5.5 CIP/KIPファミリータンパク

<CIP/KIPファミリーの機能>

CIP/KIPファミリーに属するCDKIであるp21、p27、p57はいずれも多種のサイクリン-CDK複合体と結合し、その機能を抑制できる。ただしサイクリンD-CDK4/6については、結合してもその活性を阻害しない場合があり、むしろ低レベルの発現下においてはCIP/KIPタンパクはサイクリンD-CDK複合体の形成を促進して細胞周期を促進し得る。MEFでは、p21とp27を欠損するとサイクリンD-CDK複合体の形成が損なわれる。p27はAblによるリン酸化を受けると、サイクリンD-CDK4/6と結合してもその活性を抑制しないようになる事が報告されている。p21、p27、p57はCDKIとして類似した機能を持つ一方で、発現パターンやタンパク質の構造の差異から異なる役割も有している。

<p21の機能>

p21は後述するように細胞周期制御に関して多様な役割を有しているが、マウスではこれを欠損しても癌化は顕著には促進されず、ヒトの腫瘍においても変異は稀である。p21の欠損により他のCDKIの発現が上昇している可能性も考えられる。なおp21 KOマウスでは生後数ヶ月間は、増殖速度の上昇によりNSCの数が増加しているが、その後老齢時にはむしろ少なくなっている。In vitroにおいて、p21を欠損するNSCは増殖は正常な細胞よりも早いが、より少ない継代数しか生存できなくなる(Kippin et al., 2005 #152)。

p21はアポトーシスの抑制にも関与している。p21はASK1(Apoptosis signal regulation kinase 1)とその基質であるJNKの活性を抑制する事でアポトーシスの抑制に寄与する。Akt/PKBによるp21の安定化と細胞質への移行は細胞の生存を促進する。また、p21はPKAによるリン酸化修飾依存的にカスパーゼ3の機能を抑制し、それによりFasによるアポトーシスの誘導を抑制する。p21は同じくp53のターゲットである14-3-3と協調しサイクリンB-CDK1を細胞質へ隔離する機能も有し、これによりG2/M期チェックポイントの制御にも寄与している。さらに、p21はPCNAと相互作用でき、この事を通じてもS期における細胞周期の停止に寄与できる。p21のPCNAへの結合はPCNAとPOLD及びRFCとの相互作用を抑制する。p21のPCNAとの相互作用は、MMRやBERも抑制する。NERに関わるDDB2はp21の発現を抑制しており、DDB2の欠損によるNERの破綻はp21の抑制によって回避できる事が報告されている(Jung et al., 2010 #155)。

