf57の変異は、多くの場合RECQL4の変異に依っているロスモンド•トムソン症候群の原因ともなる。




その他の参考文献
Donate & Blasco, 2011 #140
Jain & Cooper, 2010 #141
Sahin & DePinho, 2010 #142



  • 最終更新:2013-02-13 11:48:39

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