5.3 細胞老化

<細胞老化>

細胞が不可逆的に分裂を停止する事を細胞老化と言う。癌細胞の周辺では細胞老化を起こした細胞が見つかる事が多く、それは癌細胞の存在、あるいはその発生を助長したような環境が正常な細胞に対して引き起こさせたものであったり、癌細胞の前段階の細胞であったりする。癌組織以外においても、in vivoにおいて真皮の繊維芽細胞(Herbig et al., 2006 #162)、肺の繊維芽細胞(Muller et al., 2006 #165)、肺胞細胞(Tsuji et al., 2006 #163)、気管支上皮細胞(Zhou et al., 2011 #164)、メラノサイト(Michaloglou et al., 2005 #170)、血管内皮細胞(Minamino et al., 2002 #166)、肝細胞(Kang et al., 2011 #169)、肝星細胞(Krizhanovsky et al., 2008 #167)、軟骨細胞(Price et al., 2002 #168)などで細胞老化が認められている。

ヒトの繊維芽細胞では細胞分裂に伴いテロメアが短縮してゆき、それにより細胞老化が引き起こされて細胞分裂を停止する。細胞老化が回避された場合、細胞分裂に際して多くの染色体異常が蓄積してゆき細胞が死滅する。これをクライシスと言う。一部の細胞がこれら二つの段階を生存して不死化する事がある。マウスの繊維芽細胞では、ヒトと異なりテロメラーゼが発現している事が寄与して、培養中にしばしば不死化に至るが、ヒトの繊維芽細胞ではほとんどそうはならない。

<ヒトおよびマウス繊維芽細胞の細胞老化>

マウスの胎児繊維芽細胞(MEF)は20%の酸素濃度下で強い酸化ストレスを受ける。培養下におけるMEFの細胞老化は通常酸化ストレスによるものである。MEFを3%の酸素濃度下で培養すると細胞老化が抑制される。MEFでは酸化ストレスがINK4A/ARFを活性化し、p53とpRbに依存して細胞老化を起こす。このときp53の役割はpRbよりも大きく、またそのp53の役割はヒト程はp21の活性化に依っていない。p21を欠くMEFにおいても、ARFの強制発現により細胞老化が引き起こされる。INK4AやpRbを欠くMEFでも細胞老化は起こる(Itahana et al., 2004 #171)。

ヒトの繊維芽細胞はMEFより酸化ストレスに対する抵抗性がずっと強い。ヒトの繊維芽細胞を継代していくと、テロメアの短縮によりATMがp53を活性化させ、p21の発現が上昇するなどして細胞周期が停止する。ヒト繊維芽細胞のテロメア短縮による細胞老化にはp53やp21が必要である。しかし、活性型のRas(H-RasV12)を強制発現させて増殖を異常に刺激した場合に見られる細胞老化(OIS : Oncogene-induced cellular senescence)においては異常に活性化された複製フォークでATRの活性化を伴うDDRが起こり、結果的にはINK4A依存的な細胞老化が誘導される事が提唱されている。この強制発現は、DNAの複製が起こらなければ、DDRを引き起こさせない。

<ヒト初代繊維芽細胞の細胞株依存的な細胞老化プロセス>

ヒト繊維芽細胞で細胞老化研究に良く用いられるWI38細胞とBJ細胞はそれぞれ肺と皮膚から得られたもので、後者の方がテロメアが長い。BJ細胞はINK4Aをほとんど発現しておらず、一方WI38細胞では継代に伴って早くからINK4Aの発現が上昇してゆく。このINK4Aの上昇は、20%でなく3%の酸素濃度下で培養しても影響されない事から、酸化ストレスに依っているのではない事が示唆されている。BJ細胞でもWI38細胞でも継代に伴いp21の発現は上昇していく。BMI1の強制発現によりINK4A/ARFを抑制すると、INK4Aの発現が見られるWI38細胞では分裂寿命が延長するが、INK4A/ARFとは独立にATMの活性化からp21の発現に至るシグナル経路で分裂寿命が規定されているBJ細胞の分裂寿命は影響されない。またWI38細胞はINK4A/ARFによるブレーキが上乗せされているため、テロメラーゼの強制発現による不死化がBJ細胞よりも起こりにくい(Itahana et al., 2004 #171)。

細胞老化に伴う遺伝子発現パターンの変化がヒト繊維芽細胞とHMECで大きく異なっている事も報告されている(Zhang et al., 2002 #383)。また、Rasの強制発現に際して、HMECはTGFβシグナリング依存的でINK4A、pRb、p107、p130、ATM、CHK2、p53、p21には依存しない細胞老化を起こす(Cipriano et al., 2011 #562)。

<加齢に伴うINK4A、ARF、p21の発現増加>

ヒトでは、ARFよりもINK4Aの方が細胞老化や癌の抑制に重要で、マウスではその逆であるらしい。INK4AよりもARFを欠損したマウスの方が癌の発生率が上昇している。ヒトの癌における点変異はARFよりもINK4Aで多く見つかる。ヒトの細胞にRasの発現により細胞老化を誘導させた際にはINK4Aの発現は上昇するがARFの発現は上昇しない。マウスの細胞の場合はARFの発現も上昇する。ヒトの多くの組織で加齢に伴いINK4A mRNAの発現が増加する。マウスではINK4Aに加えてARFとp21のmRNA発現上昇も広範な組織で認められている。マウスにおけるこのようなINK4Aの発現の増加はEts-1の発現増加によっている可能性が示唆されている。心臓と腎臓におけるINK4AとARFの発現変化はCRによってある程度抑制されるが、p21はほとんど影響を受けない。肺やリンパ節、子宮におけるINK4A、ARFの発現上昇はCRによって影響されない。一方p27やINK4C、INK4Dの加齢に伴う発現上昇はマウスでは広範には認められない(Krishnamurthy et al., 2004 #172)。

p21プロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないでマウスに導入した解析では、その発現は手足のひらを除いて一生を通じて低く、DXRの投与により肝臓、腎臓、皮膚などで約36時間、一過的に発現が増加する事が示されている。また老齢マウスの腎臓ではp53の活性化を伴わずにp21の発現が3~4倍増加するが、他の組織では変化が認められていない(Ohtani et al, 2007 #153)。INK4Aにレポーターを連結させて発現させた解析では、リンパ節、肺、脾臓、回腸、十二指腸、精巣などで加齢に伴うシグナルの増加が認められている。p21プロモーター下のレポーターと異なり、この場合のシグナルはDXR投与による大きな変化が認められていない(Ohtani et al., 2007 #153)。

