5.2 細胞周期

<サイクリンとCDK>

培養された哺乳動物細胞の多くではS期に6~8時間、G2期には3~5時間、M期には1時間ほど要する。G1期からS期に進むかどうかの制限点(R点)は後述する細胞周期チェックポイントの一つである。細胞周期の進行制御にはサイクリンと呼ばれる一群のタンパク質に依存して働くセリン/スレオニンキナーゼであるCDKが関わっている。サイクリンD(D1、D2、D3)はCDK4及びCDK6と結合しR点の通過の制御に関わっており、S期の直前にはサイクリンE(E1、E2)との結合によってCDK2が活性化される。S期に進むとCDK2のパートナーがサイクリンAに変わる。さらにS期の後期ではCDK2がCDC2(CDK1)に置き換わり、さらにG2期にサイクリンAがサイクリンB(B1、B2、B3)に置き換わる。サイクリンDの量は主に転写レベルで制御され、他のサイクリンの量は主にユビキチン-プロテアソーム系による制御を受ける。これらのCDKが種々のタンパク質の機能をリン酸化修飾を通じて制御し、細胞周期の進行を制御する。

各サイクリンやCDKの必要性は細胞によって異なっており、CDK2、4、6を全て欠くマウスでも、E12.5日までは発生が進む。このマウスでは、造血幹細胞と心筋細胞の増殖に異常が認められる。一方でCDK1のみを欠くマウス胚は二細胞期以降の発生が進行しない。CDK1は細胞分裂に必須と考えられるが、CDK2、4、6は一部の細胞の増殖にのみ必要であるらしい。CDK2を欠くマウスは生殖細胞の減数分裂が阻害され不妊となる。CDK4を欠くマウスでは、生後膵β細胞や下垂体のホルモン産生細胞の増殖が抑制される。CDK6を欠くマウスでは、造血幹細胞の増殖がやや抑制される。CDK2とCDK6を両方欠くマウスも、不妊ではあるが正常で、寿命も影響されない。なおCDK2を欠損するMEFでは、c-Mycによる一過的な増幅シグナルにより、引き続いて細胞老化が誘導されるようになる(Campaner et al., 2009 #429)。このような事はCDK4やCDK6を欠損するMEFでは認められない。一方で、サイクリンやCDKにはその機能に重複が存在している。サイクリンD1を欠くマウスにおいて見られる表現系は、同遺伝子領域をサイクリンE1で置換した場合に大部分元に戻る(Malumbres & Barbacid, 2009; 143)。サイクリンAとサイクリンBのうち、体細胞分裂に必須なものはサイクリンA2とサイクリンB1である。サイクリンAはCDK1/2と結合できるが、その割合は細胞種により異なり、HeLa細胞ではCDK2とのみ結合している。サイクリンB2はマウスでは必須ではないが、ゴルジ体に存在し、M期にはその分断化に関わっている事が報告されている。

上記のもの以外にも多種のCDKとサイクリンが存在している。ヒトには14種のCDK1〜14が存在している。CDK3はサイクリンCと結合し、間期に機能するが、多くの系統のマウスでは活性が認められない為、解析が進んでいない。CDK5は主に神経細胞で機能し、細胞骨格タンパクを標的に含み、神経細胞の分化や増殖停止に関わっている事が知られている。CDK7はサイクリンHと結合し、CDK1、2、TFIIHをターゲットに含む。CDK8、9も転写の調節に関わっており、RNA polymeraseの構成因子をターゲットに含む。CDK10、11はG2/M移行期に機能する。CDK11は中心体の成熟や紡錘体の形成、細胞質分裂などの制御に関わっており、マウスの発生に必須である。CDK12、13はL-typeサイクリンと結合し、オルタナティブスプライシングの制御に関わっている。CDK14/PFTK1はサイクリンYと結合し、これもG2/M移行期に機能する。また脊椎動物では、サイクリンと配列ではなく構造が類似するRingo/Speedyが存在している。保存性に関しては、特にCDK4、6のホモログは後生動物以降においては認められるが酵母には認められない。

<APC/C複合体とSFC複合体>

サイクリンの周期的な発現には、ユビキチン-プロテアソーム系によるサイクリンの分解が関わっている。タンパク質のユビキチン化にはユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)及びユビキチン転移酵素(E3)が関わっており、ヒトではE1は2種類、E2は~50種類、E3は700種類以上存在する。E3 ligaseはRING型、U-Box型、HECT型の三種に大別され、もっとも種類が多いものがRING型で、HECT型は最も少なくヒトでは38種類知られているのみである。細胞周期制御と特に関わりが深いものにはRING型のAPC/C複合体とSFC複合体がある。