<p21の発現制御>

p21のプロモーターにはMiz1、Mitf、p53、p63、p73、FoxP3、RXR、FoxO、Smadなどが結合し、その転写を活性化させる(Jung et al., 2010 #155)。p53によるp21の転写促進は、p53と共にp21プロモーターに共局在するSWI/SNF2クロマチンリモデリングファミリーに属するp400によって抑制される。p400はp21プロモーターにおけるH2A.Zの配置に関わっている。DNA傷害に際してはp400とH2A.Zは除かれ、Tip60によりプロモーター領域のヒストンがアセチル化される(Gevry et al., 2007 #534)。p400の抑制はp21の発現を上昇させ細胞老化を誘導するが、併せてp53あるいはp21を抑制した場合には細胞老化は回避される(Chan et al., 2005 #156)。アデノウイルスにコードされるE1Aタンパクはp400との相互作用依存的に細胞の癌化を促進させる。腫瘍の多発を伴うVHL病の原因遺伝子であるVHLを欠損するMEFではpRbおよびp400依存的に細胞老化が引き起こされる。VHLの欠損による細胞老化の誘導はマウスの腎臓においても認められる(Young et al., 2008 #157)。Atg7はp400とは逆に、そのオートファジー制御における役割とは独立に、p53と結合してp21を含むp53ターゲットの転写を促進させる。Atg7を欠くMEFでは栄養の枯渇による細胞周期の停止反応が損なわれており、DNA傷害の蓄積を招いてp53依存的なアポトーシスが引き起こされる(Lee et al., 2012 #288)。なお低グルコース条件下におけるp53依存的な細胞周期の停止にはAMPKも必要であり、このときAMPKはp53をリン酸化させている。p53だけでなくMiz1も種々のストレスにより発現が促進される。BRCA1はp53のコアクチベーターとして、p300/CBPのリクルートを通じてp21の発現を促進させる(Jung et al., 2010 #155)。DNAの傷害に際してp53のリン酸化を促進するプロリルイソメラーゼPin1もp21の発現に寄与している。MItfはメラノサイトや破骨細胞の分化に関わる転写因子で、pRbと協調してp21の発現を活性化させる。Brafの活性化はMitfの発現を低下させる。p21のプロモーターに結合する抑制因子としてはc-Myc、CUT、PRMT6(Phalke et al., 2012 #365)などがある。c-MycはMiz1と複合体を形成し、Miz1による転写活性化を抑制する。上皮細胞においてはTGFβはSmadを介してc-Mycの発現を抑制し、加えてSmadのp21プロモーターへの直接の結合を通じてその発現を促進する。TGFβはINK4Bの発現も促進する。Sp1のp21プロモーターへの結合の転写への影響はcontext dependentである。p21 mRNAの伸長はChk1によって抑制される。p21の発現を促進するRBPとしては、HuD、HuR、RBM38、NF90、CUGBP1(カルレティキュリンに拮抗する)、抑制するRBPとしてはMsi1、hnRNP K、カルレティキュリン、AUF1がある。またp21の発現はmiR-17、miR-20a/b、miR-93、miR-106a/bによっても抑制される。miRNA(miR-106b)によるp21 mRNAの分解には、p21 mRNAに対するWig1の結合とWig1によるAgo2のリクルートメントが必要で、ヒト癌細胞でp21とWig1の発現に逆相関関係が認められている(Kim et al., 2012 #411)。let-7a miRNAはNIRFの発現を抑制し、それが何らかのメカニズムを通じてp21の発現を増加させる。UVによるDNAの傷害は、他のタイプのDNA傷害と異なり、p21の分解を誘導する。これはUVによってATR-Chk1が活性化される事でp21 mRNAの伸長が抑制されている為である可能性が考えられる。この事はNERやTLSを促進しているのかもしれない。

Akt/PKB、PKA、PKC、Pim1によるp21 Thr145のリン酸化は乳癌細胞ではp21の核外移行を促進する。ただしこれは内皮細胞には当てはまらない。Akt1/PKB、PKC、Pim1によるp21 Ser146のリン酸化はp21を安定化させる。JNK及びp38によるp21 Ser130のリン酸化はp21を安定化させる。一方サイクリンE-CDK2はp21と結合してp21のプロテアソームによる分解を誘導するが、この時サイクリンE-CDK2によるp21 Ser130のリン酸化修飾はp21の分解プロセスを促進する。p21はSCF-Skp2、APC/C-Cdc20、CRL4-CDT2などによって分解に導かれる(Jung et al., 2010 #155)。

<p27の機能>

p27はCDKIとしての機能の他、細胞質においてRhoAの抑制を通じて細胞の移動を促進し、細胞の癌化に寄与する側面も持つ。p27はNeurogenin2との結合を通じて神経前駆細胞の分化を調節する事も報告されている(Lee & Kim, 2009 #159)。また、p27はp130/E2F4と相互作用し、それらと共にターゲット遺伝子のプロモーターにHDACをリクルートする(Ozono et al., 2009 #158)。

p27を欠くマウスでは細胞の増殖が亢進しており、体も30%程大きく、下垂体腺腫を生じやすい。化学物質や放射線によっても癌が発生しやすくなっている。一方でp27は癌の促進に関わる側面も持ち、p27のヘテロノックアウトマウスではp27を完全に欠くマウスよりも癌が発生しやすい。CDKI機能(N末端領域)を欠くp27で正常なp27を置換したマウスでも多くの組織で過形成が起こるようになり、癌が発生しやすくなっている。ヒトの癌ではp21やp57同様p27の変異はまれであるが、p27の発現低下や細胞質への局在と癌の予後の悪さとの相関が報告されている(Lee & Kim, 2009 #159)。