<細胞老化制御におけるINK4Aとp21の協調>

ヒト繊維芽細胞の複製老化においては、細胞老化の確立に際してはまずp21が、次いでINK4Aが大きな役割を果たす事が示唆されている(Stein et al., 1999 #202)。細胞老化に際して細胞周期が停止したばかりのEarly senescent状態ではLate senescent状態ほどINK4Aの発現は増加しておらず、pRbも抑制されていない。また、Early senescent状態では血清による刺激によりサイクリンD1とCDK6の結合が回復する。サイクリンD1とCDK4の結合はLate senescnet細胞でも比較的残存している。p21はEarly senescent状態でもLate senescent状態でも発現が強い。INK4AのノックアウトマウスにDMBA/TPAを塗布し、皮膚がんを誘導すると良性腫瘍の発生率は正常であるが悪性腫瘍の発生率は増加する。一方p21のノックアウトマウスにDMBA/TPAを塗布した場合には、良性腫瘍の発生率は増加したが、それら良性腫瘍に対する悪性腫瘍の割合はWTマウスの場合と大きな違いは生じない(Takeuchi et al., 2010 #191)。

<細胞老化とROS>

ヒト繊維芽細胞をコンフルエントな状態で培養し続けると、INK4Aの発現が増加し、細胞周期の再開は損なわれる。この時、予めMnSODを強制発現させておくと、INK4Aの発現増加は抑制され、後に細胞周期を再開できるようになる。なお、コンフルエントな条件下での培養はp53やp21のタンパク量に変化を及ぼさないが、MnSODを強制発現させて培養した場合にはp21のタンパク量は増加する。MnSODの強制発現はテロメラーゼ活性には影響を及ぼさない(Sarsour et al., 2005 #583)。

<メラノサイトの細胞老化>

細胞老化のメカニズムに関しては、繊維芽細胞の他では特にメラノサイトにおける、その良性および悪性の腫瘍にしばしば変異の見られるBRAF(BRAFV600E)の役割が比較的良く調べられている。BRAFはA-RAFやC-RAFと並んでRASからのシグナルをMEK1/2に伝達する。BRAFV600Eの変異はメラノーマや、ほくろの中のメラノサイトにおいても認められ、ほくろではINK4AやSA-β-galの活性も増加している(Michaloglou et al., 2005 #170)。BRAFV600Eをノックインしたマウスではp16を発現するほくろの形成が促進される(Dankort et al., 2009 #181; Dhomen et al., 2009 #182)。この細胞老化はINK4A非依存的であるが、INK4Aを欠く場合には悪性化は促進される(Dhomen et al., 2009 #182)。加えて同時にARFを不活性化させた場合にもこの細胞老化はバイパスされない(Haferkamp et al., 2009 #183)。BRAFV600EはMEK-ROS-JNKシグナリングを通じてFOXO4を活性化させ、それにより誘導されるp21が細胞老化に重要である事が示されている(de Keizer et al., 2010 #428)。

この他にも、一部のOISはINK4A非依存的に起こる事が報告されている。こうしたメラノサイトには、テロメア長には異常が認められない(Gray-Schopfer et al., 2006 #186)。メラノサイトにH-RASG12を発現させた場合にはER associated unfolded protein responseが起こり、INK4Aやp53の発現、およびSAHFの形成を伴わずに細胞老化が起こる(Denoyelle et al., 2006 #185)。N-RASQ61Kの発現によっても細胞老化が引き起こされるが、この場合INK4AもARFも必要ではない(Haferkamp et al., 2009 #183)。これらの報告にも関わらず、メラノーマではINK4AやARFの、それぞれ単独あるいは両方の変異がしばしば認められる(Freedberg et al., 2008 #184)。

<老化細胞の蓄積>

細胞老化を起こした細胞は前癌病変に蓄積が認められるが、癌細胞自体は細胞老化様の形質を示さない。この蓄積は細胞老化が多発している為であると考えられる。マウス肝細胞において恒常的に活性を示すN-Rasの強制発現はINK4Aやp21の発現上昇を伴う細胞老化を引き起こすが、その後これらの細胞はCD4+ヘルパーT細胞依存的に除去される。通常は60日以内で完全な除去が成されるが、獲得免疫が損なわれているマウスではN-Ras発現細胞の比率に大きな変化は認められない(ただしp21の発現は消失し、p16の発現も緩やかに低下していく)。CD4+ヘルパーT細胞の働きが抑制されているマウスではN-Rasの発現はHCCを引き起こさせる。獲得免疫が正常なマウスでは変異型N-Rasを認識するT細胞が出現している。老化細胞の除去はN-Rasの発現だけでなく細胞老化自体にも依っていて、それはArf KOマウスではこれらの細胞の除去が起こらない事により示されている。肝細胞ではマクロファージや活性化T細胞、B細胞などで発現しているMHCIIが発現しており、その発現は一部の老化細胞で増加する。この肝臓におけるMHCIIの発現が抑制されると老化細胞の除去が損なわれる。C型肝炎患者のうち、HIVにも感染していてT細胞の機能が低下しているものでは細胞老化を起こした肝細胞の蓄積が増加しているが、この場合は細胞老化を起こした細胞の除去効率が低下している事の寄与が大きいと考えられる(Kang et al., 2011 #169)。

CD4+ヘルパーT細胞は癌細胞に細胞老化を引き起こさせる能力を有する事も報告されている。インスリンプロモーター下でT抗原を発現させたマウスでは、発生する膵癌に対して、T抗原を認識するヘルパーT細胞が働きかけ、IFNγおよびTNF依存的に癌細胞に細胞老化を引き起こさせる。INK4AとARFを同時にKDしておくとこの細胞老化は抑制される(Braumuller et al., 2013 #579)。

<老化細胞の蓄積が個体老化に及ぼす影響>

細胞老化自体の意義とは別に、細胞老化を起こした細胞が個体に与える影響についても調べられている。INK4Aプロモーター下流に、投薬によりアポトーシスを引き起こせるようカスパーゼを融合させたタンパク質をコードした遺伝子を連結したものをマウスゲノムに組み込み、解析がなされた。解析にはBubR1の発現レベルが低下し、INK4A依存的に骨格筋や脂肪組織の老化が促進されるマウスが用いられている。なお、組み込まれたタンパク質が、内在性のINK4Aと類似した発現パターンを示し、細胞老化によっても発現が誘導される事が確認されている。3週齢以降3日おきに投薬を行ったマウスでは、10ヶ月齢時点でINK4A依存的に起こる白内障、筋の萎縮、皮下脂肪量の低下、及び運動能力の低下といった変化が軽減されていた。一方で、INK4Aに依存しない事が報告されている不整脈などの加齢変化は影響されなかった。薬剤の投与はマウスの寿命は延長させず、これはこのマウスの主要な死因が心疾患であるためであると考えられる。なお、薬剤投与による有害な変化は見つかっていない(Baker et al., 2011 #204)。INK4Aを発現している細胞が全て細胞老化を起こしている細胞であるとは限らない事は念頭に必要がある。