APC/Cはmulti subunit cullin-RING E3 ubiquitin ligaseで、ヒトAPC/CはLys11-linked polyubiquitinの形成を触媒する。ヒトでは13種のサブユニットが知られている。Proteasome/cyclosome(PC)repeatから成る最も大きなサブユニットであるApc1は、Apc2、10、11から成るcatalytic sub complex、およびApc4、5を介してTPR(tetratricopeptide repeat)の繰り返しから成るApc3、6、8と相互作用する。Apc3の複合体への結合はApc6に依存しており、Apc6の複合体への結合はApc8に依存している。Cdc26とApc13は特にTPR sub complexの安定化に関わっている。TPRサブユニットは一つの複合体の中にそれぞれ2〜3個含まれる。Apc1、3、6、8はリン酸化修飾を受ける事が知られている。

APC/Cに対応するE2酵素は、基質のユビキチン修飾のprimingにおいてはUbcH10あるいはUbcH5、ユビキチン修飾の伸張においてはUbe2Sである。UbcH10はAPC/Cdh1のターゲットであるが、他のより親和性の高い基質が修飾されるまではUbcH10のユビキチン化は起こらない。

APC/C複合体のco-activatorであるCdh1とCdc20はWD40ドメインを有し、基質の認識に関わる。APC/C-Cdh1およびAPC/C-Cdc20が認識するモチーフ配列としてD boxとKEN boxが知られており、両方が共に存在している事が多いが、一方のみも事や、どちらも無い事もある。Cdh1はKEN box、Cdc20はD boxに対する依存性が比較的強い。Non canonical recognition motifはAPC/Cに直接認識されていると考えられている。

Cdh1のターゲットにはサイクリンA、B、Cdc20、Aurora-A、Plk1、geminin、Skp2が含まれ、Cdc20のターゲットにはサイクリンA、B、セキュリンなどが含まれる。Cdh1はM期後期からG1期にかけて活性を示し、Cdc20はM期に活性を示す。哺乳類細胞の細胞周期にはCdc20は必須であるが、Cdh1は必ずしも必要ではない。Cdh1の機能が損なわれると、G1期が短縮し、S期が遅延し、様々なDNA異常が生じる。Cdh1はサイクリンA、Bの分解を通じてmitotic exitに寄与しているものと考えられるが、mitotic exitに必要ではない。Cdh1は細胞のquiescenceを維持する役割があるものと考えられる。QuiescenceにおけるサイクリンA、Bの除去や、Cdc25Aを分解してCdkの活性を抑制したり、Skp2を分解してp21、p27、p57の蓄積を促すなどする。APC/C-Cdh1によるSkp2の分解はpRbにより促進される。MCM複合体のローディングに関わるCdt1を抑制するgemininもCdh1の基質である。G1/S移行期にCdh1はE2FターゲットであるEmi1の結合とCdk1/2によるリン酸化により不活性化される。Emi1はmitosis後期にPlk1によりリン酸化されSCFβTrCPによる分解に導かれる。APC/C-Cdh1はCdc20の分解を誘導するが、APC/C-Cdc20によるCdk1/2の分解はCdh1を活性化させる。サイクリンB1はM期の終わりにAPC/C-Cdc20により分解される。APC/C-Cdc20の活性はサイクリンB1-CDK1やPLK1により促進される。M期の前中期においては、紡錘糸が全てのキネトコアに接続されるまで、Mad2がCdc20に結合する事によってAPC/Cの活性は抑制されている。

NIH3T3細胞のG0期や分化したC2 myoblastでサイクリンBの分解が持続する事から、quiescenceにおいてもAPC/C-Cdh1の活性は持続しているものと考えられる。

ニワトリDT40細胞(ノックダウン/ノックイン実験が容易)において、Cdh1をKOした時、X線照射によるG2アレストが保たれなくなるが、UVによるG2期の遅延はCdh1の欠損による影響が認められない。

SCF(Skp1-Cullin1-F-Box)はCullin1、Roc1、Skp1とF boxタンパクから成る複合体が、ヒトでは56種のF boxタンパクの存在が見積もられている。F boxタンパクは基質の認識に関わり、多くの場合は特定の修飾を受けたタンパク質を認識する。細胞周期制御に特に関わりの深いものにはSkp2、Fbxw7が挙げられる。Skp2はS期からG2期にかけて活性を示し、Brca2、Cdt1、サイクリンA、D、E、E2F1、c-Myc、p21、p27、p57などが含まれる。Skp2はM〜G1期にはAPC/C-Cdh1による分解を受けている。この分解はpRbのAPC/C-Cdh1への結合を通じて促進される。Skp2 KOマウスでは発育遅延が観察され、肝細胞や肺胞上皮細胞で多倍体化が認められているが、p27を欠損させるととこれらの表現形が解消される。Fbxw7のターゲットにはAurora-A、c-Jun、c-Myc、サイクリンE、mTORなどが含まれる。

