MAPKシグナリング

MAPKシグナリングは、それぞれがキナーゼである、MAP3KによるMAP2Kの活性化と、MAPK2KによるMAPKの活性化という段階を少なくとも含むシグナル伝達カスケードであり、MAPKにはERK1/2、JNK、p38、ERK5がある。MAP3Kを活性化させるMAP4K、及びMAPKにより活性化されるMAPKAPKも存在する。

活性化されたRasはERK1/2パスウェイのMAP3KであるRafを活性化させ、Rafは同パスウェイのMAP2KであるMEK1/2を活性化させる。MNK1/2やMSK1はERK1/2により活性化されるMAPKAPKであるが、これらは他のMAPKパスウェイでも活性化され得る。

RasにはH-Ras、K-Ras、N-Rasの三種が存在し、K-RasにはさらにK-Ras4AとK-Ras4Bがある。多くの細胞ではK-Rasの発現が最も強く、H-Rasの発現が最も弱い。マウスの発生に必要であるのはK-Rasだけである。ヒトの癌の約20%でK-Rasの変異が認められるが、H-Rasの変異は2~3%についてしか認められない(Prior & Hancodk, 2012 #486)。

合成されたRasはまず細胞質でファルネシル化修飾を受け、次いでER上でRCE1によりC末端が切除され、さらにICMTによりC末端がメチル化される。その後ゴルジ体でDHHC9-GCP16によりパルミトイル化されてから細胞膜へと運ばれる。脱パルミトイル化されたRasは再びゴルジ体へと戻される。これらの修飾は恒常的なものである。K-Ras4Bについてだけは、ERを出た後、ゴルジ体を経由せずに細胞膜へと運ばれ、リン酸化修飾やカルモジュリンとの結合により細胞質に引き戻される。Rasは他にプロリンの異性化やモノユビキチン化、S-ニトロシル化、モノユビキチン化、ADPリボシル化などの修飾を受ける事が報告されている(Ahearn et al., 2012 #487)。

Rasを活性化させるGEFにはSOS1、RASGRF、RASGRPがあり、不活性化させるGAPにはNF1、p120 RASGAP、RASAL、CAPRI、GAP1、SYNGAPがある。p53と結合しアポトーシスの誘導を促進させたり、ATG16と競合する事でオートファジーを誘導するASPP2も、Rasと結合しRas-GTPを増加させる(Wang et al., 2012)。Rasのターゲットには、Rafの他、PI3K、TIAM1、PLCε、RASSF、RALGDS、RIN1がある。

RasのGEFであるSOS1は、Grb2をアダプターとする場合はRasを、EPS8-ESB1をアダプターとする場合はRacを活性化させる。Grb2は刺激を受けたチロシンキナーゼレセプターにリクルートされ、次いでこれがSOS1をリクルートする。SOS1の抑制性リン酸化修飾によるMAPKシグナリングのネガティブフィードバックも報告されている。Grb2はp27やSproutyとの結合によりSOS1との相互作用が抑制される(Pierre et al., 2011 #482)。

JNKパスウェイのMAP3KにはMAP2K1-4、MLK2/3、TPL2、DLK、TAO1/2、TAK1、ASK1/2などがある。MAP2KはMKK4/7である。JNKにはJNK1-3の三種があり、JNK1/2はほぼ全ての細胞で発現しているが、JNK3は主に脳や心臓、精巣で発現している。JNKの重要なターゲットの一つにはJUNがあり、このパスウェイが活性化されていない状態ではJNK2がJUNの分解を誘導するが、活性化された状態ではJNK1がこれを安定化させる。一過的なJNKパスウェイの活性化は細胞の生存を促すが、持続的な活性は逆にTNFα依存的なアポトーシスを誘導する。

p38パスウェイのMAP3Kには、JNKと共通するものとしてはMEKK3/4、ASK1、TAO1/2、TAK1、MLK3、TPL2、DLK1、しないものとしてZAKがある。ASK1は酸化ストレスによるp38の活性化に重要である。MAP2KにはMKK3、4、6がある。p38は自己リン酸化による活性化も可能で、TAB1などはそれを促す。MAPKであるp38にはp38α、β、γ、δの四種が存在する。p38αが最も良く調べられており、これはほとんどの細胞で最も強く発現している。MAPKAPKにはMAPKAPK2-5(MAPKAPK 5はPRAKとも呼ばれる)、MNK1/2、MSK1/2、MNK1/2、などが存在する。p38の作用は多くの面でJNKと拮抗し、細胞周期制御に関しては抑制的に働く事が多い。p38パスウェイとJNKパスウェイ、及びAkt、GSK3βが、互いを負に制御しあう事も報告されている。p38はERKパスウェイにも抑制的に作用する。

BJ細胞のRas強制発現による細胞老化に際しては、p38α、β、γ、δのいずれもが活性化されるが、この場合ではα、γが細胞老化に必要であり、前者はINK4A、後者はp53の活性化に必要である事が報告されている(Kwong et al., 2009 #496)。MKK3/6の強制発現がINK4Aの発現をmRNA及びタンパクレベルで増加させる事も報告されている。



その他の参考文献
Plotnikov et al., 2011 #483
Wagner & Nebreda 2009 #484
Cuadrado & Nebreda, 2010 #485


  • 最終更新:2013-02-13 13:57:04

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