同様に細胞老化を起こしているかは不明であるが、マウスやヒトのT細胞でも加齢に伴いINK4Aの発現は増加する(Liu et al., 2011 #471; Liu et al., 2009 #472; Lemster et al., 2008 #473)。Lck発現細胞でINK4Aを欠損させ、派生するT細胞系列のINK4Aを抑制したマウスでは、加齢に伴う胸腺の萎縮、naïve T細胞の産生低下、メモリーT細胞の恒常的増殖の低下、抗原刺激によるnaïveおよびメモリーT細胞の増殖活性化の抑制などが抑制されるが、癌の発生は増加しない。一方でCD19発現細胞でINK4Aを欠損させ、派生するB細胞系列でINK4Aを抑制した場合には5-60週齢頃から癌が頻発する(Liu et al., 2011 #471)。

<老化細胞の特徴>

細胞老化した全ての細胞に認められる訳ではないが、細胞老化を起こした細胞の一般的な特徴としては、SA-βgal活性の上昇、細胞の増大と扁平化、DDRの持続、及び成長因子や細胞外マトリックス分解酵素(MMP)、サイトカインなどの分泌の亢進(SASP : Senescence associated secretory phenotype)などが挙げられる。SA-βgal活性の上昇のメカニズム及びその意義は明らかにされていない。また、SA-βgalの活性は培養下でコンフルエントに達し増殖を一時的に停止した細胞や血清を除いて増殖を一時的に停止させた細胞においても可逆的に上昇し、その活性は必ずしも細胞老化のマーカーとはならない(Yang & Hu、2005 #187)。細胞の扁平化にはCDK5によるアクチン結合タンパク質Ezrinのリン酸化が関与している(Yang & Hinds, 2003 #188)。細胞の扁平化はH-RasV12による細胞老化の誘導では特に良く認められるが、一方でBRAFV600Eの発現やp400の抑制による細胞老化に際しては細胞が紡錘形に変化する事が報告されている(Chan et al., 2005 #156; Michaloglou et al., 2005 #170)。Rafの活性化により誘導される細胞老化では細胞はむしろ小さくなる。また発現マーカーとして、INK4Aやp21のようなCDKIの他、繊維芽細胞でラミンB1の発現低下が報告されている。このラミンB1の減少はp53やpRbの活性化により誘導できるが、p38やNFkB、ROS、ATMには依存しておらず、mRNAの安定性の低下により引き起こされる事が報告されている(Freund et al., 2012 #417)。

<SASPの引き金>

SASPは一般的にDDRを伴う細胞老化においては認められるが、INK4Aやp21の強制発現による細胞老化に際しては認められない。一方MEFでは20%酸素濃度下での細胞老化ではSASPを伴わないが、3%酸素濃度下でIRにより誘導される細胞老化ではSASPが起こる事が報告されている(Coppe et al., 2010 #189)。INK4Aの発現が低いまま細胞老化を起こしたヒト細胞で、p53を不活性化させ細胞の増殖を再開させた場合、既に誘導されていたSASPは残存し、SASPは必ずしも細胞老化と常に結びついてはいない。ヒト繊維芽細胞(HCA2)において、グルココルチコイドは細胞老化は抑制しないが、SASPの発現は抑制する事が報告されている(Laberge et al., 2012 #345)。ATMやChk2の抑制はp53依存的な細胞老化に加えDDRによるSASPの誘導も抑制する(Rodier et al., 2009 #190)。ただしSASPは必ずしもATMやChk2の活性化を伴わない。なおRASの活性化やp53の不活性化によるSASPの誘導はより早く起こる。RASの活性化やp53の不活性化によるSASPの誘導は、他のストレスによる細胞老化に伴うSASPに比べ多くの因子の分泌が活性化される。

<SASPの認められる細胞種>

SASPはin vivoでもメラノサイト、繊維芽細胞、肝星細胞(Schnabl et al., 2003 #192)、内皮細胞、乳腺、大腸、肺、前立腺などにおいて認められている(Coppe et al., 2009 #191)。培養下において細胞老化に伴う遺伝子発現パターンの変化を繊維芽細胞、上皮細胞、および血管内皮細胞で調べた研究では、遺伝子発現変化の様相は異なる細胞種間で大きく異なり、炎症関連遺伝子の発現増加は繊維芽細胞で顕著である事が報告されている(Shelton et al., 1999 #193)。アストロサイトがSASPを起こす可能性も示唆されている(Salminen et al., 2011 #194)。アストロサイトは比較的繊維芽細胞と類似した形質を示す細胞で、培養条件下において複製老化や酸化ストレス、プロテアソームの阻害による細胞老化を引き起こす事が報告されている(Bitto et al., 2010 #197)。In vivoにおけるアストロサイトの加齢変化のうち良く知られているものとしてその細胞のマーカーでもあるGFAPの発現増加が挙げられるが、その発現増加にSASPの制御にも重要であるTGFβ1が関わっている可能性が示唆されている。TGFβ1シグナリングも加齢に伴い増強される。また、AGEレセプターやToll-likeレセプター2、4を通じて、あるいは直接の相互作用によりNFkBの活性を促進するHMGB1の発現も増加する。老化したアストロサイトではIL-1β、IL-6、TNFαなどの発現が増加している事も示されており(Campuzano et al., 2009 #196)、加齢に伴う脳血液関門の透過性の増加にはアストロサイトから分泌されるこれらの因子が関わっている事が報告されている(Abbott et al., 2006 #195)。またマウスの海馬や末梢の神経、およびプルキンエ細胞では、加齢に伴いp21依存的と考えられるp38、SA-β-galの活性およびIL-6産生やROSの増加が認められている(Jurk et al., 2012 #334)。