FBXO4、FBXW8、FBXO31もSCF複合体の基質認識サブユニットで、これらはサイクリンD1の分解を誘導する。FBXO4、FBXW8は細胞分裂に必要で、その発現はIR照射による増加を示さない。一方でFBXO31は通常の細胞分裂には必要ではなく、その発現はDNA傷害によりATM依存的に増加する。FBXO31の抑制はIR照射によるG1アレストの誘導を阻害する。FBXO31の強制発現によってもG1アレストが誘導される(Santra et al., 2009 #492)。

他に重要なF boxタンパクとしてTrCP1があり、これはβ-catenin、Cdc25A、B、Wee1、サイクリンD、Emi1、H-Ras、IkBα、NFkB、p53などの分解に関わる。

<CDKI>

CDKの活性は、サイクリン量以外の点でも調節を受けている。CDKに結合してその機能を阻害するCDK阻害タンパク(CDKI)としてINK4A(p16とも呼ばれる)、INK4B(p15)、INK4C(p18)、INK4D(p19)、p21(WAF1、CIP1、CDKN1A)、p27(KIP1)、p57(KIP2)などがある。INK4Aと同じ遺伝子領域からはリーディングフレームの異なるARF(マウスではp19、ヒトではp14とも呼ばれる)と呼ばれる機能の異なる別の細胞周期制御に関わるタンパク質も産生される。INK4はCDK4/6を抑制し、p21、p27、p57はより広範な活性をもち細胞周期のより後期で形成されるCDK複合体の全てを阻害できる。p21やp27は細胞分裂を促進するシグナルにより活性化されるPI3K-Akt/PKBによりリン酸化され核外へ移送させられるとその細胞周期抑制機能が抑制される。

<リン酸化によるCDKの活性制御>

CDK自身のリン酸化修飾も細胞周期の制御に関わっている。Wee1は間期には安定に存在しCDK1、2をリン酸化し不活性化させているが、G2〜M期にはプロテアソームにより分解される。MYT1もCDK1をリン酸化し不活性化させるが、その活性はM期にはリン酸化により抑制される。Cdc25A〜CはCDK1、2を脱リン酸化させて活性化させる。サイクリンH、CDK7、MATよりなるCAKもCDK1を活性化させる。活性化されたCDKはWee1及びCdc25をリン酸化し、前者の機能を抑制、後者の機能を促進してポジティブフィードバック作用を発揮する。Wee1とCdc25はチェックポイントカスケードのエフェクターとして重要な役割を果たしている。Cdc25はChk1/2によるリン酸化を受けてその機能を抑制される。PIM1はCDC25A、Cをリン酸化して活性化させ、一方でC-TAK1を抑制する。C-TAK1はCDC25Cを抑制する。PLK1はサイクリンBやCDC25B、Cの核内移行を促す他、WEE1やMYT1を抑制してCDK1の活性化に寄与する。PLK1によるサイクリンB1のリン酸化は、そのCRM1との結合を阻害してサイクリンB1の核外移行を抑制させる。PLK1の活性化にはAurora Aが関わっていると考えられており、その活性化はBoraにより促進される。PLK1はBoraをリン酸化し分解に導き、Aurora Aの中心体への移行を促す。Aurora Aの活性化がどのようになされているかは不明である。TPX2やI-2がPP1によるAurora Aの不活性化を抑制する事やAjubaがAurora Aの自己リン酸化を通じた活性化を促進させる事などが報告されている。

<E2FとpRb>

S期への進行に重要な役割を果たす転写因子E2Fは、pRbによってその転写活性能が抑制されているが、その抑制はサイクリンD-CDK4/6によるpRbのリン酸化によって解除される。pRbはG0期ではほとんどリン酸化されていないが、G1期に入るとリン酸化され始め、R点を通過した後も、サイクリンE/A/BとCDKとの複合体によってリン酸化が維持され、有糸分裂が終わるとPP1によって再び脱リン酸化される。

pRbには類似した機能を果たすp107(RBL1)、p130(RBL2)が存在するが、それらはpRbほど癌と強い関わりを持たない。p107はpRbよりも遅れたタイミングでG1後期からS期に高い活性を示し、一方p130は主にG0期の維持に働くと考えられている。pRbを欠くマウスは生存できず、このマウスでは造血系と神経系の発達が過剰なアポトーシスなどにより損なわれている。CDK4/6は本来pRbによる細胞増殖やアポトーシスの調節点として獲得されたものである可能性が考えられる。p107やp130を欠損するマウスは系統によっては生存可能である、両方欠く場合は致死となる。p130の欠損は静止期におけるp107の発現を増加させる。

