6.4 TOR(Target of rapamycin)

<TOR>

TORは酵母からヒトまで保存されているキナーゼで、代謝調節などを通じてCRによる寿命の延長に関わっている。TORは免疫抑制剤ラパマイシンの標的タンパク質として見つかったもので、TORとはTarget of rapamycinの略である。TORを含む複合体にはTORC1とTORC2が存在している。

哺乳類にはmTORC1とmTORC2がり、前者ではRAPTOR、後者ではRICTORがmTORに結合している。これらの複合体ではmLST8やDEPTORといったタンパク質が共通した構成要素として含まれるが、Aktの基質であるPRAS40はmTORC1に、PROTOR1/2やmSIN1はmTORC2にのみ含まれる。ラパマイシンはFKBP12と結合し、それがRAPTORと結合してmTORC1の形成を阻害する。ただし長期のラパマイシン投与では、mTORが不活性のmTORC1に集まって、結果としてmTORC2の機能も低下する場合がある。

<mTORC2>

mTORC2の活性化を制御するメカニズムについては不明な点が多いが、そのターゲットから鑑みて多様な成長因子による刺激を受けているものと思われる。mSIN1の三種類のスプライシングバリアントがそれぞれmTORC2を構成し得て、その内の二種類のみがインスリンによる刺激に応答する。

mTORC2のターゲットにはSGK、PKC、Aktなどが含まれる。AktはmTORC2によってリン酸化されると、引き続きPDK1により別部位がリン酸化され活性化される。mTORC2が抑制されると、FoxO1、3を含むAktの一部のターゲットの活性化が抑制される。mTORC2の活性化はAktによるTSC1/2の抑制を通じてmTORC1の活性化にも寄与する。また、mTORC2は細胞の極性の制御に関わる事も示されている。

<mTORC2と代謝制御>

長期のラパマイシン投与は後述するようにマウスの寿命を延長させるが、一方で同時に耐糖能とインスリン感受性を損なわせる事も報告されている。肝臓特異的にRaptorを欠損させた場合には耐糖能に変化は認められないが、Rictorを欠損させた場合には変化が認められた。インスリン抵抗性試験においてはRictorの欠損による影響が認められず、骨格筋や脂肪組織による補償のためである事が予想されている。ラパマイシンを長期に投与したマウスを一晩絶食させ、その後インスリンを投与しても、肝臓や骨格筋、脂肪組織においてmTORCの基質(PKCα、Akt、SGK、NDRG1)のリン酸化が正常に誘導されない。また、成体マウスにおいてRictorのKOを誘導した場合、ラパマイシンの投与による耐糖能の変化は認められなくなる(Lamming et al., 2012 #287)。

<mTORC1>

mTORC1は活性型のRhebとの結合を通じて活性化される。Rhebはリソソーム膜上に局在しており、その活性はTSC1/2に抑制される。このTSC1/2の抑制の解除は成長因子などの刺激によってなされる。具体的にはTSC1/2はAMPK、GSK3により活性化され、一方でIKKβ、CDK1、ERK、Aktなどにより抑制される。AktはPRAS40のリン酸化を通じてもmTORC1の活性化を促進する。mTORC1のもう一つの重要な活性制御は、Rhebとの結合のためのmTORC1のリソソーム膜上へのリクルートメントで、これはリソソーム膜上に局在するRagの活性化によってなされる。Ragと相互作用するリソソーム上のRegulator複合体と、それと相互作用するv-ATPaseはリソソームから発せられるアミノ酸シグナルを感知してRagを活性化させる(Zoncu et al., 2011 #224)。すなわちmTORC1は成長因子などによる種々の刺激に加えて、それらとは別のメカニズムで、細胞の栄養状態を反映すると思われるアミノ酸代謝を通じた制御を受けている。

mTORC1のターゲットには、4E-BP、S6K、Grb10、ATG13、ULK1/2、RNAP1などが含まれる。4E-BPとS6Kはそれぞれリン酸化により不活性化及び活性化され、翻訳が促進される。ただし、一部の電子伝達系のタンパク質の発現は逆に抑制される可能性が示唆されている。S6Kのターゲットには、翻訳に関わるeEF2K、SKAR、CBP80、eIF4Bの他にもIRS-1、2が含まれており、S6KとGrb10のリン酸化はIISの抑制に働く(Hsu et al., 2011 #225)。ATG13とULK1/2のリン酸化はオートファジーの抑制に機能する。RNAP1のリン酸化は、多量のエネルギーを要するrRNAの転写を抑制させる。他にmTORC1はPGC1α及びYY1と相互作用し、ミトコンドリアの生合成を促進する事が報告されている。mTORC1の抑制は従って、ミトコンドリア機能の制御に関して言えば、その生合成を抑制し、オートファジーによる分解を促進する一方で、電子伝達系のタンパク質の発現を増加させて残存するミトコンドリアの呼吸機能を向上させるものと考えられる。