<SASPが細胞老化や癌化に及ぼす影響>

細胞老化はその細胞自体の癌化は抑制するが、SASPにより分泌が促進されるIL-6、IL-8(CXCL8)、GROα(CXCL1)MMP、VEGFなどは周辺領域の癌の進行を促進する場合がある。SASPにおいて分泌されるプロテアーゼの種類は癌細胞において発現が亢進しているものと類似している。BRAFV600Eによるヒト繊維芽細胞の細胞老化の誘導に際しては、その細胞老化の確立にIL-6の発現上昇が必要である。またこの場合細胞老化が確立した後にIL-6を抑制すると細胞周期が再開する(Kuilman et al., 2008 #198)。OISの確立に際しては、IL-6は分泌を介さない形で産生細胞自らに働きかけて作用をしている事が示唆されている。ただし、IL-6の発現は細胞老化の誘導には十分ではない。一方で癌細胞に対してはIL-6やIL-8はその成長を促す。癌患者では血中のIL-6濃度が上昇している事が多い。IL-8やGROαの受容体であるCXCR2は細胞老化に際して発現が増す。CXCR1/2の強制発現はp53依存的に細胞老化を誘導する。

<SASPの組織の修復に対する寄与>

肝傷害に際して、肝星細胞はまず増殖しECMを産生する。その後これらの細胞は細胞老化を起こし、MMPの分泌を通じてECMを分解する。この時これらの細胞の細胞老化が阻害されると、過度の繊維化が引き起こされる(Krizhanovsky et al., 2008 #167)。皮膚の再生に際しても細胞老化を通じたECMの分解が組織の過度の繊維化を抑制している事が示唆されており、SASPの関与が考えられる(Jun & Lau, 2010 #205)。

<SASPの誘導に関わるエピジェネティック制御>

SASPは主に転写レベルの制御によって起こり、発現の変化する遺伝子がクラスターを形成している事から広範な領域に渡るエピジェネティック制御が関わっているものと考えられる(Coppe et al., 2009 #191)。またエピジェネティック制御の関与を支持する事柄として、SASPの形成が細胞老化後数日をかけて確立されていく事が上げられる。

IL-6やIL-8、および同じくSASPにおいて発現の増加する事のあるOPN(osteopontin)はDNA傷害を伴わないHDAC inhibitor(NaB、TSA、MS275、vorinostat)処理によっても誘導される(Paolli et al., 2012 #未登録)。HDAC inhibitorによる誘導においても、IL-6とIL-8についてはNFkBとATMが必要であり、OPNの場合はNFkBは必要ではない。OPNの発現はドミナントネガティブなHDAC1の強制発現によっても誘導される。

細胞老化に際して、p21は細胞周期を停止させるだけでなく、SASPの誘導にも関与し得る。ヒト繊維芽細胞の細胞老化に伴うDDRは、APC/C-Cdh1を通じてG9a及びGLPの分解を誘導し、IL-6やIL-8の抑制修飾(G9aはH3K9me、GLPはH3K9me2修飾を担う)を減少させる。Cdh1の活性化には、p21のCDKとの結合によるCdh1の抑制的リン酸化修飾の阻害と、Cdc14Bによる活性化が関わっている。Rasの強制発現に際しては、Chk1によるリン酸化修飾を受けてCdc14Bが核小体から核内に解放される。G9a/GLPの発現はDXRにより低下するが、UVによっては低下しない。老齢マウスの肺や脾臓、大腸(ileum)でもG9a/GLPの発現低下とIL-6、IL-8(GROα)の発現増加が起こっている(Takahashi et al., 2012 #154)。MEFにおいてG9aの欠損はINK4AのH3K9me2修飾も低下させ、その発現を増加させる事が報告されている(Wang et al., 2013 #563)。

G9aはH3K9の他、H1、H3K27もメチル化できる。CEBPβを含む転写因子を修飾して活性を負に調節しもする。また、CDP/cut、UHRF1、およびGfi1によりp21プロモーターにリクルートされ、その発現を抑制する事も報告されている。G0期においてはE2F6やポリコーム複合体と相互作用し、E2Fターゲット遺伝子の抑制にも関わっている。多くの癌細胞ではG9aの発現は増加している(Shankar et al., 2013 #553)。

大部分のG9aはGLPとヘテロダイマーを形成し協調的に作用しており、GLP、あるいはG9a/GLPと結合するWizを抑制するとG9aのタンパク量が減少する(Shinkai & Tachibana, 2011 #400)。G9aはRel-Bと直接相互作用する事も報告されている(Chen et al., 2009 #401)。

なお、SASPとの関連は指摘されていないものの、p53がSuv39h1の発現を低下させる事も報告されている(Mungamuri et al., 2012 #533)。p53下流のp21とMdm2はSuv39h1をそれぞれmRNAおよびタンパクレベルで減少させる。さらにSuv39h1の減少はp21の発現増加にも寄与する。p53ターゲット遺伝子プロモーター領域のH3K9me3修飾はp53の活性化に伴い減少する。

<SASPの誘導におけるNFkBシグナリングの役割>

NFkBは種々のストレスやサイトカインなどに対する応答に重要な転写因子であり、加えてヒトの各組織における遺伝子発現パターンの加齢変化に最も関与が大きい事が示唆されている転写因子でもある(Adler et al., 2012 #336)。DNA傷害の中では、特にDSBが顕著にNFkBを活性化させる。このNFkBの活性化は速やか(1~2hr)に起こる。多くの組織で加齢に伴いNFkBのDNAに対する結合が増加する事も報告されている。老齢マウスの皮膚で一過的にNFkBを抑制すると遺伝子発現パターンを含めて加齢に逆行する変化が認められる(Adler et al., 2012 #336)。また、SIRT6やERCC1を欠くマウスの早老はNFkBの抑制により軽減される(Kawahara et al., 2009 #220、Tilstra et al., 2012 #337)。

NFkBによる転写制御とエピジェネティック調節の関係については大きくは下記の事が分かっている。NF-kBに対する遺伝子発現の応答は、SWI/SNFに依存しない速やかなものと、SWI/SNFに依存する遅れて起こるものとがある。前者のような応答を示す遺伝子は転写開始点付近にCGIを有している場合が多い。SIRT6はRel-Aと相互作用し、NFkBターゲットのH3K9脱アセチル化を通じてその発現を抑制する。また、AOF1/LSD2/KDM1bはc-Relと相互作用し、NFkBターゲットのH3K9me2を脱メチル化し、その発現を促進させる。NFkBによる転写制御はヒストンアルギニンメチルトランスフェラーゼCARM1にも大きく依存しているが、その酵素活性はこの場合では不要である(Natoli et al., 2012 #378)。