IMR90細胞を細胞老化させた場合、H3/4Ac、H3K4me2,3の減少やH3K27me3、H4K20me3の増加が認められるが、このH3K4me2,3の減少は静止期へのシフトに際しては起こらず、その減少には脱メチル化酵素であるJarid1a/bのpRb依存的な機能が関わっている(Chicas et al., 2012 #341)。MEFではpRbとJarid1a/bの相互作用が示されているが、このIMR90細胞においては否定的なデータが得られている。H3K4me2,3の脱メチル化はE2Fターゲットで細胞周期制御に関わる遺伝子に多く認められる。Jarid1aを強制発現させた細胞ではpRb依存的なH3K4me3の脱メチル化及び細胞老化が引き起こされる。Jarid1a/bのいずれかのみを抑制した場合にはほとんど影響がないが、両方欠く場合にはpRbを抑制した場合と同様にH3K4me3の減少と細胞老化が抑制される。ただしこの時E2Fターゲットの脱抑制は部分的なものである。

E2FファミリーにはE2F1〜8が存在する。E2F1〜6はDP1かDP2と結合して転写調節を行う。E2F7、E2F8はそのような機能をもたず、その存在はE2F1~6の作用に拮抗的に働く。E2F1〜3はpRbが結合していなければ転写を活性化するが、pRbが結合しているとpRbがHDACを引き寄せるなどして逆に転写を抑制する。E2F4、5は核内局在シグナルは持たないが、p107やp130と結合してそれにより主に転写を抑制する。E2F6はpRb、p107、p130と結合せず転写抑制因子として機能するようである。G0期で静止している細胞ではE2F4~5が大量に存在しており、p130と結合している。E2F4、5はINK4A依存的な細胞増殖の抑制における重要なターゲットである。E2Fにより転写が活性化される遺伝子にはサイクリンEやMcm3などが含まれる。p27はG0期においても高いレベルで存在しているが、サイクリンE-CDK2によるリン酸化を受けると分解が誘導される。サイクリンA-CDK2はE2F-DPをリン酸化し、その解離と不活性化を促す。また同時にE2F1がユビキチン標識を受け分解に導かれ、代わりにE2F7が発現してE2F依存性の転写を阻止する。マウスの肝細胞では離乳後E2F7、E2F8の発現が増加し、特にE2F8の発現増加はマウス肝細胞の多倍体化に大きく寄与している。この時E2F8は少なくともE2F1ターゲットの細胞周期関連遺伝子の発現を抑制する事でDNA複製後の細胞分裂を抑制していると考えられる。なお、E2F7とE2F8を共に肝臓特異的にノックアウトさせたマウスでは肝細胞の多倍体化は著しく抑制されるが、肝細胞の分化や機能、再生には差異が見いだされなかった(Pandit et al., 2012 #408)。

E2FはDP1かDP2とヘテロダイマーを形成して転写調節を行うが、ヒト繊維芽細胞(TIG3細胞)でDP1をノックダウンすると後述するSAHFの形成を伴う細胞老化が引き起こされる(Maehara et al., 2005 #)。DP1のノックダウンはpRbやp53が不活性化されているHeLa細胞においても増殖を抑制させる。E2F1、2、3を全て抑制した細胞でも増殖が抑制される。一方DNAやpRbと結合はできるが転写活性化能を持たないE2Fを強制発現させた細胞では増殖が保たれているが、これは内在性のE2Fの作用である可能性が後に示唆されている。興味深い事にこの時、INK4Aの発現やTGFβなどによる細胞老化の誘導が抑制されるようになる。E2F4とE2F5を抑制した場合にもINK4Aによる細胞老化の誘導が損なわれるようになる。

WI38細胞などで細胞老化に伴い核内移行が促進されるAGO2のE2Fターゲットへの結合が促進され、その多くでは遺伝子発現レベルの低下が起こる(Benhamed et al., 2012 #362)。AGO2はpRbと相互作用するが、E2FターゲットへのリクルートメントはpRbに依存していない。AGO2の抑制は細胞老化を遅らせる。

pRbはE2Fを介さずとも細胞周期の抑制に作用できる。pRbはAPC/C-Cdh1と結合し、Skp2の分解を促す事で、p21やp27の分解を抑制する。p107やp130はこのような機能を示さない(Binne et al., 2007 #409)。