S6K1のターゲットにはMdm2も含まれる。Dox処理によりMEFにDNA傷害を与えると、p38 MAPK依存的にmTORC1が活性化され、併せて活性化されるS6K1がMdm S163のリン酸化を促進し、その核内移行を抑制させる。Mdm2は主に核内でp53をユビキチン化させていると考えられており、S6K1の活性化はp53の安定化に寄与する(Lai et al., 2010 #466)。p38 MAPKは、14-3-3によるTSC2の抑制を促進させる事でmTORC1の活性化に寄与できる事が報告されている(Hernandez et al., 2011 #467)。

<mTORC1と代謝制御>

IISはAktを通じてmTORC1を活性化させるが、mTORC1はIISを抑制するので、ネガティブフィードバックが作用している。高栄養状態が持続すると、mTORC1によるIISの抑制はインスリン抵抗性の発現に寄与する事になる。絶食時にはmTORC1の活性が抑制され、オートファジーを介したエネルギーの供給、及び翻訳抑制などのエネルギーの節約が起こる。絶食時における肝臓でのケトン体の産生はmTORC1依存的に起こる。TSC1を欠きmTORC1の活性が促進されているマウスでは絶食に際して、PPARαのコリプレッサーであるNCoR1の核外移行が損なわれており、PPARαターゲットの活性化が起こらない。老齢マウスの肝臓では絶食に伴うケトン体の産生が低下しており、NCoR1の核外移行も阻害されている。また老齢マウスではTSC1の欠損による絶食時のケトン体産生の低下が認められなかった事から、mTORC1が加齢に伴う肝臓の絶食に対する反応性の変化に関与している事が示唆されている(Sengupta et al., 2010 #231)。mTORC1は脂肪の代謝制御にも重要な役割を果たしている。脂肪細胞特異的なmTORC1の阻害は脂肪の蓄積を抑制し、脂肪酸のβ酸化を促進させる。これは、mTORC1が阻害される事で、mTORC1によるPPARγの発現の促進、及びSREBP1cの活性化が損なわれるためと考えられる。視床下部においては、mTORC1の活性化は摂食行動を抑制させる事が報告されている。

<TORC1の阻害による寿命の延長効果>

TORC1の阻害は、酵母、線虫、ハエの寿命を延長させる事が示されている。この時ハエの寿命の延長には4E-BPが必要である事が示されている。線虫では、CRにおける場合と同様、TORC1の阻害による寿命の延長にはPHA4が必要である。これらの生物種では、CR処置に加えてTORC1を阻害しても更なる寿命の延長が起こらない事が報告されている。これらの事や、mTORC1のターゲットであるS6Kを欠くマウスの遺伝子発現パターンがCR下のマウスと類似している事は、CRがmTORC1の抑制を通じて作用を示している事を示唆している。ただし、CRのmTORC1活性に対する影響については報告が少なく不明な点が多い。なお、S6Kを欠くマウスは雌のみ寿命の延長が認められる(Selman et al., 2009 #226)。mTORC1の活性はdwarfマウスの肝臓と筋肉でも低下している事が報告されており、IISの抑制もmTORC1を通じて寿命に影響している可能性が考えられる。

ラパマイシンの投与によっては、酵母、線虫、ハエに加え、マウスでも寿命が延長する事が示されている(Harrison et al., 2009 #223)。このマウスについての報告では、ラパマイシンの投与は老齢(20ヶ月齢)に達してから始められている。老齢に達してからのCRではこの報告で見られるような顕著な効果は得られない。ラパマイシンの投与を受け寿命が延長したマウス群の死因のパターンについてはコントロール群と差が認められなかった。9ヶ月齢からのラパマイシンの投与は、肝臓への脂肪の蓄積や心筋の核の形態変化、腱の加齢変化を抑制するが、一方で精巣の機能低下や白内障の悪化をもたらす事が報告されている(Wilkinson et al., 2012 #335)。ラパマイシンはアルツハイマーモデルマウスのアルツハイマーの発症を抑制する事も報告されている。mtorとmlst8をそれぞれ片アリルずつしか有さない雌マウスでは基質のリン酸化状態から見てmTORC2に対してmTORC1の活性が大きく低下しており、平均寿命が14%延びている事が報告されている。ラパマイシンを長期に投与したマウスと異なり、このマウスでは耐糖能は正常であった(Lamming et al., 2012 #287)。

<mTORC1による幹細胞機能の制御>

mTORC1と幹細胞の維持に関する報告もある。マウスの上皮幹細胞をWntによって刺激し続けると、細胞老化が起こり幹細胞の枯渇につながるが、これはラパマイシンによって抑制される。HSCにおいてmTORC1を活性化させるとINK4A、ARF、p21の発現が促進され細胞老化が誘導されるが、これもラパマイシンによって抑制される。


その他の参考文献
Wullschleger et al., 2006 #227
Shart, 2011 #228
Stanfel, 2009 #229
Zoncu et al., 2011 #230


  • 最終更新:2013-02-13 13:14:26

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