DNMTメチル化酵素

Dnmt3aには二つのアイソフォーム、Dnmt3aとDnmt3a2があり、前者は分化後もユビキタスに発現しているのに対し、後者はES細胞や生殖細胞などに限って発現している。Dnmt3a2はDnmt3aとは異なるIntronic promoterから転写され、N末端が短縮されている。

Dnmt3bのアイソフォームについては、エキソン10、11を含むDnmt3b1、6、7、8がES細胞で発現しているのに対し、体細胞ではエキソン10、11を欠くDnmt3b2、3、4、5が発現している。エキソン20〜22もオルタナティブエキソンである。Dnmt3b1、2以外は触媒ドメインをコードするエキソンがスキップされている。他に癌では、より上流にプロモーターをもつアイソフォームも見つかっている。これらのDnmt3bのアイソフォームの使い分けの意義は明らかにされていない。肝細胞癌ではDnmt3b4の高発現がペリセントロメア領域の低メチル化と関連している事が報告されている。

Dnmt3bを欠くマウスは胎生9.5日で死亡するが、Dnmt3aを欠くマウスは生後4週齢まで生きる。Dnmt3aに変異はヒトの急性骨髄性白血病の約22%において認められる。Dnmt3a変異を伴うAMLにおける遺伝子発現の異常の大部分はDNAメチル化の変化を伴ってはいない。Dnmt3a変異を伴うAMLにおけるDNAメチル化状態の異常もMeDIPマイクロアレイ法によを調べられており、その解析からはメチル化が亢進する領域の方が低下する領域よりもむしろ多い事が示されている(Yan et al., 2011)。なおDnmt3a/bはHSCの維持には必要であるが、分化には必要では無い。世界的にもまだ極めて症例報告の少ないICF(The immunodeficiency, centromeric region instability and facial anomalies syndrome)症候群は、その1型においてはDNMT3Bの変異が認められる。この時、DNMT3Bのメチル化活性は低下しているが、完全に損なわれてはいないと考えられている。ICF症候群ではB細胞やT細胞の数は正常であるが血中の免疫グロブリン濃度が低く、また特に染色体1番と16番のペリセントロメア領域でサテライトDNAの低メチル化が認められ、不安定化している。なおDNMT3BはhSNF2H、KIF4A、hCAP-C、hCAP-Gなどのクロマチン構成因子を介してサテライトDNAやrDNAにリクルートされる。ICF患者のリンパ球の増殖を刺激した場合に見られる染色体の異常化は正常な前駆Bリンパ芽球様細胞を5-azaで処理した場合に生じる異常と類似しており、ICF患者の細胞における染色体の異常の原因にはDNAの低メチル化が関わっていると考えられる。DNMT3Bの変異を伴わないICF患者の細胞ではペリセントロメアでは無くセントロメアのサテライトDNAに低メチル化が認められる。DNMT3Bの酵素活性のみを失わせたマウスの一部は成熟に至り、それらについてはfacial anomalies、ペリセントロメア及びsenntoromeのサテライトDNAの低メチル化、及びT細胞数の減少が認められる。ICF患者様の染色体1番及び16番のmultiradial chromosomesや染色体一番のSat2配列に富む領域の脱凝縮は肝癌や骨髄腫においても認められる。ICF患者において、その短い寿命にも関わらずホジキンリンパ腫と副腎皮質腺種がそれぞれ一例ずつ報告されている。

Dnmt1とDnmt3bのmRNAレベルはS期に増加する。Dnmt1はE2F/pRbによる制御、及びSp1/p53による制御を受けている。後者に関してはSp1がp53に対して少ないと転写が抑制され、逆であれば転写が活性化される。Dnmt1の発現はpRb(Bigey et al., 2000)やp53(Peterson et al., 2003)の他にもAPC(Campbell et al., 2003)によっても負に制御されている。AUF1はDnmt1のmRNAの分解を誘導する。Dnmt3a/b共にSp1/3の制御を受けている。Zinc fingerタンパクであるVezf1はDnmt3bの転写の活性化に関わる(Gowher et al., 2008)。Dnmt3bの遠位プロモーターにDnmt3bの発現抑制に関わるエレメントが存在する事が示されているが、そこに結合する因子は不明である。miR-29bはDnmt3a/bのmRNAレベルを抑制する。Sp1もmiR-29bによって抑制される。DNMT1の3' UTRを介してその発現を抑制するmiR148とmiR152はIL-6によって発現が制御される(Braconi et al., 2010)。miR-148はさらにDnmt3bのタンパクレベルを減少させる作用もある。miR-148はDnmt3b1、2、4のmRNAに作用できる。肥満マウスの脂肪組織ではDnmt3a mRNAの発現レベルの上昇が報告されているが、そのメカニズムは不明である(Kamei et al., 2010)。miR-126とmiR-152はDnmt1のタンパクレベルを減少させる。miR-143はDnmt3aのmRNAレベルを減少させる。HuRはDnmt3BのmRNAの安定性を増加させるか、あるいは翻訳を促進する。Dnmt1のプロモーターの非メチル化状態の維持にはPARP1が関わっており、PARGを強制発現させるとメチル化され、発現が抑制される。PARP1はDNMT1と相互作用してメチル化活性を抑制する事もできる。