<p27の発現制御>

p27やp57の発現レベルはプロテアソームによる分解制御に大きく依存している。miR-221とmiR-222は多くの癌細胞でp27及びp57の発現抑制に関わっている(Pateras et al., 2009 #161)。転写レベルでは、STAT1はp27の発現を増加させ、Skp2の発現を減少させる。c-MycはFoxO3A依存的なp27の発現を抑制する。AP-1や過剰なレベルのE2F1もp27プロモーターへの結合を通じてその発現を抑制する。p27の活性はリン酸化によっても制御されている。サイクリンE-CDK2などによるp27 Thr187のリン酸化はSCF-Skp2による分解を促す。Pin1はThr187がリン酸化されたp27を安定化させる。RSK1、PIM、Akt/PKBによるp27 Thr198のリン酸化修飾はp27の細胞質への局在を促進し、cell motilityを促進する。Akt/PKBはp27のサイクリンD-CDK4/6複合体形成能を促進する。ERK1によるp27 Ser10のリン酸化はその分解を誘導する。INK4AのサイクリンD-CDK4への結合を抑制しE2F1による転写を活性化させるSei1のノックアウトマウスでは、膵島でp21及びp27の発現が上昇している。この時膵島のβ細胞の数は正常よりも少なく、インスリン分泌及び耐糖能が低下している(これら以外の大きな表現形は無く、またMEFも調べられた限り正常である)(Marcos-Fernandez et al., 2010 #160)。

<p57の機能>

p57は細胞周期の制御以外にもアポトーシスや細胞の移動などの制御にも関わっている。p57はp21同様JNKの機能を抑制する事でアポトーシスの抑制に寄与できる。p57はミトコンドリアに移行してアポトーシスの誘導を促進する事もできる。p57はアクチンファイバーを安定化させるLIMK1を核内に移行させる機能を有する。LIMK1はRhoパスウェイのエフェクターの一つであり、細胞質におけるLIMK1レベルの増加は癌の転移を促進する。p57はp27と共に脳の発生に際して神経細胞の移動の制御に関わっている。p57は筋細胞やT細胞の分化やシュワン細胞や肝細胞の成熟、HSCの細胞周期の停止などにも関わっている(Pateras et al., 2009 #161)。

p57の発現は主に組織の形成時に見られる。成人したヒトでは、骨格筋、心臓、脳、肺、腎臓、膵島、精巣でp57 mRNAの発現が認められており、マウスも類似した発現パターンを示す。p57を欠損するマウスは軟骨内骨化、先天性口蓋裂、消化器官系の異常、体重の増加、手足の短縮化、副腎皮質の肥大などが認められ、生後すぐに死ぬ個体も多い。生存したマウスは成長が遅延しており、5ヶ月間の観察においては癌の発生は認められない。p57をp27で置換したマウスは正常である。過剰なp57の発現は胎生致死となる。p57の発現は多くの癌で低下しており、いくつかの癌種では予後の悪さと相関している。癌の発生に際しては、初期にはp57の発現は増加し、その後減少していく事が多いようである(Pateras et al., 2009 #161)。

<p57の発現制御>

p57はインプリンティングを受けており、母方由来のDNAから発現するが、父方由来のDNAからもわずかに発現している。p57のインプリンティングはKCNQ1-ICR(Imprinting Control Region)により制御されている。p57の転写レベルはp63、p73、Sp1、ETS、TBP、EGR1、OCT1、NF1、Tcf3、GR及びNotchエフェクターのHes1、Herp2などにより制御されている。Id2はTcf3の機能を抑制する。p63を欠損させたマウスの表現形はp57を欠損させたマウスと類似している。p57はPcGによる抑制も受ける。また先述のmiR-221とmiR-222に加え、p57の発現はmiR-25、miR-92b、miR-106b、miR-17-92によっても抑制される(後二者はp21の発現も抑制する)(Pateras et al., 2009 #161)。


  • 最終更新:2013-02-13 12:56:37

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