SASPの誘導にもNFkBシグナル経路が強く関わっている(Salminen et al., 2012)。NFkBファミリータンパクには転写活性化ドメインを有するRel-A(p65)、Rel-B、c-Rel、および転写活性化ドメインをもたないp52、p50があり、これらはヘテロあるいはホモダイマーを形成して転写因子として機能する(Hayden & Ghosh, 2012 #37)。p52やp50のホモダイマーは転写活性化能を有するNFkBと拮抗して転写を抑制するだけでなく、Bcl-3などのパートナーと協調する事で転写を活性化させる事もできる。c-RelはRel-Aよりも認識配列が多い事が報告されているが、各メンバーのターゲットの共通性は高い(Smale, 2012 #400)。IkBはNFkBと結合してその活性を抑制する。この抑制はIKKによるIkBのリン酸化、および引き続く分解により解除される。NFkBの活性調節は主にIKKの活性制御に依存している。なお活性化されたIKKα/βはNFkB以外にもβカテニン、H3S10、TSC1、FoxO3などもリン酸化し、広範な作用を示す。

IKKの活性化に至るまでのシグナル伝達は酵素的な作用によらないタンパク質間相互作用による部分が大きい。その際に機能する重要なアダプター分子にはRIPK1やTRAFが含まれ、これらはIKKもリクルートする。TRAF6やTRAF2はユビキチンE3リガーゼとしても作用するが、IKKの活性化に至るまでのNFkBシグナリングにおける複合体中に見られるユビキチン修飾が有する役割については十分に明らかにされていない。IKKの活性化に至るシグナリングには大別してIKKγ(NEMO)に依存してIKKを活性化させる古典経路とNEMOに依存せずIKKを活性化させる非古典経路が存在する。非古典経路は比較的限られたレセプターを通じた刺激により活性化され、特にB細胞やT細胞の分化に関わっている。老化やそれに伴う疾患については古典経路を介したNFkBの活性化が多く認められる。

NEMOはダイマーやオリゴマーを形成でき、またそのためのドメインはNEMOによるIKKβの活性化に必要でもある。TRAFは両経路、RIPK1は古典経路の活性化に必要である。古典経路においてIKKβを直接リン酸化する酵素として広く認められているものはTAK1だけである。

IkBにはIkBα、IkBβ、IkBε、IkBζ、IkBNS、Bcl-3、p100、p105がある。これらの転写はNKkB自身によっても活性化され、それによるネガティブフィードバック制御が存在する。前三者はNFkBの核内移行ドメインをマスキングしその機能を抑制すると考えられているが、三者共に欠損してもNFkBの核内局在があまり影響されないという報告もある。IkBαはNFkBのネガティブフィードバック制御における応答が比較的早く、主にp65/p50を標的とする。IkBβはp65やc-Relを含むダイマーを抑制するが、核内で合成されたばかりで修飾を受けていないものはDNA上でNFkBと結合してその転写活性化を安定化させる事もできる。p100とp105は、それぞれp52とp50へとプロセシングされる前の段階においてはIkBとして作用する事ができる。IkBζ、IkBNS、Bcl-3は、それぞれNFkBと結合して、その核内移行ではなく転写活性化機能を調節する。IkBNSは転写を活性化させ、IkBζとBcl-3は活性化と抑制のどちらも行う(Hayden & Ghosh, 2012 #37)。またDDRによるNFkBの活性化においては、その活性化に依存してNEMO(後述)の脱SUMO化に重要なSENP2の発現も促進され、この機構もNFkBシグナリングのネガティブフィードバックとして作用する。

C/EBPβはIkBαの発現を抑制するなどして、相乗的にNFkBによる転写促進を活性化させる。ただしC/EBPβの効果はcontext-dependentであり、NFkBシグナル経路を抑制する場合もある。MEFにおけるRASV12発現による細胞老化の誘導にはC/EBPβが必要である事が示されており、さらにこの時C/EBPβはpRbの下流で機能している事が示唆されている(Sebastian et al., 2005 #35)。

DDRに際してのNFkBの活性化にはNEMO(IKKγ)によるIKKα/βの活性化が重要な役割を果たす。DDRはPIASyによるNEMOのSUMO(SUMO1)化を促進させ、これはNEMOの核内局在を促す。このSUMO化はDDRによるNFkBの活性化において特徴的に見られるものである。SUMO化はPARP1依存しており、PARP1は自身とNEMO、PIASy、ATMを含む複合体の形成を促進させる。SUMO化に遅れてATMによるNEMOのリン酸化が起こる。NEMOの活性化にはSUMO化とリン酸化の両方が必要である。リン酸化の果たす役割は不明な部分が多いが、cIAPによるNEMOのモノユビキチン化を促進させる事が報告されている。このユビキチン化はNEMOの細胞質への局在を促す事が考えられている。ユビキチン化されたNEMOの細胞質への移行はTAK1の活性化を促進するものと考えられている。TAK1は種々の刺激に対してのNFkBの活性化に必要である。TAK1はユビキチンに結合するTAB2などを含む複合体を形成しており、そのユビキチンとの結合はTAK1の活性化に必要と考えられる。TAK1の活性化には、それと相互作用するELKSのXIAPやUbc13によるポリユビキチン化が必要で、ELKSとTAK1の相互作用はNEMOとATMに依存している。TAK1はTGFβやTNFα、IL-1βなどによる刺激によっても活性化され、免疫応答におけるNFkBの活性化に重要な役割を有している。TAK1はTAB2、TAB3、TAB4を介してRIPK1やNEMO、MKK3/6といった異なるパートナーと相互作用する。TAK1はIKKα/βを活性化させる以外にも、p38MAPKを活性化させる事によってもNFkBシグナル経路の活性化に寄与する。恒常的にp38MAPKを活性化させると、ATMやChk2の活性化を伴わずにSASPが誘導される。これもNFkBシグナル経路に依存している。p38MAPKは、MSK1/2を介したp65のリン酸化や、MSK1/2によるNFkBターゲット遺伝子のH3S10あるいはH3S28のリン酸化を通じてNFkBシグナル経路を活性化させる。またp38MAPKはJNKやERK1/2などと共にC/EBPβを活性化させる。RIPK1の下流かつIKKα/βの上流で作用していると考えられるTMEM98もTLRリガンドやTNFα、IL-1βによるNFkBの活性化に重要であり、ヒト繊維芽細胞の細胞老化の誘導にも必要である。

