Torpor

哺乳類におけるTorporにはいくつかの種類がある。シベリアンハムスターやフクロミツスイの日内休眠では体温が10〜25℃程度に迄低下する。アメリカクロクマやホッキョクジリスの冬眠では体温は10℃以下に、ヤマネなどの夏眠では30℃以下に低下する。実験用マウスでも、暗期を維持して絶食させると日内休眠が誘導される。ヒトでも麻酔などを用いて32〜34℃までのhypothermiaを起こす事が出来るが、体温を28℃以下に下げるような方法では心停止などを引き起こしてしまう。現在、小動物に可逆的に顕著な体温の低下を引き起こす物質としては、2-デオキシグルコース、H2S、AMPが知られている。

温度が低下し、明るい時間帯が短くなると、シベリアンハムスターなどは日内休眠を行うようになる。この対応には視交叉上核が必要である。糖分解の阻害剤である2-デオキシグルコースを投与すると明るい環境下でも日内休眠が誘導される。一方脂肪酸の代謝を阻害しても日内休眠は誘導されない。2-デオキシグルコースが具体的にどのようにして日内休眠を誘導しているのかは明らかにされていない。

空気中のH2S濃度をある程度まで上げると、マウスの体温を15℃程度にまで下げる事ができる。H2S濃度を下げると再び活動を始める。H2Sは少なくとも6時間程度は特に害も無く一時的な体温低下を引き起こす事ができる事が報告されている。H2Sは可逆的なシトクロムcオキシダーゼ(複合体IV)の阻害剤である事が分かっている。2-デオキシグルコースとH2SはATPの産生を阻害するという点では共通している。冬眠動物においてもATPレベルは低下しており、赤血球では50%以下になっている。12時間毎に明期と暗期を交互させるLight:Dark(LD)環境に置かれたマウスに対して、Dark:Dark(DD)環境に置かれたマウスでは肝臓でProcolipaseの発現が上昇しており、かつその発現は日内変動を示していた。Procolipaseの発現を誘導するような日内変動を示す血中因子としてAMPが見つかり、更にAMPを投与されたLDマウスではProcolipaseの発現が促進され、体温の低下も起こった(25℃)。また、DDと絶食により日内休眠を誘導したマウスでは血中のAMPレベルが2〜5倍に上昇していた。

ATP+AMP⇔2ADPという反応は基本的に平衡状態にあり、そこから極端に大きくは逸脱する事は無い。AMPの増加はATPの減少を招くが、AMPの分解も促進されるようになるので、ATPが減りすぎないようになっている。AMPの主な分解経路は、IMPからInosineに、最終的に尿酸に変換して処理する経路である。他にマイナーな経路として、細胞外のCD73、あるいは細胞内のcyto 5'-nucleotidaseによってAdenosineにされ、膜外のレセプターに結合するか、あるいは細胞内に取り込まれてそこからInosine、尿酸と変換される経路がある。細胞膜上の受動的なAMPトランスポーターの存在については明らかにされていない。DDマウスではCD73の発現レベルは低下している。AMPによるProcolipaseの誘導は非特異的なトランスポーターの阻害剤によって妨げられるため、その作用機序はAMPの取り込みを介したものであると考えられる。

TorporにおいてはNAD+/NADH比とAMP/ATP比が共に増加している。これにより活性化されるSIRT1は概日リズムを制御するBMAL1の活性を抑制し、不活性な代謝レベルを持続させる事に寄与しているものと考えられる。他にもSIRT1はHIF2αの活性を上昇させて酸化ストレス耐性を上昇させたり、PPARαを活性化させて脂肪の分解に関わる遺伝子の発現を促進させる等する。PPARαのターゲット遺伝子にはFGF-21が含まれ、このホルモンの血中濃度は絶食マウスでは12時間ほどで上昇を始める。FGF-21を過剰発現させたマウスでは、血中グルコース濃度の低下/ケトン濃度の上昇や脂肪の分解促進など、Torporに類似する応答が見られる。PPARαのターゲットにはまたPTLが含まれ、この酵素は低温状態でも脂質を分解する事ができる。

  • 最終更新:2013-02-13 14:07:28

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