MEFにおいてはINK4Aによる細胞老化の誘導にはpRbが必要である。p107あるいはp130の一方を欠損するMEFではINK4Aによる細胞老化の誘導は損なわれないが、両方を欠損する場合は損なわれる。DNA傷害は、p107とp130を欠くMEFには細胞老化を引き起こさせるが、pRbが欠損している場合は細胞老化が抑制される(Bruce et al., 2000 #560)。

<p53による細胞周期の制御>

細胞は過剰なストレスの下では一時的に細胞周期を停止したり、あるいは細胞老化やアポトーシスを起こす。このような制御に中心的な役割を果たしていものがp53で、この遺伝子にはヒトの癌細胞の30~40%と、最も高い割合で変異が見つかる。自然に発生したマウスリンパ腫や肉腫において、Cre-loxPシステムを用いて正常なp53の発現を誘導すると癌の退縮が起こる(Ventura et al., 2007)。p53は中程度の酸化ストレス下ではそれを防御するような遺伝子発現を惹起するが、酸化ストレスが強いと細胞老化やアポトーシスを引き起こす。p53は半減期が20分程度と短く、そのタンパクレベルが精密に制御されている。p53はATM やATRによるリン酸化を受けると分解から保護される。p53は通常Mdm2によりユビキチンが付加され、細胞質に移送されて分解されている。p53がリン酸化されるとMdm2との結合が妨げられ分解を免れる。Mdm2はまたp53によって転写が促進され、ネガティブフィードバックが形成されている。Akt/PKBはMdm2をリン酸化し核移行を促す事を通じてp53の分解を促進する。またMAPKシグナル伝達経路はEtsやAP1(c-Fos、c-Jun)を通じてMdm2の転写レベルを増加させる。p53により誘導される遺伝子には、Mdm2の他、p21、14-3-3σ、Reprimo、Gadd45、PCNA、Bax、Bxl-L、Fas、Fas-Lなどが含まれる。

ARFはMdm2と結合しその作用を抑制する。ARFの細胞増殖抑制能はp53依存的である。ARFはE2Fやc-Mycの結合配列をそのプロモーターにもつ。p53はARFのプロモーターに結合してその発現を抑制する。p53はまたβカテニンの分解に関わるSiah1の転写を通じて、サイクリンDとARFの発現抑制にも働く。このARFの抑制はp53の発現に対してネガティブフィードバックを形成している。

p53に関しては他にもいくつかのポジティブ及びネガティブフィードバックの存在が知られており、そのタンパク量は複雑に制御されている。また、p53にはC末端を欠くp53βやN末端を欠くΔ133p53といったアイソフォームも存在している。ヒト繊維芽細胞の細胞老化に際しては、full lengthのp53の発現上昇および活性化に加えて、p53βの増加とΔ133p53の減少も報告されている(Fujita et al., 2009 #146)。p53が細胞老化の制御に中心的な役割を果たすように、p53βの強制発現やΔ133p53のノックダウンも細胞老化を誘導する。In vivoにおいて細胞老化を起こしている大腸腺腫でもp53βの増加とΔ133p53の減少が認められている。

<G0期>

細胞老化の状態とは別に、可逆的にG1期から細胞周期を脱したG0期が存在する。培養細胞などに対して、足場や血清を取り除いたり、接触阻止を起こさせりすると細胞がG0期に入ってゆく。これらの状態を解除するとS期に進行していくが、それに要する時間はG1期からS期への進行に必要な時間よりも長い。G0期の細胞ではDNA複製の為のライセンシングに関するタンパク質の発現が低下しており、クロマチンに対するCdc6の結合が減少している。またCDK4/6と協調してCdc6を安定化させるサイクリンE1、E2を共に欠くMEFは増殖は可能であるがG0期からの脱出が損なわれている。これらの事が、G0期からS期への進行に長い時間を要する要員の一つになっている事が考えられる。

G0期で静止している細胞ではpRbファミリーの中で特にp130が高いレベルで発現しており、E2F4/5、主にE2F4と結合してE2Fターゲットの発現を抑制させている。サイクリンD1の発現も低下しており、pRbファミリータンパクは活性化された状態にある。pRb KOマウスの細胞ではG0期に異常はないが、G0期にある細胞で急激にpRbを抑制した場合には細胞周期の再開が起こる。G0期にある細胞ではp27の発現が亢進している場合が多い。HSCではp27よりもp21がG0期の維持に重要である。

<チェックポイント>

細胞周期には先述したR点におけるG1/S期のチェックポイントの他、G2/M期の移行およびM期の中期から後期への移行にかけてのスピンドルチェックポイントという二つの重要なチェックポイントが存在する。なおG1/S期チェックポイントを制御するATM/ATRはS期においてもCdc25Aの抑制、およびATM-NBS1によるSMC1やFANCDのリン酸化を通じてS期の進行を抑制する。