他にも、細胞老化や個体老化に伴って発現の増加するRIG1はATM/MAVS経路を介してNFkBを活性化させる。繊維芽細胞の細胞老化に際して増加するセラミドもNFkBの活性化に寄与する。セラミドの増加はneutral sphingomyelinaseの発現の増加によっている。セラミドの増加は種々のストレスによっても引き起こされる。セラミドやその主要な代謝産物であるセラミド一リン酸はPKCζや、p38MAPK、JNK、PP1、PP2Aなどを活性化させる。セラミドの濃度が高過ぎる場合にはPKCζの発現は逆に退化する。PKCζはNFkBシグナル経路を活性化させる他、Aktの抑制を通じても細胞周期の停止に寄与する。p53やKlotho、SIRT6、およびINKファミリータンパクはNFkBの活性を抑制する。p53はWIP1の発現誘導を通じてATM、p38MAPK、およびNFkBの活性を抑制する。KlothoはRIG1と相互作用し、NFkBの活性化を抑制する。SIRT6はRelA/p65と相互作用し、NFkBターゲットを脱アセチル化してその発現を抑制する。INKファミリータンパクもRelA/p65と相互作用し、NFkBの活性を抑制する。この事がINK4Aの発現による細胞老化の誘導に際してSASPが起こらない事の原因となっている可能性が考えられる。ARFの活性化はATR/Chk1を介してRelA/p65をリン酸化させ、その活性を抑制する。p21やp27はNFkBの転写活性を促進する事が報告されているが、その作用はSASPの誘導において大きな寄与は無い事が示唆されている。レスベラトロール投与により分解が抑制されるcAMPも、多くの場合NFkBの活性を抑制させる。その作用機序として、転写レベルの制御による事が示唆されているIkBの発現増加や、p38、JNK、PI3Kの抑制、あるいは活性化されたCREBがNFkBと競合してCBPと結合する事などが挙げられる。ただしcAMPは一方でPKAを通じてp65をリン酸化し、その転写活性化能を促進させる事も可能である(Gerlo et al., 2011 #398)。

<細胞老化とNFkB>


細胞老化に伴うNFkBの活性変化は細胞の種類や細胞にかかるストレスに依存する。NIH3T3細胞のRas強制発現による細胞老化に際してはNFkBが活性化されるという報告がある。IMR90の複製老化やRas強制発現による細胞老化ではNFkBの活性化(核内のp65やp50のレベル)は変化しない。また、SASPの誘導を通じてはNFkBは細胞老化を促進するものと考えられるが、一方で予め恒常的な活性を示すIKKβを細胞に発現させておくと、Ras強制発現による細胞老化の誘導が抑制(遅延)される。これはChk2やp53の活性化の抑制を伴っている(Batsi et al., 2009 #495)。

<NFkBによるゲノム安定性の制御>


p65を欠くMEFでは20%酸素濃度下での培養で始めはwt-MEFと同じタイミングで細胞増殖が停止するが、その後より早く、不死化が起こるようになる。p65を欠くMEFではDNA修復が遅延し、傷害が蓄積するようになっており、それに伴い認められるゲノム不安定性が細胞の不死化を促進させているものと考えられる。3%酸素濃度下ではp65-/-MEFの不死化も著しく抑制される。20%酸素濃度下でTERTを発現させたヒト繊維芽細胞を過酸化水素で繰り返し処理して細胞老化を誘導する時、NFkBを抑制するとやはりゲノム不安定性を伴う細胞の不死化が促進される(Wang et al., 2009 #453)。

<細胞の接触を介した、老化細胞による細胞老化の誘導>

生理活性物質の分泌では無く、細胞の接触を介した連絡も細胞老化制御に関わっている事が示唆されている。細胞老化を起こしたヒト繊維芽細胞は、ROSとギャップ結合依存的に周囲の若い繊維芽細胞にDDRを引き起こす事が示唆されている。老化細胞を培養した後の培地で若い細胞を培養してもこのような事は認められず、若い細胞のDDRは老化細胞により分泌された生理活性物質によって起こされているのではないと考えられる(Nelson et al., 2012 #200)。

<RASシグナリングのフィードバック作用>

細胞老化は先述のようにRASの強制発現によっても誘導される。成長因子により活性化されたレセプターが自己リン酸化を通じてGEFをリクルートすると、そこでRASがGTP結合型に変換され、これがRAFファミリーのタンパク質やPI3Kを活性化させる。RASを強制発現させるのではなく、恒常的な活性を示すような変異を有するRASを内在性のプロモーターにつなぎ発現させた場合には、細胞の増殖は促進されるが細胞老化は誘導されない。恒常的に活性を示すようなRASの変異はヒトの癌の約30%に存在している。高いレベルで発現させられたRASが細胞老化を引き起こすメカニズムは複数考えられる。RASの強制発現による細胞老化の誘導には、ROS、DDR、INK4A、INK4B、p53の増加やオートファジーの促進などが寄与している。INK4Aの発現上昇にはRAF/MEK/ERKパスウェイを介したEtsの活性化が寄与しているものと考えられる。RASの強制発現はROSの増加やERK1/2を通じてp38/MAPKパスウェイを刺激し、このパスウェイも細胞老化の誘導に関わっている。p38/MAPKのターゲットでp53を活性化させる機能を有するPRAKはRasによる細胞老化の誘導に必要である。RASの強制発現によるROSの増加の一因はNADPHオキシダーゼの活性化にある。RASを強制発現させた時、初期にはRAFやPI3Kが活性化され増殖が促されるが、その後、特に後者の活性が速やかに減弱する事が報告されている。同時にオートファジーが活性化されるが、これにはPI3K活性の低下が寄与しているものと考えられる。ATG5のノックダウンによりオートファジーを抑制すると細胞老化も抑制される(DeNicola & Tuveson, 2009 #175)。

一方で、CDK4/6に結合できないサイクリンD1KE/KEをもち、かつINK4AとARFを欠損するMEC、あるいはCDK4/6の機能を阻害したHMECでは、オートファジーが亢進しており、ATG5のノックダウンは細胞老化を促進させる(マーカーはSA-β-gal)(Brown et al,., 2012 #494)。

オートファジーには抑制的なmTORと細胞老化の関係については、ラパマイシン処理が細胞老化を遅らせる事が報告されている。細胞周期の停止に際して、mTORの活性が維持される場合には細胞老化が誘導され、そうでなければ細胞周期の停止は可逆的なものに留まる事が提唱されている(Blagosklonny, 2012 #441)。口腔ケラチノサイトにおいても、IRによる細胞老化の誘導がラパマイシンにより抑制される。この時、ラパマイシンはp53の発現や応答に変化は与えないものの、ROSの発生や、γH2AX、INK4Aの発現を抑制している。さらに、FoxOの発現や局在には影響は無く、MnSODの発現がタンパクレベルで増加し、細胞老化の抑制に寄与している(Iglesias-Bartolome et al., 2013 #564)(MnSODの活性や安定性は翻訳後修飾による影響を大きく受ける)。低酸素条件がmTORを抑制する事、および可逆的な細胞周期の停止を引き起こさせる事も報告されている。p21の強制発現やDNA傷害により細胞周期の停止を誘導するとき、併せて低酸素条件下におくと、p53の活性化やH2AXγのリン酸化は損なわれないにも関わらず、細胞老化がある程度抑制される(Leonteiva et al., 2012 #344)。