Dnmt3a/bの翻訳後修飾についてはSUMO修飾のみが知られている。Dnmt3aのSUMO修飾はHDACとの相互作用を阻害する。Dnmt3aがCK2(Casein kinase 2)によってリン酸化されるというunpublished dataがReviewに記載されており、これはDnmt3aの機能を阻害するようである。Dnmt1はUbc9によってSumo化されるとDNA結合能が促進される。Dnmt1はリン酸化修飾により機能が阻害される事が報告されており、CDKL5がそのリン酸化を行う酵素として見つかっている。AktはDnmt1の別の部位をリン酸化し、その安定性を増加させる。Dnmt1はUhrfにリクルートされるTip60によるアセチル化と、引き続くユビキチン化による分解制御も受ける。Dnmt1はSet7/9やLSD1によるメチル化修飾も受け、それらによっても分解が誘導される事が示唆されている。

Stat3はDnmt1を(Zhang et al., 2005)、c-MycはDnmt3aをリクルートする(Brenner et al., 2005)。後者のリクルートメントはp21のプロモーター領域において見いだされている。また、低濃度のDoxはp53を通じてp21の転写を活性化させるが、高濃度の場合はDnmt3aの発現上昇が伴い、DNAメチル化非依存的にp21は抑制されアポトーシスが誘導される(Zhang et al., 2010)。Dnmt3aとp53の相互作用も報告されている(Wang et al., 2005)。NuRD複合体はPRC2もDnmt3aをリクルートする(Morey et al., 2008)。p21とDNMT1は競合的にPCNAと結合する(Chuang et al., 1997)。Sall3はDnmt3aと相互作用し、Dnmt3aによるCGIのメチル化を抑制する(Shikauchi et al., 2009)。

哺乳類の生殖系列で発現している26〜31bpのpiRNAもPiwiと共にDnmtをリクルートする。rRNA上流のp(プロモーター)RNAはDnmt3bをリクルートし、rRNAの発現を抑制させる。Dnmt3aはLsh(Zhu et al., 2006)やBrg1、Mbd3とも相互作用する事が報告されている(Datta et al.,2005)。Non small cell lung cancerの15~20%でBrg1の発現が抑制されている。Brg1はp53の安定性を低下させる事で癌の発生に寄与する事も報告されている。Dnmt3a/bはメチル化されたヌクレオソームにアンカーされる事が報告されているが、一方でDNAメチル化はヌクレオソーム中のDNAよりも露出されたDNAのほうがずっとメチル化されやすい(Gowher et al., 2002)。リンカーヒストンの存在はさらにDnmtのアクセスを難しくする(Zhang et al., 2010)。Dnmt3a/bとNEDD化タンパクの結合も報告されており、Dnmt3bについてはNEDD化CUL4との結合が示されている(Shamay et al., 2010)。なおNEDD化修飾はE3ユビキチンライゲース複合体の形成に関わるキュリンに良く見られる修飾で、CUL4のNEDD化はヘテロクロマチンの形成にも関わる事が報告されている。

ヒトの大腸がん由来の細胞株においては、DNMT1及びDNMT3Bは過酸化水素処理により低発現遺伝子に富みGCに乏しいゲノム領域から高発現遺伝子に富みかつGCに富むゲノム領域に再配置される事が報告されている。UVやIRの照射、PARPなどのNER関連因子の抑制によってはこの事は起きない事が示唆されている。同様な再配置パターンはγH2AX、EZH2、SIRT1についても認められ、再配置先においてこれらは共局在を示す。

5-azaや5-aza-dCは複製中DNAに取り込まれ、そこでDnmtと共有結合する事で以後の機能を阻害する。またそれ以外にも、これらはM期からG0期にかけてCdh1によるDnmtのユビキチン化を促進し、分解を誘導する事が示唆されている。SGI1027はSAMに代わってDnmt1に選択的に結合し、分解に導く。HDAC inhibitorであるSAHAやLBH589もDnmt1の分解を誘導する事が報告されている。Dnmt1に結合しているHSP1がHDAC1によりアセチル化を除かれる事がその機構として考えられている。

  • 最終更新:2013-02-13 13:42:51

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