G2/M期チェックポイントにおいては有糸分裂の開始の決定がなされ、スピンドルチェックポイントでは染色体分配の決定がなされる。G2/M期チェックポイントが活性化されると、Chk1によりリン酸化されたCdc25に14-3-3が結合しその核内移行を阻害して機能を抑制する。DNA傷害はM期の進行に重要なPLK1を抑制しPLK3を活性化させるが、これらにもChk1/2が関わっている事が示唆されている。PLK1/3はしばしば同じターゲットの異なる残基をリン酸化し、例えばPLK1はp53を抑制するが、PLK3は活性化させる。p53のターゲットであるp21はAPC/Cの抑制に関わるEMI1の発現を低下させ、サイクリンの分解を促進させる。PLK1とCdc25BはG2アレスト後の細胞周期の再開に必要で、これらの活性化にはAurora Aが関与している。Chk1の脱リン酸化にはPP1やPPM1Dが関わっている事が示唆されている。Akt/PKBによるChk1のリン酸化は、ATM/ATRによるChk1のリン酸化を抑制する。JNKやp38MAPK下流のMAPKAPK2はそれぞれCDC25B、Cをリン酸化しその機能を抑制する。

スピンドルチェックポイントはCdc20によるAPC/Cの活性化およびそれによるセキュリンの分解を抑制している。この時Mad2はCdc20と結合し、APC/CとCdc20の結合を抑制している。p31cometがMad2に結合するとその抑制が解除される。未接続の動原体はMad1/2の複合体を形成させ、これがフリーのMad2に対してCdc20との結合を促進する。BubR1/Bub3はMad2と協調してAPC/C-Cdc20複合体によるCdc20の自己ユビキチン化と分解を促す(Foster & Morgan, 2012 #416)。スピンドルチェックポイントの制御には動原体と紡錘体の接触、および二つの中心体から伸長する紡錘糸と動原体との間に生じる張力により調節されていると考えられる。紡錘体と接続されていない動原体が一つでもあればスピンドルチェックポイントは活性化される。紡錘体の結合していない動原体はBub1/3、BubR1、CENP-E、Mad1/2、MPS1をリクルートし、これらはチェックポイントを活性化させる。

スピンドルチェックポイントに関わるMad1/2、Bub1、BubR1のいずれかを片アリルでも欠くと、染色体分配の異常は増加するが、致死とはならない。この時スピンドルチェックポイントの機能は低下はするが、完全には破綻しない。

異数性の程度が高過ぎない場合には、ROSの増加とATM、p53が活性化され、細胞の増殖が抑制される事がある。この時DNA傷害マーカーの発現やChk1/2の活性化は認めらない場合のある事が報告されている(Fang & Zhang, 2011 #537)。

<DNA複製のライセンシング>

S期におけるDNAの複製はゲノム上の多数の複製起点から並行して進められる。複製起点とは実際にDNAが合成され始める点を指し、複製開始を規定する領域はレプリケーターと呼ばれ、両者は必ずしも一致しない。複製起点の分布は細胞の種類によって異なり、配列によって一意的に定められている訳ではない。DNAの複製に際して、イニシエーターにはまず6つのサブユニットからなるORCが結合する。ORCの結合領域は酵母では配列特異性を有するが、高等動物ではない。ORCが結合すると、Cdc6とCdt1がリクルートされ、さらにそれらによりMCM2〜7がリクルートされ、pre-RCが形成される。MCM4-6-7はヘリカーゼとして作用する事でDNAの複製開始を補助する。DNA複製の準備が整い、複製が開始されるとpre-RCはゲノムから外れる。再度のpre-RCの形成(ライセンシング)はM期終期以降に行われる。Cdt1と結合してMCMのローディングを抑制するジェミニンはS期に発現しM期終了時にAPC/Cにより分解される。またサイクリンA2-CDK2によるCdc6のリン酸化を通じた核外移送の促進とCdt1のリン酸化を通じた分解の促進も再度のMCMのローディングの抑制に寄与する。細胞周期が一回転する間にpre-RCの形成が一度しか起こらないようにする事で、DNAの複製が一度だけ起こるようになっている。

<S期におけるヒストンの合成>

S期にはヒストンの合成も増加する。ヒストン遺伝子がゲノム上に多数存在しているのはS期の限られた時間内に多量のヒストンを合成する必要があるためである可能性が考えられる。ヒストン遺伝子クラスターはカハール小体に局在している。哺乳類においては、S期初期にヒストン遺伝子を制御する転写因子NPATがサイクリンE-CDK2により活性化される。S期特異的に転写されるヒストンmRNAの成熟には3'末端配列の除去が必要であり、これはS期に発現が増加するSLBPに依存して行われる。S期中にDNAの合成を阻害すると、SLBPの発現が高いままヒストンの合成は減少する。

