PcG

PcG(ポリコームタンパク質群)が構成する代表的な複合体にはPRC2とPRC1が存在し、後述するように、ある種のPRC1はPRC2によるH3K27me3によってターゲット領域にリクルートされる。PcGは複製中のDNAにも結合し続ける事ができ、抑制的ヒストン修飾の継承に重要な役割を持つ事が考えられる。なお酵母にはPcGやH3K27me修飾は存在せず、線虫や植物ではPRC1は存在していない。

PRC2はEZH1/2(H3K27メチル化酵素)、EED、SUZ12をコアに含む。EZH1/2だけではヒストンメチル化活性は発揮されない。EZH2がES細胞や分裂細胞で発現しているのに対し、EZH1は非分裂細胞で発現している。EZH1のメチルトランスフェレース活性はEZH2よりも弱い。ただしEZH1は直接クロマチンの高次構造を調節して転写を抑制させる事ができる。EZH2についてはDNMTと相互作用する事も報告されている。EZH2はAkt/PKBによりリン酸化されるとH3K27me3修飾活性が抑制される。EEDにはスプライシングバリアントがあり、EED1を含むPRC2はH3K27に加えH1もメチル化できる。EED2を含むPRC4はH1のみをメチル化し、EED3/4を含むPRC3はH3K27のみをメチル化する。PRC4はSIRT1と結合し、癌やES細胞で発現が高い。PRC2はH3K4脱メチル化酵素であるRBP2との相互作用を通じてでも転写抑制に機能できると考えられている。

PRC1はCBX2、4、6、7、8(H3K27me3に結合、Sumo-E3 ligase)、RYBP、PHC1,2,3、RING1、RING18(H2AK119をユビキチン化し、これは転写を負に制御する)、RNF2、BMI1/MEL18/NSPC1をコアに含む。CBX7とRYBPはPRC1複合体中のMEL18と競合的に結合する。H3K27me3はCBX7結合型のPRC1はリクルートするが、RYBP結合型のPRC1のリクルートには影響しない(Tavares et al., 2012 #275)。PRC1による遺伝子発現の抑制は、H2Aのユビキチン化によるElongationの抑制であると考えられているが、一方で脱ユビキチン化がPcGと関連して遺伝子発現を抑制する場合がある事が報告されている。ユビキチン化に依らない遺伝子発現抑制機構も存在していると考えられる。マウスのES細胞においては、PRC1が抑制されると分化プログラムの抑制が解かれるが、PRC2が抑制されても分化は起こらない。この細胞ではPRC2が抑制されてもPRC1のリクルートは大きな異常を示さず、PRC1がH3K27me3非依存的に十分そのターゲットを抑制している事が考えられる。

他にPhoRCというグループのPcG複合体があって、ショウジョウバエではDNA結合能をもつPhoと非メチル化H3K9を認識するSFMBTタンパクを含む。哺乳類ではYY1がPhoの相同タンパクとして見つかっている。ただしYY1の結合領域にはむしろPRC2の結合は少ない傾向にある。PhoはPRC1/2と相互作用する。ショウジョウバエでは、PRE(Polycomb response element)が良く調べられている。その配列、長さ(数百塩基)、遺伝子からの距離は様々である。PREはほとんどヌクレオソームを含まないようである。まずPhoが結合し、PRC2-PRC1と役者が交代していくモデルが提唱されている。多くのPREではTrxも結合でき、それがPcGと拮抗的な役割を果たしているようである。

哺乳類におけるPREの存在は良くわかっていない。ただし、ES細胞ではhighly conserved noncoding element(HCNE)と名付けられた領域に特定のPcGタンパクが結合し、その周辺でH3K4me3とH3K27me3を併せ持つBivalent domainが形成されている事が示されている。Bivalent domainにはH2A.Zも多く含まれている。Bivalent domainは比較的CGIを有する遺伝子に多く見られる(約2倍のEnrichment)。Bivalant domeinの存在は必ずしもその時点での遺伝子抑制を意味しない。ES細胞ではH3K27me2はゲノム中に広範に存在しているが(50%)、H3K27me3はそれよりも少ない(15%)(H3K27me1は15%、PRC2のターゲットは10%程)。PcGと局在が相関するのはH3K27me3である。なおH3K27me1修飾を担う酵素の存在は哺乳類では明らかにされていない。PRC2のターゲットの一部のみがPRC1のターゲットとなっていて、H3K27me3の存在はPRC1のリクルートに十分ではない。ES細胞の分化に伴いBivalent domainの修飾は抑制型か活性型の一方に傾いて、抑制される場合はDNAのメチル化を伴う事が多い。ES細胞ではBivalent domainのメチル化状態は低い傾向にある。ES細胞においてEZH2はDNMT3A/Bをリクルートするがメチル化はあまり起こらないようである。哺乳類におけるPcGのリクルートメントに関しては、特定の転写因子との相互作用の他にも、ncRNAによるリクルートメントが報告されている。

PcGのターゲットが分化に際してどのように抑制の解除を受けるのか、また抑制の固定がどのようになされるのかなどは、一部のターゲット遺伝子については良く調べられているが全体像はまだ良くわかっていない。筋分化に際してMyoDや他いくつかの転写因子が協調してそのターゲットの抑制を解除する事が分かっている。この時まずプロモーターの抑制が解かれ、続いてMyoDによってリクルートされるpTEF-bによってPolIIがリン酸化されると、そこにUTXが結合して、転写と共役してGene bodyのH3K27me3修飾が外される。

PcGのターゲットにはストレスなどによって一時的に抑制が解除されるものが含まれる。ストレス応答MAPKパスウェイであるp38およびJNKパスウェイの下流分子であるMSK1/2はH3S28をリン酸化し、それによりH3K27me3修飾が転写に与える影響を抑制する。H3S28のリン酸化の有無は、H3K27me3抗体を使った実験の結果の解釈を困難にもしている。他のヒストン修飾との関連については、CBP/p300によるH3K27のアセチル化はH3K27me3修飾を抑制する事が報告されている。


  • 最終更新:2013-02-13 14:02:47

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