低酸素条件下における細胞老化の抑制に関しては一方で、MSCを用いた解析から、HIF1αによるTWIST発現の誘導、TWISTによるE2A抑制、およびその結果としてのE2Aによるp21発現の誘導の阻害が、細胞老の抑制に重要である事が示されている(Tsai et al., 2011 #442)。

RASのGTPase活性を促進するNF1やp120RAS-GAPの抑制も細胞老化を引き起こす。ただしMEFではNF1の抑制は不死化を招き、細胞老化は引き起こさない。NF1のKDに際して、その発現の低下と同調してERKとAKTのリン酸化に反映される活性が増加するが、すぐにこれらの活性は低下する。MEFにおいてはERKやAKTの活性化は持続する。RASの下流分子であるRAFを発現させた場合、Sprouty2/4、120RAS-GAPなどのRAS-GAPの発現が増加し、RAS-GEFであるRAS-GRP1の発現は低下する。RAS-GTPレベルはRAFの発現後速やかに低下する。またこの時ERKを抑制する複数のDual specificity kinases(DUSPs)の発現も増加する。NF1のKDによっても、程度はより小さいもののこれらと類似した変化が認められる。このようなネガティブフィードバック作用は、NF1を欠損したヒトの神経繊維種に見られる老化細胞中においても作用している事が示されている。IMR90ヒト繊維芽細胞においてPI3Kを阻害するとSA-β-gal陽性の増殖停止細胞が増加する事から、特にPI3Kにかかるネガティブフィードバックが細胞老化に関与している可能性が提唱されているが、ここで起こっている増殖停止が細胞老化であるかは不明である(Courtois-Cox et al., 2006 #176)。

<RASシグナリングの癌抑制作用>

マウスにおいて、pRbの欠損はE2F依存的にN-RASのイソプレニル化を促進させ、それにより活性化されたN-RASはDDRを通じてp130依存的な細胞老化を引き起こす。これらの事は、pRb+/-マウスにおいて、正常なpRbアリルの欠損により引き起こされる甲状腺C細胞腺腫の形成に際して見られる。pRbに加えINK4AやArfを欠く場合には腺腫の悪性化が促進される。従ってここではN-RASは細胞老化を通じて腺腫の悪性化を抑制する作用を示しているものと考えられる(Shamma et al., 2009 #178)。

<ヒト繊維芽細胞の細胞老化の不可逆性>

細胞老化が起こった後でp53とpRbを不活性化させると、MEFの場合は細胞の増殖が再開するが、ヒト繊維芽細胞の場合は再開しない。この時DNAの複製は起こるが、その後の細胞分裂が阻害されている。細胞老化に伴うROSレベルの上昇がPKCδを活性化させ、それが何らかのメカニズムを通じて細胞分裂に必要なWARTSの発現を抑制している事が関与している事が報告されている。PKCδ自身もNADPHオキシダーゼの活性化を通じてROSの産生に寄与している。INK4AによるE2Fの抑制は酸化ストレス抵抗性の低下を招く事でROS-PKCδのフィードフォワード回路の活性化に寄与するものと考えられる(Takahashi et al., 2006 #173)。

M期の進行阻害に関連して、Rasの強制発現によりIMR90細胞の細胞老化を引き起こした時、E2Fファミリーの中ではE2F7のみ発現が増加する事も報告されている(Aksoy et al., 2012 #342)。E2F7はE2F1やp53のターゲットである他、そのプロモーター上にNFkBの結合予測配列も存在している。E2F7の発現はpRbが抑制されている場合にさらに増加し、特にDNAに対する結合が顕著に増加する。E2F7のターゲットには有糸分裂に関わるものが多く含まれる。pRbを抑制した場合、通常よりは遅れて細胞老化が起こるが、併せてE2F7を抑制した場合には細胞老化が抑制される。E2F7のみを抑制した場合には大きな影響は認められない。pRbを抑制した場合の細胞老化ではM期の進行が阻害されている細胞が多く認められるが、E2F7はその制御に関与しているものと考えられる(Aksoy et al., 2012 #342)。

DNAの複製を阻害するエトポシドによりWI-38細胞の細胞老化を引き起こすとき、低酸素条件下(0.2% O2)にある場合には、エトポシドを除いた後に細胞分裂が再開する。この時p21の発現上昇は一過的であるものと考えられる。低酸素が及ぼすこのような効果はmTORの抑制によっているものと考えられる(Leonteiva et al., 2012 #344)。

テロメラーゼと温度感受性のT抗原を発現させたヒト乳腺繊維芽細胞では、高温下での細胞周期停止後、再び温度を下げた時遺伝子発現パターンが大部分元に戻る事が報告されている。この時一過的な発現変化を示す遺伝子にはNFkBターゲットが多く含まれるが、それらは特に血清の除去によるG0期への誘導に際しても発現の変化が認められる(Rovillain et al., 2011 #386)。

<ヒト繊維芽細胞の細胞老化におけるE2Fターゲットの抑制とPMLボディの関係性>

細胞老化における細胞分裂停止の不可逆性に関して、pRbを通じたE2Fターゲット遺伝子の抑制メカニズムが、静止期におけるそれと異なっている事がヒト繊維芽細胞を用いた解析から報告されている。ヒト繊維芽細胞の細胞老化に際してはpRb/E2F複合体はpRb依存的にPMLボディに局在するようになる。PMLボディにはヘテロクロマチン構成タンパクやPP1αが濃縮されている。PP1αはCDKと拮抗してpRbを制御しているものと考えられる。ここで記述されているPMLボディの主要な構成成分であるPMLはp53により誘導されるタンパク質の一つであるが、これを欠く細胞ではp53依存的な細胞老化及びアポトーシスが抑制される。PMLを強制発現させた場合にも細胞老化が誘導されるが、これはp53ではなくpRbに依存する(Vernier et al., 2011 #174)。HP1αなどのSAHF構成因子は一過的にPMLボディに局在を示すが、確立されたSAHFはPMLボディとは重複せずに存在しており、SAHF内での遺伝子発現の抑制とPMLボディ内での遺伝子発現の抑制は異なるものである。なおマウスではPMLの欠損は癌の発生を促進させる事が報告されている。