<M期>

M期には有糸分裂と細胞分裂が行われ、有糸分裂は前期(Prophase)、前中期(Prometaphase)、中期(Metaphase)、後期(Anaphase)、終期(Telophase)に分けられる。G2期の終わりから、サイクリンB1-CDK1の核内流入が起こる前期までは、G2/M期チェックポイントが機能しており、この段階を過ぎるとG2期へは戻れなくなる。前期には染色体の凝縮や紡錘体の形成、中心体の分離が開始される。前中期ではAPC/C-Cdc20が活性化され、その活性は後期まで持続する(その後はAPC/C-Cdh1がG1期まで活性を発揮する)。これと併せてサイクリンAの分解が起こる。また前中期では染色体の凝集が進行する他、核小体や核膜の崩壊や微小管の動原体への結合が起こる。中期には染色体が細胞の赤道面に配列する。後期では染色体の分離が始まり、終期では核小体や核膜の再構成が起こる。

<染色体の凝縮>

姉妹染色体の対合にはコヒーシンが、染色体の凝縮にはコンデンシンが関わっている。コアサブユニットとしてコヒーシンはSmc1/3、Scc1/3を、コンデンシンはSmc2/4を含む。コヒーシンの安定的な結合にはSoroninが必要で、これはコヒーシンを不安定化させるWAPLをクロマチンから除く作用によっている。コヒーシンは姉妹染色体を結びつけているが、APC/Cによりセキュリンが分解されると、それと結合していたセパレースの抑制が解除され、セパレースによるコヒーシンの切断が起こる。コンデンシンには、CAP-D2、CAP-G、CAP-Hをサブユニットに持つコンデンシンIとCAP-D3、CAP-G2、CAP-H2をサブユニットに持つコンデンシンIIが存在する。コンデンシンIは核膜が崩壊するまでは間期に局在するが、コンデンシンIIは細胞周期を通じて核内に局在する。コンデンシンによるATP依存的なDNAへの正の超らせんの導入作用はCDK1により促進される。脊椎動物においては染色体の凝縮が起こる前にはほとんどのコヒーシンはゲノムから外れている。

M期前期における染色体腕からのコヒーシンの除去にはAurora BとPLK1が関わっている。後期におけるセントロメア同士の接着維持にはSGO1やHaspinが必要で、SGO1のセントロメアへの局在にはAurora B、BUB1、PP2Aが必要である。SGO1-PP2AはPLK1によるコヒーシン解離の促進を抑制する。SGO1はPLK1およびAPC/Cの作用により除かれていく。

<染色体分配>

染色体分配時に機能する動原体には、その最も深い部分にはCENP-Aが存在し、その外側にMis6/CENP-I、Mis12、Ndc80複合体が存在する。さらにその外側に紡錘糸の伸長やその動原体との相互作用を調節するCENP-E、MCAK、ダイニン、およびスピンドルチェックポイントに関わるMad1/2、BubR1が存在している。Mad1/2は間期には核膜に結合しているが、有糸分裂期には動原体に引きつけられている。紡錘体の形成を制御するキナーゼにはサイクリンB1-CDK1や、PLK1、NEK2、HEC1、GSK3、BUB1/3、BUBR1、Aurora A/B、Haspinなどがある。HEC1の動原体へのリクルートにはNEK2やPLK1によるリン酸化が関わっている。サイクリンB1-CDK1によるBUB1やINCENPのリン酸化はそれらへのPLK1のリクルートを促す。染色体パッセンジャー複合体(Aurora B、Borealin、INCENP、Survivin)は紡錘体の形成と細胞分裂に重要な役割を果たす。Survivinはこの複合体のセントロメアへの局在を制御している。Aurora Bは染色体の正常な分離に関わっており、そのセントロメアにおける活性化にはINCENPとの結合とTD-60が必要である。Haspinはセントロメア領域においてH3T3をリン酸化し、Survivinの結合を促す。微小管結合タンパクch-TOGは紡錘体の形成に必要で、その中心体への局在にはTACCtの相互作用と、その為のTACCのAurora Aによるリン酸化が必要である。ch-TOG-TACC複合体は微小管のマイナス端を安定化させる。

<核膜の崩壊と再構築>

M期における核膜の崩壊はサイクリンB-CDK1による核膜複合体のリン酸化により開始される。核ラミナのリン酸化も核膜の崩壊に必要である。崩壊した核膜の一部は小胞体に吸収され、M期後半ではそれら核膜小胞が分離した染色体の表面に分布するタンパク質と相互作用しながら核膜が再形成されていく。

<細胞分裂>

分かれた二群の染色体から伸び、それらを結ぶ中心点付近で微小管が重なり合う領域、セントラルスピンドルは細胞分裂の制御に関わっている。その形成にはキネシンタンパクMKLP1(KIF23)、MgcRacGAP(Cyk4 : RhoのGAP)からなるセントラルスピンドル複合体が関与している。M期後期ではMgcRacGAPはRhoのGEFであるECT2をリクルートし、RhoAを活性化させる。活性化されたRhoAは収縮環の形成を引き起こさせる。PLK1の抑制はMgcRacGAPとECT2の相互作用を抑制する。PLK1のセントラルスピンドルへの局在にはPRC1(protein regulating cytokinesis 1)が必要である。染色体パッセンジャー複合体は後期にはセントラルスピンドルに局在する。その複合体中のAurora BはMgcRacGAPのリン酸化を通じてRhoAの活性化に寄与する。Aurora Bをリン酸化するChk1を抑制すると細胞分裂が阻害される。収縮環の収縮のための主要なモータータンパクはミオシンIIで、サイクリンB1-CDK1による、ミオシンIIサブユニットMLCのリン酸化はその機能を抑制させる。MLCKやROCKによるMLCのリン酸化はミオシンIIの機能を促進させる。

<M期の進行制御>

M期の進行を制御するキナーゼには、CDKの他、Nek2を含む11種類のNIMA関連キナーゼ(NEK)、Plk1を含むPolo関連キナーゼ、Aurora関連キナーゼ、Warts関連キナーゼなどが存在する。Nek2Aは中心小体の分離に作用している。中心体周辺への細胞骨格タンパクやモータータンパクなどの集積にはPlk1やAurora-Aが関わっている。Aurora-AはG2期から中心体に、また分裂前中期から中期にかけては紡錘極から紡錘糸上に存在し、TPX2と共に紡錘体を束ねる事に寄与している。Aurora-AによるCENP-Aのリン酸化は動原体の制御にも関わっている。Aurora-BはAurora-AによるCENP-Aのリン酸化に依存してCENP-Aをさらにリン酸化する。Aurora-Bはスピンドルチェックポイントに関わるBubR1の動原体への集積およびリン酸化に必要である。Aurora-BはINCENPやSurvivinと複合体を形成して分裂中期にはセントロメアに、分裂後期にはセントラルスピンドルに局在を示す。Plk1もS/G2期から中心体で増加し、分裂期には核内、動原体、紡錘体、セントラルスピンドルと局在が変化する。その間Plk1は中心体の成熟の他サイクリンB-CDK1の活性化、動原体と微小管の連結、およびセントラルスピンドル上に存在するモータータンパクを介して細胞質分裂の制御にも関わっている。Warts/Lats1とLats2/Kpmの発現は細胞周期を通して変化しない。どちらも間期には中心体、分裂期には紡錘極から紡錘体上に、分裂終了時にはミッドボディ(細胞分裂時に二つの核の間に形成されるくびれ部分)に存在する。WartsとLats2はCDK1の活性を負に制御できる。WartsはLIMK1を介して細胞質分裂の制御に関与している事が報告されている。正常な4倍体細胞ではp53およびpRb依存的に細胞周期が停止させられているが、不活性型のWartsを発現させた細胞では8倍体細胞が出現するようになる。種差はあるが、Lats2の強制発現によるG2/M期での細胞周期の停止が報告されている。Lats2はDYRK1Aをリン酸化し、DYRK1Aによる、pRbやE2Fを含む複合体のリン酸化を通じて細胞老化の誘導に寄与する事ができる(Tschöp et al., 2011 #445)。WartsとLats2はどちらも分裂期にはリン酸化修飾を受けている。両者はキナーゼドメイン以外のアミノ酸配列が大きく異なっており、独立した機能を多く有しているものと考えられる。Lats2については、中心体へのチューブリンをリクルートする事、及び中心体でAurora-Aと会合しその基質となる事が報告されている。

FOXM1はM期の進行に重要なサイクリンB、PLK1、Aurora B、Cdc25b、Nek2の転写を促進させる。FOXM1の活性はG2期まで抑制されており、その発現はS期からG2期にかけて最大となる。FOXM1の発現は細胞が増殖を停止した状態では低下する。




その他の参考文献
キーワードで理解する細胞周期イラストマップ、中山敬一/編集、2005、羊土社
Ma & Poon, 2011 #368
Coller, 2007 #369
Boonstra & Blomen, 2007 #370

  • 最終更新:2013-02-21 13:33:01

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