細胞老化に際し、PMLはp130/E2F4複合体依存的にTBX2のプロモーターにリクルートされ、その発現を抑制させる。TBX2はINK4A/B、ARF、p21の発現抑制に関わっている他、直接的な相互作用を通じてPMLの機能を抑制する。静止期にある細胞でもTBX2の発現は抑制されているが、その場合の抑制にはPMLは関わっていないと考えられる。TBX2の抑制は細胞老化を誘導し、逆にTBX2の強制発現はPML(PML IV)の強制発現による細胞老化の誘導を抑制する(Martin et al., 2012 #558)。

<PTEN>

IMR90においてはPTENによる細胞老化の正の制御が報告されているが、一方でその欠損によるp53依存的な細胞老化の誘導も報告されている。PTENはPIP3からPIP2を産生するホスファターゼで、その欠損は恒常的なAktの活性化をもたらす。NotchやRas-MAPK経路はPTENの転写抑制に通ずる。SALL4、SNAIL、ID1、EVI1(MECOM)、c-jun、NFkB、BMI1もPTENの転写を抑制する事が報告されている。多くの癌でPTENの機能は抑制されている。プロモーター領域のメチル化によるPTEN発現の抑制も報告されている。PTENはユビキチン化によるタンパク量の制御や、Srcによるリン酸化による細胞膜への移行の抑制などの翻訳後修飾制御を受けている。p53との直接的な関係性については、PTENはp53と結合し、p53を安定化させ、その転写活性を増加させる。またp53はPTENの発現を増加させる。PPARγやEGR1もPTENの発現を増加させる事が報告されている(Song et al., 2012 #535)。

PTENの欠損によるp53依存的な細胞老化は前立腺上皮細胞のがん化(前立腺上皮内腫瘍 : Prostate Intraepithelial Neoplasia : PIN)と関連して良く調べられている。前立腺がんでは高い割合でPTENが片アリル欠損している。p53の不活性化が遅れて起こるらしい事が知られている。PTENを完全に欠損するマウスでは前立腺上皮細胞はp53依存的に細胞老化を起こすが、片アリル欠損ではそうならない。PTEN+/-のMEFは逆に細胞の増殖が促進される。PTENを完全に欠損するマウスでは前立腺癌の形成が促進され、p53の不活性化はこれを著しく憎悪させるが、p53の欠損のみによっては前立腺癌形成の目立った促進は認められない(Chen et al., 2005 #179)。前立腺癌において一過的にPTENを抑制させる事で、細胞老化を誘導させられる事も示されている。なおPTENの欠損による細胞老化に際しては、p53の発現は翻訳/タンパクレベルの制御で増加している。PTENに抑制をかけた時、細胞老化は速やかに誘導され、細胞分裂を経る必要はなく、DDRも起こらない。PTENの下流に位置するmTORを欠損させたり、ラパマイシンで処理すると、PTENの抑制による細胞老化の誘導が阻害される(Alimonti et al., 2010 #454)。ヒトの繊維芽細胞や上皮細胞においてもPTENの抑制によるp53依存的な細胞老化の誘導が報告されている(Kim et al., 2007 #455)。

PTENの抑制による細胞老化の誘導に関わる他のパスウェイも報告されている。PTENはモノユビキチン化修飾を受け核内の局在が促進されるが、核内のPTENはAPC/Cと相互作用し、APC/C-Cdh1複合体の形成を促す事で、そのホスファターゼ活性非依存的に細胞の増殖を抑制できる。MEFにおいて、PTENの欠損に加えてCdh1を強制発現させた場合には細胞老化の誘導が抑制される。このCdh1の強制発現はINK4AとEts2の発現を抑制するが、p53やp21の発現レベルには大きな影響を与えない。PTENとCdh1を共に抑制した場合には、細胞老化が更に促進される。この時にはINK4AとEts2の発現は増加するが、p53やp21の発現には大きな変化は認められない(Song et al., 2011 #456)なおPTENは核内でRAD51の発現を正に制御している事も報告されている。

Skp2の抑制はそれ単独では細胞老化を誘導しないが、ARFを欠くかあるいはPTENを片アリル欠くMEFにおいては細胞老化を誘導し、加えてMEFにおけるRASによる細胞老化を促進する。また、RASによる細胞老化をE1Aにより抑制し、さらにSkp2を抑制すると細胞老化の抑制が解除される。Skp2-/- PTEN+/- MEFではDDRは認められず、その細胞老化の誘導に際してはp53非依存的にp21やp27の発現が増加している。またこの時eIF2の活性化により、ERストレスに関与するAtf4の翻訳が促進されている。これらp21、p27、およびAtf4の抑制はいずれも細胞老化の誘導を抑制する。Skp2-SCFのインヒビターは、PTENとp53を欠く前立腺癌由来のPC3細胞の細胞老化を誘導する(Lin et al., 2010 #180)。

なお、PTENを1コピー余分に持たせたマウスは体重が小さく、癌の発生が抑えられており、またそれを抜きにしても寿命が延びている(Ortega-Molina et al., #2012)。このマウスは食事量は増えているが、UCP1や、それを制御するPgc1αやFoxo1の発現に示されるBATの活性も同時に増している。この事がエネルギーの蓄積による傷害の発生を抑え、ひいては老化を抑制している可能性も考えられる。なお、BATにおけるPgc1αやUcp1の発現増加は(少なくとも一ヶ月間の)CRによっては誘導されない。

<細胞老化制御因子が幹細胞に及ぼす影響>

CDKIは幹細胞や前駆細胞の増殖を制限する事で、組織の恒常性維持にも一つの限界をもたらしている。加齢に伴うマウスのHSC、NSC、及びβ細胞の増殖能の低下はINK4Aの作用によるものと考えられ、INK4Aを欠くマウスではこれらの変化が抑制される。マウスのHSCでは、ATMやFoxOを抑制するとROSとINK4Aは増加し増殖は抑制されるが、逆にp21やp27の発現は低下する。FoxOの抑制と同時に抗酸化剤を投与した場合にはこれらの変化が抑制される。一方pRbを欠くHSCでは過剰な増殖が起こる(Macleod, 2008 #203)。



その他の参考文献
McCool & Miyamoto, 2012 #382



  • 最終更新:2013-02-13 12:42:51

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